第24話 俺の剣を持って行け

 

「ここは……?」


 気がつくと、僕は真っ白な空間に立っていた。


 床も天井も真っ白。

 壁はなく、どこまでも広い。


「よっ! 久しぶりだな!」


「うわっ!?」


 気配もなく、突然誰かに肩を叩かれた。

 振り返ったそこにいたのは、いつか見た――初めて〈抜刀〉を発動した時に見た、黒い影。前は七人いたのに、今日は一人しかいない。


「どうだ? 【おち○ぽチャンバラマスター】には慣れ――」


「今すぐ僕をここから出せ! ミラを助けなくちゃいけないんだ!」


「うぉっ! お、落ち着けよ。大丈夫だって、気にするな」


「気にしないわけがないだろバカ!!」


「バカって、お、お前なぁ。先輩に向かってそれはないだろ……。いいから安心しろ。ここはお前の頭の中の世界。どれだけ喋っても、現実あっちの方で時間は流れねえよ」


 力を抜けと言うように、ポンポンと何度か僕の肩を叩いた。


 時間は流れない?

 ……あぁ、確か前もそうだったな。

 話し掛けられたけど、現実じゃ一秒も経ってなかったっけ。


「……あなたは、先代の【おち○ぽチャンバラマスター】なの? 本物の七星剣の英雄?」


「本物……かどうかは、ぶっちゃけ微妙なとこだなぁ。俺自身、確かに病気で死んだんだよ。でも、なぜかお前の前にいる。この俺が何なのかは説明が難しいな」


「これも、【おち○ぽチャンバラマスター】の力だと……?」


「だろうなー。意味わかんねえふざけたジョブだし。マジで何でもいいから普通のジョブがよかったぜ……」


 ブンブン、と僕は首肯した。


 同じ苦しみ、同じ悩みを味わったひとが、今目の前にいる。

 伝説の英雄と会えたことより、そっちの方がずっと嬉しい。


「……にしても、【魔物喰らい】か。これも因果ってやつかねぇ」


「知ってるの!?」


「俺たちも倒したんだ。最終的にバカみたいにデケー魔物になってよ。街も何もかもぶっ壊して……あの時はマジで苦労した。んで、後悔した」


「後悔……?」


「俺らが倒した【魔物喰らい】は、破壊だとか殺戮は望んでなかったんだ。ただ幸せに生きたかっただけの、何でもない女の子。……でも魔物に飲まれて、最終的に殺す以外の選択肢がなかった」


「じゃあ、ミラも……」


「いんや、今回はちょいと事情が違う。お前、一回あの子から魔物を引き剥がしただろ? 俺たちの時は完全に同化してたから殺すしかなかったが、あの子はまだ間に合う。ファインプレーだったぜ、後輩」


 その時だった。

 黒い影の中に、ふっと小さな光が湧く。


「八人目の【おち○ぽチャンバラマスター】――レグルス・エーデルライト、俺の剣を持って行け」


 その光は段々と大きくなり、そそり立つ。


「あのデカブツを相手にするには、お前の剣じゃ力が足りない。同じくらい、デカいのをぶつけないとな」


 デカい……あまりにも立派な、太い光の柱。

 僕はそれを見上げて、少しずつ根元の方へ視線を落とす。


「俺の剣って……あの、これ、僕が触って抜かなくちゃいけない感じ?」


「んー……まあ、そうなるな」


「でもこれ、あなたの……お、おち○ぽだよね?」


「仕方ないだろ。俺たちのジョブを言ってみろ」


「……【おち○ぽチャンバラマスター】」


「そう、【おち○ぽチャンバラマスター】だ。剣を鞘から抜く時、何か疑問に思うか? 俺たちにとっての剣はおち○ぽ、だったらそいつを抜くことには何の疑問も矛盾もない」


「……」


「あのさぁ、被害者みたいな面してるけど、俺だって死んでから自分のおち○ぽを他人に託すことになるとか思わなかったんだぜ。わざわざそそり立たせてる、こっちの気持ちも考えろよ」


