第2話 星使者

少女は人ではなかった。

生物であることに違いないが、比べるには

あまりにも規格スケールが違い過ぎた。



タクミ「星ノ記録体…。」


星の触覚なら知っているが当然、

自分がいた世界では聞くことのない

名前だ。



タクミ「星にある情報を保管、管理する

役職ってところか?」



シオン「まぁそんなところかな。

キミと私が今 立っている世界ここって

地球ほしの体内にあたるわけだけど…、」



「身体の内側って自分の知らないところで

色んなことが起きてるでしょ?

それを知るために私が存在してるの。」





タクミ「要は地球の脳みそと内視鏡とか

顕微鏡の役割をしてるのか。」



シオン「正確には脳の一部を担ってる、ね。」


「人型サイズの私に、星の情報

全部 流し込んだりしたら、死んじゃうよ。」



となると同じ記録体とやらが複数人 存在しているか、脳として、ではなく体内を視る目

としての役割が強いのか……、

星の目…いや星ノ瞳ってところかな。



タクミ「死の概念があるんだな。」



シオン「そりゃあね。私も生きてる訳だし。」


「ただ私は星使者せいししゃだから

普通の生命とは生死の決まりが違うの。」



タクミ「新しい単語が…、星使者?」



シオン「星に仕えるのもの、星から生まれ

特別な役割を授けられる存在のこと。」


「星使者は役割を終えるまで何があっても

死なないけど、役割を果たしたら

その先は絶対に無い。役目は百年あれば

大体果たせるから…、」




タクミ「人と寿命は変わらないな。」




シオン「不慮の事故や病がない分、百年近く

生きることは可能だけど…、

役目と自分の幸せが同じかはまた別の話し。」



それはそうだ。

使命と言うのは大概 重荷である。

重荷を背負って笑える者なんて…聖人と言えど

難しい話だ。





タクミ「やりたい事や、やるべき事が解るのは

俺のいた世界じゃありがたい話しだけどな。」





シオン「そうだね。己を理解することは

とても大事なことだ。」



「ただ星使者にはその知識と、自覚が無いまま

生まれてくる者もいるから、

特別な役目を持つものが、特別な存在になれるかどうかは分からない。」




それもその通りだ。

特別な人間も、大抵が一般から成り上がった

人達ばかり、努力と信頼なくして

特別な存在として扱われることはまず無い。




タクミ「お前はどうなんだ?」



シオン「私?もちろん私は特別だからね。

この地球ほしが死ぬまで不死身だよ。」




タクミ「特別がどうこうの話しを台無しに

したな。」



シオン「私、特別ですから。」



フンッと鼻で笑い誇っているシオン。

彼女のドヤ顔には拳を決めたくなる魅力が

秘められていた。

殴りたい…、

まぁそんなことは置いといて。



タクミ「そういえば、お前の素性だけ聞いて

まだ俺の現状についての説明がない。」



シオン「んーようやく本題に入れるね。

あとシオンね、シ オ ン、それかシオンさん。

名称は大事、後 年上は敬うべきでしょ?」




タクミ「確かに四十五億 歳の高齢者の方は

敬わないと…。」



シオン「はー?高齢者って、私まだ四十五億

しか生きてないんですけど?」




タクミ「えー…でも…」



シオン「なに?」



一説によると地球ってあと数億から

数十億くらいは生きるんでしょ?

ってことは……、



タクミ「いや何でもない、シオン話しを

続けてくれ。」



シオン「いい?星は生命の生みの親、

拡大解釈ではあるけど、一応キミの母親

でもあるんだからね?敬意を持ちなさい。」




タクミ「あっ、あーやめてー、

親に親ずらされると殺意湧いちゃーう。」




なるほど、苛立ちの正体はこれか…。

顔も声も性格も、似てないけど

母親の面影を感じる…。

おそらく全生命がシオンを親のように

感じるんだな。

まぁ拡大解釈だけど「地球」だもんなコイツ。



シオン「えっ!?親が嫌い?」




タクミ「嫌いだよ。

あとお前が母親だと、親の胸 見て

喜んでたことになるから嫌。」



シオン「えー?わたしの胸みてたんだ?

