第16話 エロ下着で、夢を叶える!!


 翌日。


 諸々の手続きのため、レグルスくんは一人冒険者ギルドへ。

 わたしとアトリアさんとミモザさんの三人は、わたしの新しい鎧の注文へ向かい、そのあとレストランで昼食をとった。


「美味しかったねー! 次はどこ行く? メルガさん、どっか楽しいとことか知ってる?」


「ふぇっ!? え、えっとえっと……こ、公園とか? わたしよく、そこで鳥にエサあげてて……あっ、でもこんなの楽しくないか……」


「いいじゃん、公園! 行こいこー!」


 あっ、あっ、うわぁああ……!

 アトリアさん、本当にいいひとだぁ……!


 笑顔が素敵で、常に元気で。

 髪も艶々で、すごく可愛くて。

 そんでもって、ジョブが【聖女】。


 ……そりゃあ、レグルスくんもお嫁さんにしたいって思うよね。


「ミモザさんもそれでいいよね?」


 黄金の髪を揺らしながら、ニパッと向日葵のように笑って見せた。


「公園……ですか」


 と、ミモザさんは涼し気な声を鳴らした。


 アトリアさんが朝なら、このひとは夜。

 わたしと同い年なのに、すっごく大人っぽくて憧れてしまう。


 ……ただ無表情なせいで、ちょっと怖いんだよなぁ。

 わたしのこと、本当は嫌いだったりしないかな……全然あり得る……。


「実は私、お二人と行きたいところがありまして。公園はそのあとでもよろしいでしょうか?」


「行きたいとこ? 何か欲しいものでもあるの?」


「エロ下着です」


 ……は?


 訳がわからず困惑するわたしを、ミモザさんはジッと見つめた。

 そして、薄い唇を開いて、


「エロ下着です」


 ……いや、あ、あの。

 別に聞こえてなかったわけじゃないんだけど……。


「エロ下着ってなに? 具体的にどういうの?」


「透けていたり紐だったり穴が空いていたりと、そういった特徴があります」


「うひゃー、やらしぃ。そんなの着ちゃったら、レグルス君ってば、見ただけで武太血ぶったちゲージ満タンになっちゃうね♡」


「今後の修行に大いに役立つでしょう。ではお二人とも、参りますよ」


「えっ!? わ、わた、わたしも……!?」


 困惑するわたしに、「当然です」とすぐさま言い放つ。

 そして、何の疑問もなく歩き出すアトリアさん。一人取り残されたかけたわたしは、「ま、待ってぇ……!」とそのあとを追った。




 ◆




「……」


 来てすぐに後悔した。


 煌びやかな店内。

 キラキラな下着と、それを選ぶキラキラなひとたち。


 対してわたしは、デーンとただデカいだけのモブい女。


 ……場違いだ。

 ここはわたしの来ていい場所じゃない。


「見てみて、メルガさん! これすごくない!? えっちぃよね!?」


「えっ……あ、は、はぃ……」


「これもいいよねー! ねねっ、この赤いのと白いのどっちがいい?」


「えーっと……は、ははー……どっちかなぁ……」


 わたしのことを気遣ってか、それともただの天然か、アトリアさんが熱心に話し掛けてくれる。


 ……その気持ちは嬉しいけど、同時に痛い。

 情けなくて、ただのデカい柱でしかない自分が悲しくなる。


「うーん……決めた! あたし、これ買ってこよーっと!」


 シュタタと会計へ向かう背中を見つめ、わたしはため息をついた。

 店を出よう。このままいたって邪魔になるだけだし……。



「――逃げるのですか」



 と、聞き知った冷たい声が背中に刺さる。


 振り返ると、そこにはミモザさんがいた。

 彼女は下着だけでなく、アイマスクやさるぐつわ、鞭や麻縄といったアイテムを手に、見惚れてしまうような美しい立ち姿を披露していた。


「に、逃げ、る……?」


「エロ下着から逃げるのかと、そう申しているのです」


「っ!?」


 ミモザさんの迫力が凄まじくて思わず息を飲んだが、エロ下着から逃げるって何だ?


