第25話 あれ
「――――なっ!?」
頭を吹き飛ばした。
確実に粉砕した。
だが、すぐさま黒い肉が湧き立ち再生する。
――
―― ♂♂♂♂♂ ♂♂♂♂♂ ♂♂♂♂♂ ♂♂♂×× ××××× ――
く……っ!!
この剣、確かに大きくて強力だが、〝それは
どうする。もう一度金棒で殴るか?
いや、無策で攻撃したって同じことだ。もっと頭を使わないと。
「レグルスくんッ!!」
「んじゃ、いっくよぉおおおおおおおおおお!!」
アトリアとメルガの声に、視線を落とした。
そこにいたのは、メルガの腕を掴むアトリアの姿。
〈
「そういうことか……!!」
二人の意思を汲み取り、僕は金棒を構えた。
あの黒い肉はたいして硬くない。
だから、必要なのはメルガが耐えられるギリギリの威力。一度彼女の鎧を粉砕したから、力の加減はできる。
「頼む、メルガ!」
【重騎士】――メルガ・ボルガ。
自身の防具を超強化するスキル〈鋼鉄の祝福〉を持つ彼女だからこそ可能な戦法。
僕は金棒を振り、眼前の敵目掛けてメルガを打ち込む。
その身体は一瞬で敵の体内奥深くへ到達し、そこで受けた衝撃を跳ね返す〈城壁返し〉が発動。――魔物は内側から弾け、ミラが姿を現した。
「ミラぁああああああ!!」
思い切り手を伸ばし、ミラを掴み取った。
しかし黒い肉はしつこく、彼女を奪還しようと〝
この執着具合、間違いない。
ミラがないと、生命活動を維持できないのだろう。
「あっ! いやっ、レグルス……!!」
黒い肉を潤滑油のようにして、指の隙間からミラを奪い去った。
遠ざかる彼女の背中。
零れる涙と、悲痛な声。
もう一度手を伸ばすが、ほんの数ミリ届かない。
――その時だった。
「坊ちゃま、今です」
〈ブラインドスポット〉――対象の死角に転移する、【暗殺者】のスキル。
ミラの背後に転移したミモザは、片手で彼女の腕を掴み、もう片方の手で〝
「ありがとう、ミモザ!!」
すぐさま、二人を遠くへ投げ飛ばす。
ミラを追う触手。
それを腕で払い除け、踏みつけ、蹴飛ばし。
「――これで」
両手で金棒の柄を握り。
高く、高く、振り上げた。
中にミラがいない以上、もう手加減の必要はない。
「終わりだぁああああああああああああああああああ――――ッ!!!!」
大地を割る、渾身の一撃。
禍々しい黒い肉は跡形もなく消し飛び。
あとには、一日の終わりを告げる夕焼け色の空が広がっていた。
―― Congratulations ――
―― 〈抜刀〉レベルアップ ――
―― 〈抜刀〉Lv.04→Lv.05 ――
――
―― ××××× ××××× ××××× ××××× ××××× ××××× ――
◆
ということで、後日談。
[竜の牙]のボス――【魔物喰らい】ミラ・ミレニアムの暴走。
それより、アジトのある街は壊滅。
また、魔物売買の疑いなど余罪多数……。
大変な状況だが、結論から言って、全て不問に付してもらった。
「全部見なかったことにしろって、いやいや、流石にそれは。……まあでも、あの魔物を倒したのも、結果的にローグローズを救ったのも坊主だからなぁ。人死にも出てないし……うーん、わかった。国の方には、俺から上手いこと言っとく」
アランが作ったシナリオはこうだ。
突如、超巨大な魔物が出現。
僕たちと[竜の牙]の共同作戦によって、これを撃破。
無事この国は、未曽有の脅威から守られました……っと、そんな具合だ。
幸い[竜の牙]の中で、ミラが事件を引き起こした張本人だと知るのは極僅か。
