第15話 輝け、僕の竿


 ◆




「ふぅー、楽しかったぁー……!」


 レグルスくんたちとパーティーを組むことが決まったあと、四人でご飯を食べに行った。


 数年ぶりの誰かとの食事。

 鎧を着ていないせいで周りのお客さんから変な目で見られたが、何か言ってきたひとにはレグルスくんが対応してくれたし、アトリアさんやミモザさんが鉄拳制裁してくれた。


 ……これが友達? 仲間ってやつ……!?


 ふ、ふへっ。うへへっ。

 みんないいひとだなぁ。よかった、冒険者になって。


「……」


 ふと落ち着いて、天井を見つめた。


 先ほどの食事会。

 何か妙なことを言っていなかっただろうか、と不安が押し寄せてきた。


 騎士団時代のことベラベラ喋っちゃったけど、調子に乗ってるとか思われてないかな?

 っていうかあたし、喋り方下手過ぎて気持ち悪いとか思われてたりして……。


 う、うわぁー! ダメだー!

 考え始めたら、頭の中がぐわんぐわんして落ち着かないよー!


 せっかくできた友達。

 だから、嫌われたくない。


 ……特に、レグルスくんには。


「レグルス君……すきっ、すきぃ……♡」


「っ!?」

 

 微かに鼓膜を揺らす、甘い息遣い。

 ……これ、アトリアさんの声だ。


 いけないのに、ダメなのに、身体が勝手に動いて壁に耳を当てた。

 ぴちゃぴちゃと、艶やかな水音が聞こえる。大人なやり取りに、ゴクリと唾を飲む。


「次は私の番です」


 今度はミモザさんの声。


 ちょ、ちょっと待って……。


 三人ってそういう関係なの?

 っていうかレグルスくん、彼女が二人もいるの!?