「だって……わたしには、に、似合わないし……。どうせレグルスくんを、ガッカリさせちゃうだけだから……」


「メルガ様は魅力的ですし、坊ちゃまも何度もそうおっしゃっています。そこにエロ下着が加われば、修行効率もアップ。坊ちゃまは更に強くなります」


「で、でも……でもでも……っ」


 煮え切らないわたしを見て、ミモザさんは小さくため息をこぼした。

 呆れられちゃった? ……も、もしかして本格的に嫌われた!?


 不安で過呼吸になりそうなわたしのそばまで近寄って、彼女は口を開く。

 両手に持った怪しげなグッズを、力強く握り締めながら。



「――私の夢は、坊ちゃまに卑しいメス豚として飼っていただくことです」



 突然の告白。

 言葉の意味はいまいち理解できないが、何だかとても綺麗なことを言われたような気がした。ミモザさんの美しい瞳が、自分は清廉潔白だと語る。


「そのためにはまず、坊ちゃまには強くなって頂く必要があります。強くなって……そして生計を立て、婚姻を結び対等となる。――その上で、メス豚に堕として欲しいのです」


 顔は無表情。

 だが、その声には気迫があり、その目には炎が灯っていた。

 自分は本気だと、全身を包む空気がそう言っていた。


「ですので、メルガ様にも協力して頂けないと困るのです。夢を――……どうしてもこの理想を! メス豚への想いを! 成就させたいのでっ!」


 僅かに潤んだ双眸。

 どこまでも広がる空のように澄んだ目で、わたしを見る。拳を作り、語気を荒げながら。


 その時、コツンと、ミモザさんのスカートの中から何かが落ちた。


 それは、豚の尻尾を模したオモチャ。

 根本の部分が妙な形だが、たぶん普通のオモチャだろう。


 メス豚への想いって、こんなのを持ち歩くくらい強いものなんだ。

 すごい……その想いの深さに、強さに、感動してしまう。


 ……そういえば、わたしにも夢、あったっけ。


「わ、わたしね……お、お嫁さんになるのが、夢だったの……」


「では、ちょうどよろしいのではないですか。坊ちゃまは責任を取るとおっしゃっています。共にエロ下着をつけて、夢を叶えましょう」


「エロ下着で……ゆ、夢を叶える……」


「そうです。はい、もう一度声に出して」


「エロ下着で、夢を……叶えるっ」


「どうぞ、大きな声で」


「エロ下着で、夢を叶える!!」


「素晴らしい。共に叶えましょう、我々の夢を」


 そう言って、わたしに一着の下着を手渡した。


 穴の空いた、黒のブラジャーとショーツ。

 さっきまでは恥ずかしくて直視することもできなかったのに……不思議だ、今はもう何とも思わない。何も怖くない。


「わたしのために、え、選んでくれたの……?」


「当然です。


「っ!!」


 鉄のような表情が僅かにほぐれ、温かな笑みが覗いた。


 しっかりと仲間だと思われていた事実に、そんな仲間が自分のために選んでくれたことに、胸が熱くなった。思わず泣きそうになるも、それを堪えて慣れない笑みを返す。


「……ありがとう、ミモザさん。こんな時、な、何て言ったらいいか……」


「お礼は結構です。さあメルガ様、お行きなさい。そのショーツの穴の先には、素敵な未来が広がっていますよ」


「うんっ!」


 ……今まで鎧に身を隠していたから知らなかった。


 仲間と共に夢を追う。

 そうか、これが青春! これがアオハル!


 わたしは歩き出す。

 新しい風が吹く、夢へのヴィクトリーロードを。


 仲間の想いが詰まった、エロ下着を片手に。





――――――――――――――――――

 ◆ヒロイン情報追加◆


 アトリア・グランチェスタ

 勝負下着:赤いスケスケランジェリー


 ミモザ・レヴナント

 装備アイテム:豚の尻尾の玩具ピッグテール・アナルプラグ


 メルガ・ボルガ

 趣味:エロ下着収集

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