彼らにとっても、自分たちの組織に法の裁きが下るのは面白くない。また、ミラに対し返し切れない恩があるため、口を噤むことを約束してくれた。
唯一被害をこうむったアジトのある街だが、[竜の牙]が復興資金を全額出すらしい。
元より住民は、[竜の牙]のメンバーの家族、その事業の関係者ばかり。こっちも大きな問題にはならないだろう。
「ただまぁ、[竜の牙]をこのままにしとくってのもなぁ。また何やらかすかわからねぇし……えっ? ぼ、坊主が入るのか? そういうことなら……うーん、よしわかった。あとは任せるぜ」
ミラが正気を取り戻しても、[竜の牙]が暴力性を孕んだ組織であることは変わらない。
彼女一人に背負わるわけにもいかないため、僕、アトリア、ミモザ、メルガの四人が加入することにした。何ができるかはわからないが、バドーを始めとした幹部連中の意識改革を行えば、少しずつでもクリーンな組織に変わってゆくだろう。
他にも僕にSランク冒険者の称号が授与されたり、おち○ぽ一門の門下生の数が三桁を突破したり、国王から呼び出しがかかったりと色々あったが――……。
「じゃあ、今日はお疲れ様会ってことで。乾杯っ!」
ミラの暴走から一週間後。
諸々の面倒事が一応ひと区切りついたところで、僕とアトリア、ミモザ、メルガ、そしてミラを加えた五人で食事を囲った。
場所はローズローグ郊外に建つ、一軒の豪邸。
ミラの持ち物で、たまの休暇をここで過ごしていたらしい。巨大組織のトップは、羽振りの良さが違う。
「おぉー! ミモザさんの手料理、相変わらず美味しいねぇー!」
「こ、これ全部、ミモザさんが作ったの……!? すごい……!」
「ありがとうございます、アトリア様、メルガ様。ささっ、ミラ様もどうぞ。お口に合わないようでしたら、すぐに別のものをご用意いたしますが」
「あっ……いや、美味しいわよ。本当に、すっごく……」
魔物しか食べられないミラのため、ミモザは魔物の肉で料理を作った。
調味料や野菜など、少量であれば食べても問題ないようで、見た目は僕たちの前に並ぶ料理と大差がない。魔物の毒素の関係上、味見ができなかったのにも関わらず味もバッチリのようだ。流石は僕の専属メイド、何でもやってのける。
ただ、ミラの表情は優れない。
「何度も言うけど、また何かあった時は僕が助けるから。あんまり気にするのは、身体にもよくないよ」
「……ありがと。そ、そうね。せっかく用意してくれたんですもの、食べなきゃ悪いわよね」
うんうんと頷いて、食事にがっつく。
使用した魔物は低級のもの。
ドラゴン等の強力な魔物を食べなければ、しばらくは何ともないだろう。
「何か……料理もそうだけど、本当に色々ありがとう。アタシなんかのために、たくさん迷惑かけちゃって……」
「なんか、とか言わないでよ。僕がやりたくてやってるだけだから」
「ミラさんも、レグルス君のお嫁さんになるんでしょ? お嫁さん仲間として、できることは何でもやっちゃうよ!」
「お、お嫁さん!? アタシが!?」
「えっ、違うの?」
赤黒い髪を振り乱し、動揺するミラ。
アトリアは黄金の瞳をぱちくりと瞬かせて、呆けた表情を作る。
「い、いや、アタシは別に……そりゃまあ、レグルスのことは格好いいって思うけど? あんなに一生懸命助けてくれて、すごく嬉しかったけど? でもだからって、好きとかそういうのじゃ……」
「そうだよ、アトリア。ミラにはミラの人生があるんだ。勝手に決めつけちゃダメだ」
アトリアを諭すと、なぜかミラがチラリと僕を見て、悲しそうに視線を伏せた。
な、何だ?
僕、まずいこと言ったか?
