第4話 人と妖精

クロネ「ありがとう。私とシオンが貴方を

サポートする、貴方は貴方の心のままに。」



タクミ「だいぶ足踏みしちゃった、ごめん。」



クロネ「いいえ、じゃあ本題に入るけど

私とシオン、どっちの説明聞く?」




タクミ「いいよそのままで、

クロネ話しやすいし。」


会話のノリに慣れ親しんだものを感じるし、

過去を知るクロネとは共通の認識が

行えるのも実に話しやすい。



クロネ「人って心を見透かされると気味悪がる

人が多い気がするけど…」



タクミ「何でもお見通しな母親感はちょっと

あるけど…まぁ心地良いよ」



クロネ「そう、嬉しいわ。

それで本題に入るにあったって

見てもらいたい事があるのだけど。」



散歩の誘いはこっちの気を引くと同時に

目的の場所への誘導でもあったらしい。



タクミ「あの森の先?」



最初にいた位置から1kmと少し歩いて、

今のところ眼前には2、3km先に大きな森林が

広がっている。



クロネ「シオンの記録だと目的は森の中みたい…ただ夜の森は危険だし、魔物も出るんだけど。」



タクミ「おぉファンタジー、魔法とかも

あるの?」



クロネ「ある。魔物は動物の延長線上というか、変異種に近いから神秘的生物っていう感じ

じゃないけど。」


「これから向かう それは魔物や魔力の

要因となってるもので、この時代の今一番の

問題もそれなの。」



魔法というのは創作の世界で世界の根底に

あるもの、或いは歴史を動かす強大な力の源。

世界の危機と呼ばれるくらいだ、やはり

原因も大きなものに違いない。


タクミ「じゃあ進もうか。」


クロネ「魔物は私が何とかする。あまり離れ

ないでね。」



タクミ「頼む、まぁ死ぬことは無いんだし

最悪 素手で何とか…なるの?魔物って

俺でも倒せる?」


クロネ「はい、これ、一応護身用として。」


そう言われて刃渡り十五センチ程のナイフを

クロネに渡され森の中へと進んだ。



クロネ「あと星使者は死に慣れると

死に癖がついて廃人として実質的に死ぬから

命は大事にね。」



タクミ「えっ?」


ついでの扱いでとんでもない事を言われた。



「死なないのに死ぬの?」



クロネ「星使者は死の運命

から回避するように事が運ぶ、と言う意味合い

での不死なの。」


「それでも何か身体に大きな損傷が見られた

場合、自動的に蘇生されるけれど…」


「何度も繰り返すと、死因に繋がるショックを

受けた場合、脳がダメージを抑えるために

事前に気絶スリープして、そのまま

の状態になる。」



意識が目覚めないのに、生きてるものとして

カウントされて永遠の眠り姫に…。


病や初見殺しを防ぐ最低限の星からの処置、

そういう認識で無いと

すぐにゲームオーバーを迎えそうだ。


せめて魔法が使えたら

多少なりとも身を守れるのだけど…。



タクミ「俺にも魔法って使える?」



クロネ「分からない。あなたは今 夢と現実の

狭間にいるような曖昧な存在だから…。」


「使えるように、明日から修行しましょ。」



やったー、明日が楽しみだ。

魔法の基礎とか歴史とか色々知れるだろうし、

ワクワクする。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


クロネ「そろそろ着く。」



ここまで魔物や動物に遭遇することなく

歩いてきたが、今のところは静かな森という

印象だ。


クロネが足を止めその横に並ぶと、茂みの少し先に魔物であろう生物を

抱える一人の女性がいた。


「彼女が?」


クロネは小さく頷くと「見てて」とだけ言い

視線を女性がいる方へと戻した。



女性が抱える生物は特徴はシカと変わらない

見た目をしているが、細長い尻尾と

何より特徴的な大きな翼を生やし、魔物と

言っていい姿をしていた。


ただその魔物…、仮に魔物鹿マノシカ

呼称するがマノシカは