 ……でも、何となくそうじゃないかって思ってた。


 二人の彼を見る目、ただの友達とか主従とか、そういうのじゃなかったもん。

 それにレグルスくんならモテるのは当然っていうか……むしろ、相手がいない方がおかしいし……。


「……じゃあ、わたしも……っ」


 そう口にして、恥ずかしさがぶわっと顔を焼き汗が噴き出した。


 彼女が二人もいるなら、もう一人くらい増えても大丈夫なのではないか。

 そんな独りよがりなことを考え、彼に申し訳なくなり、しかし一縷の希望が下腹部を焼く。


「……ぅっ」


 他人の情事を盗み聞きしながら、それが自分だったらと想像して胸に手を伸ばした。

 堪らなくなってボタンを外して、いつもやっているように埋もれた先端部を引っ掻いて外気に晒し、摘まんで遊んで丹念に舐る。


「……レグルス、くんっ……レグルスくん……♡」


 隣の部屋にいるのは自分じゃないのに。

 そんな悔しさが、情けなさが、いっそう身体を熱くする。


 ――めきっ。


 彼に触って欲しい。求められたい。好き勝手されたい。


 ――めきめきっ。


 もっと聞きたい。

 もっと、もっと。


 そこに自分がいることを想像して身体を傾ける。

 弄っても弄っても発散し切れない情欲が、身体に蓄積してゆく。


 ――めきめきめきっ。


「……ん? えっ!?」


 古くなっていたのか、わたしの力が強過ぎたのか。


「ちょ、ちょっと! だめだめだめだめっ!! みゃぁああああああああああああああ!?」


 わたしは壁を突き破り、隣の部屋に突っ込んだ。




 ◆




 ―― 武太血ぶったちゲージ上昇 ――

 ―― ♂♂♂♂♂ ♂♂♂♂♂ ♂♂♂♂♂ ××××× ――



「……ん?」


「どうされましたか、坊ちゃま」


「いや、おかしいな。武太血ぶったちゲージが15までしか上がらなくて。……ミモザ、もう一回キスしてもいい?」


「どうぞ。私でよければご自由にお使いください」


「あっ、ずるい! あたしもあたしもっ!」


 もう一度、二人と深く交わった。

 ねっとりと、熱烈に。


「「「……」」」


 三人で一斉に、視線を落とした。


 隆起したシモの剣。

 だけど、武太血ぶったちゲージが満タンになった時のあの輝きがない。

 あれがないと、〈抜刀〉が使用できない。


「……もしかしてレグルス君、あたしたちに飽きた?」


「っ!? ち、違う! 僕は飽きてなんか――」


「だったらこれは何さー! うーっ! あたしたちでおち○ぽピカピカにしろー! 早くしてくれなきゃ、子ども作っちゃうよ! ずっと我慢してるんだからね!」


「ちょ、ちょっ、ちょっと待って! うわぁー!!」


 もの凄い力で、ベッドに思い切り押し倒された。

 アトリアは僕の腰の上に跨り、下着を横にずらす。


 汗で身体に張り付いた金の髪。

 ぱちりと黄金の瞳がまたたいて、迷いと期待を宿して僕を見る。


「……ダメだよ、アトリア。それは僕が責任を取れるようになってからって約束しただろ?」


「で、でも、レグルス君があたしたちに飽きたのかもしれないし……! シたら……ひ、光るかも……!」


 震える唇。

 荒い吐息。

 定まらない視線。


 無理をしていることは明白だった。


 僕は身体を起こして、彼女を抱き寄せた。

 そっと頭に手を伸ばし、撫でて。そのまま背中まで流し、きゅっと優しく力を込める。


「不安にさせてごめん。僕のために一生懸命になってくれるの、すごく嬉しいよ。でも僕、こんな形でアトリアとシたくないんだ」


「でもあたし……でも、でも……っ」


「その時が来たら、僕から君を貰いに行く。だから、もうちょっと待って。すぐに勃起ピカピカにするから」


 彼女をなだめ、頷くのを確認した。

 にしても、実際どうしよう。何で溜まらないんだ、武太血ぶったちゲージ。あの修行の日々はどこにいった。


「……もしかすると、限界があるのでは……」


 ぽつりと、ミモザがこぼした。

 どういうこと、と僕は彼女を見る。


武太血ぶったちゲージを溜めるには、第三者との接触が必須。これは私たちから、何かしらエネルギーを摂取している……と、そう考えることができます」


「なるほど……」


「現在の武太血ぶったちゲージの上限は20。しかし私たちと交わっても、15までしか溜まらない。……ということは、一度に一人から摂取できるエネルギー量は7から8が限度なのでは?」


 ミモザの考察が正解かはわからないが、だとすればこの状況に説明がつく。


 ふむと考え込む僕の身体に、アトリアが胸を押し当ててきた。

 吐息を感じる距離で、困ったような、拗ねるような顔で、躊躇いがちに唇を開く。


「……レグルス君的に、あたしとミモザさん、どっちが8だと思う?」


「えっ!?」


 アトリアの問いかけに、ミモザは「それは私も気になります」と僕の身体に胸を押し付ける。


「どちらの身体の方が興奮するのか、後学のためにも教えてください」


「……7.5じゃないかな?」


 逃げの回答に、二人は不満そうに頬を膨らませた。


 いや、仕方ないだろ。

 どっちが上とか決められないよ。どっちも命懸けで守りたいひとたちなんだから。


「それにしても、ミモザの説があってたとしたらこれからどうしようか。最悪、普通の剣で戦うけど――」


「みゃぁああああああああああああああ!?」


 ドガーン!!