「何かごめん……」


 謝りつつ、躊躇いつつ、そっとその光に触れた。


 ――瞬間、頭の中にその剣の銘が、彼の戦場での疾走が流れ込む。


 華々しい戦いの数々。

 凄惨な血と肉の記憶。

 鋼の躍動。


 これならきっと、僕は負けない。

 光が脈打つのと同時に、身体の中で自信が湧き立つ。


「いずれお前には、残り六振りのおち○ぽが宿る。――まっ、頑張れよ後輩。応援してるから」


 その声に頷いて。

 静かに、彼のおち○ぽを引き抜いた。


 同時に白い空間は、彼の黒い影ごと光の中へ収束していく。



「――顕現い」



 星空を束ねたような光の海が、僕の身体を飲み込んだ。

 それは膨張し、拡散し、炸裂し、巨大なヒト型へと変形する。


 僕の新たな剣。



 ――その銘は。



「〝白液散華びゃくえきさんか肉棒凶王にくぼうきょうおう〟――――ッ!!」




 ◆




「ぼ、坊ちゃま……!?」


 〈抜刀〉発動。

 しかし現れたのは、〝それは果てなき願いと希ペニスカリバー望の剣〟ではなかった。


 あれは、東洋風の甲冑。

 白と黒で構成された、シンプルなデザイン。


 ――だが、とにかくデカい。


「おんわぁー!! おっきぃー!!」


「れ、レグルスくん、しゅごい……!」


 あんぐりと口を開けて、それを見上げるアトリア様とメルガ様。

 二十メートル……いや、三十メートルはある。この中にいるのか、坊ちゃまは。



 グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッ!!



 いまだかつて経験したことのない、全身の骨が軋むほどの咆哮。

 ミラ様を飲み込む、あのドラゴンもどきの叫び声。


 あまりにも長く太い尻尾を持ち上げ、大地を削り取りながら街の家々を薙ぎ払う。

 着実にこちらへ迫ってくる攻撃。すぐさまメルガ様は、私とアトリア様を抱き寄せ衝撃に備えた。


「やめろぉおおおおおおおお――ッ!!」


 坊ちゃまの声だった。


 巨大な甲冑が動き出し、迫る尻尾を掴み受け止めた。

 そのまま引き千切り、握り潰し――ドラゴンもどきを殴り飛ばす。


 轟音。

 激震。

 一陣の風が、砂埃を絡め取る。


「――すぐに助けに行くよ、ミラ」


 ……うっへぇ、カッコよ。やっべ。

 んっ……い、いぐぅっ!! んごぉおお!!




 ◆




 僕を包む、鋼の塊。


 この超巨大な鎧自体が、一振りの剣。

 七星剣の英雄が実際に振るい世界を救った、伝説の武器。


「待ってろよ、ミラ……!!」


 初めて使うのに、頭の先からつま先まで、実際の自分の身体の如くスムーズに動く。こうすればいい、ああすればいいと、魂が教えてくれる。


 ――今の僕なら、絶対に負けない!


「いっけぇええええええええええええええええええええ!!」


 腰に携えた巨大な金棒を持ち上げ、力の限り振り下ろす。

 その風圧で雲が散り、大気が鳴き、周囲の木々が波打つ。


 魔物は触手を伸ばしてガードするも、その肉は造作もなく吹き飛び――。



 グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!



 歪で醜い頭部は、けたたましい断末魔と共に弾けた。





――――――――――――――――――

 あとがき


 この作品を書き始めてから、絶対にいつかやろうと決めていた巨大おち○ぽバトルです。書きたかったシーンが書けて、何か肩の荷が下りた感じです。


 面白かったら、レビュー等で応援して頂けると執筆の励みになります。

 よろしくお願いいたします。

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