目が開いたまま痙攣をし、ぐったりとした

様子。



女性「ほらしっかり。折角綺麗な翼が生えたんですもの、その痛みと共に、空を飛ぶ喜びを

知りなさい。」



彼女がそういうと魔物鹿は立ち上がり

ふらふらと中に浮き森の奥へと

飛んで行った。




「行きましょ。」

一部始終を見終え、早々に

立ち去るクロネのあとを追い先程の

光景について説明を求める。



「解説を所望します。」



「彼女は妖精。生命を豊かにし、感情を与える

役目を持つ星使者。

この時代の問題の渦中にいる種族。」



妖精、これまたファンタジーな種族だ。

そうか感情を与える……、



クロネ「察しが良くて助かる。」



タクミ「何が問題なのかはわかったけど、

生命を豊かにするっていうのは?」



クロネ「マナやオドって聞いたことあるでしょ?」


タクミ「あー何だっけ…力の源的なやつ

だよね確か。」



クロネ「無色透明、人や自然に付着している

実態の無い力の概念。」


「マナやオドは魔法の元である

原子を生み出す力のことね。」



その後さらに詳しく聞いたが、


マナは情報を通して色を変えるらしく、

その変色したマナをオド、と言い

オドが起こす事象を魔法、魔術と言うらしい。



難しい話しなので頭の中で整理しよう。


1、マナから過程を経てオドになる。


2、オドから粒子…、原子が生まれる。


3、沢山の粒子が魔法を作る。



4、魔法=物質、物理法則、この世界の事象全て


5、魔術=魔法を人や生命が扱うこと



つまり歩いたり息をするだけでそれは

魔法だし化学は立派な魔術という事だ。




話しの流れからして、それら全ての根源たる

魔力マナを、操る権限を妖精達は有している

という事になる。


飛び去った魔物鹿も、先程クロネが言った

ようにシカが妖精の魔力によって変異した

個体のようだ。



クロネ「さっきの様子を見るに、シカの痙攣は

妖精の血を摂取したからでしょう。」


「魔力を豊富に持つ妖精の血は細胞を大きく

変化させるから…、最悪 死んでいたでしょうけど彼女がそうさせなかったんでしょう。」



タクミ「翼を生やした理由は何でだろ…」



クロネ「彼女達の目的は生命の維持と進化、

だからあの鹿には必要なものだったんでしょう」



そう聞くと、生命のため、星のため

命を育み進化を目指し模索する

良い種族なのだが…、まぁ人間相手だと

そう上手くはいかないだろうな。



クロネ「そうね、実際、人が妖精を嫌って

戦争間近っていう状況。

この時代に 星使者として呼ばれるなら…」



タクミ「まさか戦争を止めろと!?」



クロネ「流石にそんなムチャは無い…と

思うんだけど、」


歯切れの悪いセリフにそんなムチャを

やらされるのではと不安になる。


(でも星を救うって、そういうムチャをやれってことだよな…)


戦場で歴戦の猛者なんかに出会ったら…、

廃人にならんように、お祈りしながら

コンテニュー戦法でやるしかない?



クロネ「するしか無い…かも。ごめんなさい

シオンなら人の運命も、情報として

見れるのだけど…。」



存在しない人物の結末を知ることは

できないと…、分かっているのは世界を救う

という抽象的な目的だけ。



すべき事が分からない以上、やるべきことは

何もしないか、目的を作るかだ。

この森や自然の中でのびのびと過ごし、

‪”‬逃れられない運命‪”‬とやらを待つのも手だが…



クロネ「この時代の現状を把握するためにも

先ずは王都であるリーセイを目指しましょう。」



「ここからリーセイまで60kmくらい

歩く事になるけど、問題ない?」



タクミ「長めの散歩だと思えば平気よ。」



世界の構造と、時代の背景の一部を知り、

更には目先の目的も決まった。

こうして道中険しい妖精樹海フェアルを抜ける旅が始まった。

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