第14話 感謝を胸に、全身の血を下半身へ


「ほぉーら、こいつもこう言ってるじゃねぇか。もうわかったら、Sランクになっちまえよ」


「いやいや、おかしいって! 僕は本当に何もしてないんだから!」


 と言って、「ごめん、ちょっと触るよ」と再び彼の手が頬に触れた。


「ほら、さっきと同じくらいの力加減。よく思い出して。これは平手打ちでも何でもないでしょ?」


 手が温かい。

 やわらかい。

 優しい。


 ……あと、か、顔が!

 顔が近い!


 ってかわたし、絶対いま汗くさい!!

 嫌われちゃう! 幻滅されちゃう!


 はっ……はっ……! い、息が……!

 息ができない!! やばい、また意識が飛んじゃうよー!!


「でしたら、私たちとメルガ様でパーティーを結成するのはいかがでしょう」


 涼しげな声を鳴らして、メイド服姿の綺麗な黒髪の女の子が入って来た。その後ろには、修道服を着た金髪のこれまた可愛い女の子。二人は男の子に近づいて……って、え? 知り合いなの?


「おう嬢ちゃんがた、お疲れさん。模擬試合はどうだった?」


「ふっふーん! バッチリ勝ったよ!」


「殺さないよう手加減するのが大変でした」


 勝った? 手加減?

 二人とも強いんだなぁ。こんなに可愛いのに、すごいなぁ。


「それでミモザ、パーティーを結成するってどういうこと?」


「坊ちゃまは模擬試合に負けAランク。しかし、坊ちゃま主導のパーティーにSランクのメルガ様が加われば、世間的には坊ちゃまが勝ったのと同義です。そうすれば、アラン様のメンツも保たれるかと」


「メルガさんが仲間になるってこと!? いいじゃん、そうしよ! 一緒に冒険者やろーっ!」


 金髪の女の子が、両の瞳を輝かせながらわたしの腕を引く。


 ……わたしのこと、全然怖がってない。


 嬉しい……うぅ、嬉しいよぉ……!

 この子、絶対いい子だ……!


「いい案だとは思うけど、それはまずメルガに聞いてみな――」


「やるっ!!!!」


 想像よりずっと大きな声が出てしまった。

 長いこと喋っていなかったせいか、いまいち声量の調節が効かない。……は、恥ずかしいっ。


「……も、もうすぐここも、辞めなくちゃいけなかったし。だから、パーティー入りたいなって……たいしたこと、できにゃいけど……」


 ……噛んじゃった。


 恥ずかしい……うぅー! 恥ずかしい!

 さっきだって大きな声出しちゃったし……ぜ、絶対変な子だって思われた!


 あぁだめ、泣きそう……。

 こんな図体して弱虫とか、使えないやつだって思われちゃう。せっかく誘ってくれたのに、幻滅させちゃう……!


「いやいや、謙遜はよくない。メルガは素晴らしいひとだ。一緒に戦ってくれるなんて、こんな心強いことはないよ」


 そう言って彼はわたしの手を取り、「ありがとう」と笑みを浮かべた。そしてもう片方の手で、こぼれ落ちそうだった涙の粒を拭う。


 うっ……。


 うわぁああああああああああああああ!!

 わわぁああああああああああああああ!!


 い、息が……!

 息が、できない……!!


 ふぅーっ、ふぅーっ!

 ふぅー……はぁ、何とか落ち着いた。


 にしても、やばかった。

 格好よすぎて消し飛ぶかと思った。


 っていうか、手、握られちゃったよ!