 けたたましい音を立て、隣の部屋で寝ていたはずのメルガが壁を突き破って入って来た。

 なぜかその服ははだけており、白く大きな胸が外気に晒されている。


「んぶぅっ!?」


 模擬試合の時と同じく、顔を覆う肉の塊。

 だが今回は、衣服という壁がない。


 甘くて、爽やかで。

 それでいて、ムワッと情欲に薪をくべる匂い。


 やわらかくて。

 重たくて。

 心地いい。


「あっ……れ、レグルス……くん……」


 僕の上に四つん這いになり、メルガは汗をダラダラとかきながら呟いた。

 荒い息遣い。火照った肌。だらんと重力に従って垂れ、僕の胸板をなぞる乳房。


 ドクンと、心臓が跳ねる。

 血流が、加速する。



 ―― 武太血ぶったちゲージ上昇 ――

 ―― ♂♂♂♂♂ ♂♂♂♂♂ ♂♂♂♂♂ ♂♂××× ――



「あ、上がった!!」


 思わず声を漏らすと、アトリアとミモザはざわついた。

 メルガはすぐさま僕から飛びのき、訳がわからないといった顔でベッドの隅で目を白黒させている。


「ごごごっ、ごめっ、ごめんなさい! さ、三人の邪魔をしたいとかじゃなくてっ! 壁がっ! 壁が古くにゃってて……!」


「この状況を見て気まずくなるのは当然だけど、メルガ、これにはちょっと事情があって――」


 こうなっては仕方がないので、僕は【おち○ぽチャンバラマスター】のスキル〈抜刀〉と武太血ぶったちゲージについて説明した。

 メルガは訝し気な顔をしていたが、最終的には信じてくれたようで深々と頷いてくれた。……よかった、引かれてないみたいで。


「やはり武太血ぶったちゲージには、第三者の数が必要なようですね。では坊ちゃま、メルガ様と続きをどうぞ」


「い、いやいや! ダメだよそんなの! 仮に必要だとしても、こんなのメルガにお願いできないって!」


 アトリアとミモザは僕のことが好きで、その上、自ら進んで僕の修行の付き合ってくれる。

 この状況は奇跡みたいなもので、当たり前ではない。


「……あたしは気づいてたよ」


 メルガに四つん這いで迫り、アトリはその胸に指を沈み込ませた。

 艶っぽい声を漏らすメルガ。それを聞いてアトリアはニタリと白い歯を覗かせ、内ももをさする。


「メルガさんのレグルス君を見る目……ただの友達とか、そういうのじゃないよね?」


「ふぇっ!? そそそれは、あのあのっ、その……っ!」


「じゃあ、これはなに? あたしたちの声聞いて、一人でなにしてたの?」


「あっ……あっ……あぅう……っ!」


 ぷしゅーっと顔を真っ赤にして湯気をあげるメルガ。

 その様を見て、僕はため息を漏らす。


「アトリア、もういいよ。メルガを困らせないであげて。武太血ぶったちゲージを上げる方法は別で考え――」


「あ、あのっ!!!!」


 メルガの声が部屋に響き渡った。

 彼女は肩で息をしつつ、緑の瞳に僕を映して俯き、もう一度顔を上げて決意めいた表情を作る。


「わ、わ、わた、わたしっ……! レグルスくんのこと、しゅ、しゅきっ……好きでしゅっ!!」


「……へっ?」


「三人が修行してるとこ聞いて……ひ、一人で、してましたっ!!」



 ―― 武太血ぶったちゲージ上昇 ――

 ―― ♂♂♂♂♂ ♂♂♂♂♂ ♂♂♂♂♂ ♂♂♂×× ――



「だから……だ、だから……アトリアさんと、ミモザさん、みたいにっ……わたしも協力できたらって、思うんだけど……」


 そこまで言って、急に顔から自信が抜け落ちていった。


「……ご、ごめん。わたし、二人みたいに魅力ないし。おこがましいこと言っちゃった……かも……」


 しゅんと肩を落とすメルガを見て、僕の身体は考えるよりも先に動いた。


 そっと彼女の手を取る。

 どこへもやらないよう、宝石を扱うように、優しく握り締める。


「僕、今日言ったよね。可愛いって。嘘であんなこと言わないよ」


「あっ……あぅあぅ……」


「メルガは可愛いし魅力的だ。他の誰が何て言おうと、僕が保証する。そこは絶対に譲れない」


 そう言うと彼女はボロボロと涙を零し、僕の胸に顔をうずめた。

 この身体のことで、今まで相当悩んできたのだろう。可哀想に。


「……でも、アトリアとミモザはいいの? 僕とメルガが、その……そういう関係になって」


「前も言ったけど、レグルス君がモテないとかあり得ないから。ってか、今更一人増えようが百人増えようが一緒だって!」


「私はむしろ興奮して絶頂不可避です」


「そっか。……ありがとう、二人とも」


 メルガの頭を撫でて、頬に手を当てた。

 見つめ合って、彼女はたまに視線を外すが、躊躇いながらも再び僕を見る。


 しばらくすると緊張がほぐれたのか、彼女はやわらかな笑みを浮かべた。

 そして僕の唇を見つめて、そっと瞼を落とす。何かを求めるように。


「……いいの?」


 返事はなかったが、代わりに彼女はビクッと肩を震わせて、おずおずと小鳥のように頷いた。


 それを肯定と受け取り。

 ふっと、彼女と口づけを交わす。


「――ありがとう、メルガ」



 ―― 武太血ぶったちゲージ上昇 ――

 ―― ♂♂♂♂♂ ♂♂♂♂♂ ♂♂♂♂♂ ♂♂♂♂♂ ――



 輝け、僕の竿。

 三人の想いを乗せて。

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