へぇ〜、性的欲求はちゃんと機能してるのね。」




タクミ「茶化さないでー話しを戻しませ〜ん?」




シオン「そうね、とりあえずお前は

いやだからシオンね?」



タクミ「わかった。」




シオン「それじゃ話しを戻すけど、先ずは

星の夢について。」


「結論から言うと君と君がいた世界は

この世に存在しない。」




「全てはこの地球ほしが見る夢という名の

仮想空間。

もしあの時こうしていたらという妄想…、

この先はどうなるだろうという予想

或いは予知。」



「目が覚めれば泡沫と消え、忘れられて

しまう……、君はそんな世界に住む、

空想のキャラクター、つまり夢人だ。」



自分のいた世界が全て地球の妄想であると…。

だとすると本当に凄い妄想力だ、

改めて人と比較にすらならないスケールの

大きさだ。




シオン「では何故、存在しないはず

君がここにいるのか…。」



「夢人が現界した。

それは近いうちに、

今の人類では解決できない問題が起こる、

ということの示唆。」


「君はその問題に対処する或いは

解決するための一手として役割を与えられた。」



タクミ「その説明だと、星使者

みたいだな。」



シオン「架空の存在である

君の十八年の記録にくたい

記憶せいしんを瞬時に作るのであれば、

それは両親ではなく星自ら行う他、再現は

できない。間違いなく君は星使者だ。」



自分は「夢人」というカテゴリにいる

星使者になるらしい。


特別な存在に憧れない事は無いが、素直に

信じ、喜べる性格でも無いので是非とも

その役割とやらを放棄させて頂きたい。



シオン「人から生まれながら、星の子として

誕生した君は、この世界で特別な存在に

ならなければならない。」






「凪星 拓海、どうか この星を救って欲しい。」



------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



心の波が揺れている。海の奥底で泡を吐く

一人の少年が…、必死に心で叫んでいる。


(誰かを救いたい…人を…救える英雄に。)



誰かを救いたい少年、けれどその姿は

救いを求めてるようで…、

溺れて下へと沈んでいく。



(あぁ肺に水が溜まっている、僕はあの少年を

助けなきゃいけないのに……。)




少年「救う なんて俺には出来ない。」




星使者「どうして?まだ具体的なことも

話してないでしょ?」




少年「星を救う前に…、まず俺が自分を

救えてない。」


「それに、俺は誰一人救ったことがない。

人を救えない奴が星を救うなんて

到底無理な話しだ。」




星使者「とは言っても代役なんて

存在しないしなぁー。変わりが存在するなら

君は存在しない訳だし…。」




少年が叫んでいる。 「救いたいと言え」

その思いは口にして良い、

君は誰かを救う人になって良い。




けれどそれを自分が許さない。




少年「例えそうでも、ここには居場所も

生きる意味もない。」



護りたい、救いたいと願える世界は

ただの夢だった。

俺はあの世界ユメを捨てられない。

この世界現実と向き合えない。




シオン「これは手強いな…、仕方ない意識が

無くなるから使いたくないんだけど…」



そう呟いて瞳を閉じるシオン。

瞬間、彼女は淡く青白い光を纏い、

濃い青をした薄明色の髪と、

服も黒と青を基調とした物に変わっている。




シオン?「………。」




瞼を開けたシオン?はまるで今目が覚めた

かのように欠伸を手でおさえたあと

目をこすっている。

やがて意識がハッキリしたのか、

自分の存在に気づき小さく含羞はにかむ。



その姿は朝が夜に変わったかのように、

落ち着きと静けさを感じさせる雰囲気だった。



シオン?「おはようございます。

恥ずかしいところを見せてごめんなさい。」



タクミ「シオン…じゃないよな?」



クロネ「私はクロネ・アース、星ノ記憶体。

姉に呼ばれてあなたのもとに…。」



「私とお話し、してくれますか?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る