 ……えへ、えへへっ。

 今日は手、洗わないようにしよっと。


「そういえば、自己紹介がまだだったね」


 と、彼は一歩後ろにさがって、


「――僕はレグルス。【おち○ぽチャンバラマスター】のレグルスだ」


「……」


「あっ、その、【おち○ぽチャンバラマスター】ってのは嘘じゃなくて――」


「うっ……うぅ、うわぁあ……!」


「何でまた泣くの!?」


 【おち○ぽチャンバラマスター】……聞いたこともないジョブだ。


 そんな間抜けの極みみたいなの、わたしだったら受け入れられない。……というか、わたしじゃなくても大半のひとは耐えられないだろう。


 でも、彼は違う。

 【おち○ぽチャンバラマスター】でも、堂々と立派に生きている。


 その果てしない気高さに、【おち○ぽチャンバラマスター】という課せられた宿命の過酷さに、涙が溢れた。


「わ、わっ、わたし――」


 今度はこちらから、レグルスくんの手を握った。


 誰かの、あるいは何かの盾となるジョブ――【重騎士】。


 どうしてわたしがこのジョブなのか。

 なぜ、どうしてと……これまで何度も考えた。


 そして今日、彼と出会ったことで答えを得た。


「レグルスくんのこと、守るよ……! ぜ、絶対に、守りゅっ……!」


 きっとわたしは、この気高く尊い少年を守るために【重騎士】になったのだと。

 【おち○ぽチャンバラマスター】の盾なのだと。


 ――魂が、確信した。




 ◆




「ちょ、ちょっと待て! 隣の部屋にメルガがいるんだぞ……!?」


「しかし坊ちゃま、〈抜刀〉がレベルアップしたのでしたら、何か性能に違いはないか確かめないと」


「いっぱい興奮して、いっぱい〈抜刀ヌキ〉〈抜刀ヌキ〉しようねー♡」


 その日の夜。

 四人でメルガの歓迎会をして、そのまま宿を取った。

 

 さて寝ようか、と横になった途端、部屋になだれ込んできたアトリアとミモザ。彼女たちは慣れた手つきで僕を剥き、修行をするぞと豊満な胸を晒す。


「これは修行ですよ。恥ずかしがる必要などありません。それとも、何か後ろめたいことがあると?」


「全裸の僕と半裸の二人が同じベッドにいるのって、普通に考えて後ろめたいことだと思うけど……」


「静かにしてれば大丈夫だよ! 大体パーティーに入ったなら、遅かれ早かれレグルス君は女の子にアソコ大きくしてもらわないと戦えないこと知るわけじゃん? だったら気にする必要なくない?」


 アトリアの発言はもっともで、僕はどう返せばいいのかわからなかった。


 噤んだ口に、ふっと彼女の唇が触れる。

 すぐに顔を離し、ニマッと白い歯を覗かせて。

 僕の手を取って自分の身体を触るように誘導し、再度口づけを交わす。


「んっ……ふぅ♡ レグルス君……すきっ、すきぃ……♡」


 僕を散々貪って、甘い声を鳴らす。


 ちょっと前までは何事もおっかなびっくりだった彼女も、今では慣れたもの。

 時に自身のスキルを行使して、僕の身体を力づくで弄び喜ぶ。

 もう一人の僕は素直に反応し、アトリアはそれを見て満足そうにデヘデヘと笑う。


「坊ちゃま、私にも。次は私の番です」


 それに対し、ミモザは少し大人しくなった。

 相変わらずの捕食者のようなキスだが、痛いほどに抱き締めたり、胸を強く揉むとビクビクと痙攣して静止する。普段の無表情が嘘のようなとろんとした双眸に、僕の中の黒い衝動が熱を増す。


「あたし、レグルス君が修行ばっかりで全然遊んでくれなくなって寂しかったけど、今はすっごく好き♡ もっと修行しよ? 朝までいーっぱい修行しよ?」


「これは修行なので、次は私の臀部を思い切り叩く、といったシチュエーションはいかがでしょうか。いえ、私の個人的な趣味趣向というわけではなく、どのような戦況でも興奮可能な肉体を作り上げるためです。臀部を叩くだけで勃起可能になれば、キス以上の効率化が期待できますし」


「いいねー♡ あたしのお尻もペチペチする? それともレグルス君は、ペチペチされたい方かなぁ?」


「私が坊ちゃまから叩かれながら、アトリア様が坊ちゃまを叩けば一石二鳥では?」


 ふっと想像し、あまりにも間抜けな様で軽く噴き出した。

 ……ありがたいなぁ、僕のために色々考えてくれて。


 感謝を胸に、全身の血を下半身へ送る。


 勃ち上がれ。

 そそり立て。

 レベルアップした成果を示せ。


 僕の、〝それは果てなき願いと希ペニスカリバー望の剣〟――。





――――――――――――――――――

 あとがき


 次回もえっちです。

 隣の部屋にいるってことは、そういうことです。


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 よろしくお願いいたします。

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