「坊ちゃま、今のは0点です。ミラ様は坊ちゃまのことを好いていますが、正気を失い襲った上、その後始末までさせてしまったことを気にされています。それゆえ、申し訳なくて好意を出せない。……ですから坊ちゃまはそれを察し、男らしくガバッと抱き締めズボッと突っ込むべきです」
「こ、このメイド、勝手なことを言わないでくれる!? ほ、本当にアタシは! アタシは……その、好きとかそういうのじゃない……ことも、な、なくって……」
頬を焼いてモジモジとするミラ。
それを見て、メルガはハッと目を見開く。
「こ、これ! これを……ど、どうぞ……!」
「……ん? え、なにこれ?」
「穴あきの下着で……そ、その、この穴の先には、素敵な未来が広がってるから……! これ着たら、素直になれるかもっ!」
メルガは恥ずかしそうにしつつも、自信たっぷりに鼻息を漏らす。
そんな彼女を見上げ、ミラは困ったように眉を寄せる。
「えーっと……もしかしてあなた、もう酔ってる?」
「あっ……! 安心して、ちゃ、ちゃんと新品だから……!」
「そんなことは聞いてない――ってか、何で新品のこんな下着持ち歩いてるのよ!?」
「ミラ様、ついでに坊ちゃまの使用済み下着もどうぞ」
「何で使用済みの下着を持ち歩いてるのよ!?」
「えっ? ミラさんは持ち歩かないの? 変わってるなぁ」
「アタシがおかしいの!? もしかして、また魔物のせいで頭よく回ってなくて、一般常識忘れちゃってる……!? ……じゃあ、一応それももらっておくわね……」
よくわからないが、四人がワイワイと楽しそうにしていて僕も嬉しい。
賑やかな彼女らを眺めつつ、ミモザの食事に舌鼓を打つ。
「……あ、あの、レグルス……」
「ん? どうしたの?」
ミラはギュッと下着を握り締め、軽く唇を噛む。
アトリアたちに見守られながら、そっと口を開く。
「まあ、その……アタシ、あなたに命を救ってもらったわけだし? 何より、お姉ちゃんだし? だから……レグルスがアタシのことが必要っていうなら、一緒にいてもいいって……お、思ったりして……」
余裕なさげな顔で言って、フンと鼻を鳴らした。
精一杯お姉さんとして振る舞う様に、立派な女性だなと思いつつ、しかしまた壊れてしまわないかと心配になる。……僕がそばにいてあげないと。
「ありがとう、ミラ。じゃあ、ずっと僕のそばにいてよ。君がいないと、僕、すごく困るから」
「そ、そう? ふーん、そうなの。じゃあ仕方ないわね!」
ふよんと大きな胸を張って、得意そうに笑った。
嬉しそうなその表情に、僕も自然と頬が綻ぶ。
「しかし坊ちゃま、こうも〈抜刀〉のレベルが上がってしまうと、またすぐに別の誰かを加えないといけなくなりそうですね」
「そうだね。みんなからもっと効率的に、沢山のエネルギーを吸収できたらいいんだけど……」
現在の
ミラが加わってくれて、ようやく満タンになる計算。
またレベルが上がり、上限もあがったら、頼らなければいけない人数が増えてしまう。これでは、いつまで経っても落ち着く暇がない。
「そのことだけど……」
ポツリと、ミラがこぼした。
「【おち〇ぽチャンバラマスター】について色々教わったり、調べたりしてて……どうも先代たちは、パートナーと絆を深めることで一人から得られるエネルギー量を増やしていたみたいなの」
「絆を深める? 僕たちもう十分に仲良しだと思うけど、これ以上どうすればいいの?」
「そ、それは……えーっと、その……あ、あれよ……っ!」
「「「「あれ?」」」」
僕たち全員の声が重なり、ジッとミラに注目する。
彼女はビクッと身体を震わせ、赤黒い瞳を右へ左へ動かして、躊躇いながらそっと唇を開く。
「――……え、えっち」
――――――――――――――――――
◆簡単なヒロイン紹介◆
ミラ・ミレニアム
ワインレッドの髪と瞳の【魔物喰らい】。身長182cm。ずっとお姉ちゃんとして生きてきたため、とても責任感が強く素直になるのが苦手。いわゆるツンデレ。貴重な常識人。レグルスのことが好きで、おっぱいがとても大きい。
次回より、本当のラストバトル(5P)です。
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よろしくお願いいたします。
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