第3話 また夢を見る

「折角だから歩きながらでも話さない?

散歩、好きでしょ?」


そういうとクロネは付いて来るよう促して

歩きだす。



非協力的な自分が付いてこないとは

思わないのか、彼女はどんどん歩を進める。


彼女の俺の事を知っている口ぶりが気になって、結局その後を付けているのだから

彼女の思う壷なのだろうけど。




クロネ「先に補足するとね、あなたは絶対

トラブルに巻き込まれるの。」


「生命は望んで運命に進んでいく。だから

星使者のあなたが この場に留まるのなら、

ここで何かが起きる事になる。」



タクミ「拒否権は無いと…。」



クロネ「例え非協力的だったとしてもね。」



タクミ「……。」



クロネ「星ノ記憶体は忘れた記憶、忘れてしまう記憶を管理する役割。」


「とある一人の18年間、何をし何を見てきたのか、私はそれを 知っている。」



タクミ「性格や好みも筒抜けなのね…、」


おかげで考えてる事もお見通し…と

それって一体どこまで知ってい……、



クロネ「もちろん性癖とか、好きだった子の

名前とか、人には言えない事とか〜、」



タクミ「ごめんなさい。」



クロネ「それはどういう ごめんなさい?」



タクミ「い、いゃ〜初めから拒否権なんて

ないです、僕はクロネさんの言葉に従います。」



クロネ「どうしたの急に…あっ、あと何だっけ一説によれば地球ってあと数億から

数十億くらい生きるから?」


「人の寿命で換算したら?四十五歳の

アラフィフ?」



タクミ「えっ、っ…あっ、あの…、」



歩いていたクロネの足はピタリと止まり、

冷気を放つかのようなその背中は

静かな怒りを表している。




どおーしよう、俺こんなに女性を

怒らせたことない…、殺されるのかな俺。


当然だよね。人だろうが星だろうが

女性に年齢を聞く、年齢を弄る、ゼッタい

ダ メ。



クロネ「殺しませんよ?私怒ってませんから

それに、貴方は殺しても死なないでしょ?」



こちらを振り向くその顔は笑顔そのもの

だが、笑顔の底に鬼の顔が見えるようで、

丁寧な口調が更に怖さを引き立たせる。



クロネ「まぁ鬼の顔だなんて、年増 扱い

だけでなく、私の顔を弄るなんて。」



タクミ「いや〜クロネさん鬼の形相って

言葉の意味知ってるでしょ?」



この冗談は何の何?どういう心境なんだ?

というか心の声が、



クロネ「バッチリ聞こえてますよ。」



わぁ凄い。じゃあ今のも聞こえてるんですね

こんちには〜。記憶体の能力ですか…。



クロネ「私は星の記憶を閲覧、保存だけでなく介入することも出来るの。その時感じたことや

思ったこは記憶として、そして

心の声として私に伝わるんです〜。 」



そうなんですか〜怖っわ、あっ心の声は

嘘つけない。



タクミ「本当にごめんなさい、お美しいです、

この星を愛してます。生まれて良かったって

本当に思ってるんで。地球 最高。」



クロネ「ふふっ、ふふふ。」



突如として笑い出すクロネ。あー怒ると笑う

タイプの人だ。

激怒100%…、死は…避けられない…。



クロネ「ふふ、ごめんなさい。初めから怒ってなんてないの私。ちょっとからかって

見たくなって、つい。」



タクミ「それにしては感情がこもっていたように見えたんですけど…。」



クロネ「感情表現や、コミュニケーションは

得意だと思ってるの。演技を演じるのだって

そう難しいものじゃないわ。」



楽しそうに言いながら再び歩くクロネの

後ろ姿を追う。



タクミ「今のが演技なら心臓に悪すぎる。」



クロネ「本当の事だから怒ってたとしても

反論できないんですけどね。」



「ここはまだ歴史が浅くてね、四十過ぎて

ようやく夢から覚めて現実を見た…

みたいな状態なの……、ね字面にすると

ヒドイでしょ?」



気にしてない事は無いだろうが、自虐ができる

あたり事実は事実として受け止めている

らしい。



クロネ「本当に気にしてないないの。

美しいと本心から思ってくれてるもの…、

それだけで十分…いいえ それが何より嬉しい。」




タクミ「綺麗だよ…ここから見る空や星、

花や木々に、人の営みと…当たり前のように

ある景色一瞬一瞬を感じられて。」




クロネ「ならこの世界は?」


「この世界の景色はあなたの世界ゆめ程、

美しくないかもしれない…。」


「けれど、貴方にも護りたいと思ってもらえる

景色が少しでも有ると思うの…。」



懸命に語るクロネの声色には熱が篭っていて

それと同時に

少し悲しさや寂しさを感じる。



「私やシオンはこの星を守る星使者として、

貴方を説得する気持ちで

いっぱいになってる…。」



「けれどそれ以上に、私はあなたの過去を

知るものとして、凪のような日々を

送ると同時に、もう一度 夢をみて

誰かの英雄になって欲しい。」



彼女は青ノ星そのものと言える存在で…、

自分がよく知るあの地球だ、けれど今

初めて出会った存在で、

同じように彼女も俺を

よく知るけれど、こうして会うのは

初めましてで……、


ただそんな初めて会った彼女の言葉は

真っ直ぐに、長年の付き合いがある

人間の言葉かのように、

底なしかのような自分の心に温かみを

くれた。



「ふぅー。」

一呼吸し、思いの丈を言葉として吐く。


(怖いな、夢を諦めてからどんどん

臆病になってる。)


ふと自分の左手首に目を向ける。




「複雑な気持ちだよ。星を救う、そんな言葉を

聞いて胸が踊った……けど心は凄く

震えてて…。」



手のひらを握り、過去を振り返る。

かつて夢を自分の手で終わらせた手前、

未だ自分は現実と夢で迷子になっている。



「けど、好きな景色や、大切な仲間と

その思い出、それらがこの世界の

巡った先に再びある未来もの

だったとしたら…、」


「幸せと思える場所を作ってくれたキミ

に恩を返すためにも、」


きっと英雄になる事は叶わない。

決してなれない、自分はそうなのだと何処かで

確信している。

けれど奥底にある心の声を自分は

聞き逃さない ‪”‬それでも英雄になりたいと‪”‬。



「俺は英雄になる。」

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