第17話 伝説の【おち◯ぽチャンバラマスター】

 ※注意※

 後半は三人称視点になっております。


――――――――――――――――――



 諸々の手続きのため、僕は一人、冒険者ギルドに来ていた。

 

 アトリアとミモザは、メルガの鎧の新調に同行。

 ちなみに僕が壊したあの鎧、重さが八十キロ以上あったらしい。

 あれをずっと着た状態で生活して訓練までこなしてたら、そりゃあ屈強な肉体に仕上がる。


 ……僕も真似してみようかな。


「おっし、邪魔くせぇ書類はこれで終わり。もってけ坊主、こいつがAランク冒険者の証だ!」


 ギルドマスターのアランは、バンッとテーブルに赤いバッジを置いた。

 僕とアトリアとミモザの三人分。手に取って、無くさないようすぐさま胸ポケットにしまう。


「……もうちょっと喜べよ。Aランクだぞ? そんなもんを一日で三人も出すなんて、中々ないことだぞ?」


「気を悪くしたならごめん。僕も嬉しいよ。ただ、欲しかったのはSランクだからさ」


「昨日散々言っただろうが。Sランクならくれてやるって」


「いや、昨日のは負けでいい。真面目にコツコツ依頼をこなして、Sランクに昇格できたらその時に喜ぶよ」


「……頑固っつーかなんつーか、可愛くねぇガキだな」


 大きなため息をつくアラン。

 頑固かなぁ、僕。あんまり自覚ないけど。


「そういえば昨日のひと、大丈夫だった? 傷はアトリアが治したはずだけど」


「あぁ、あいつか。ダメだな、心の方が完全に壊れちまってる。今朝専門のとこに投げたから、何かわかったら連絡がくるだろうぜ」


「……そんな風になるまで痛めつけられたってことは、何か見たのかな?」


「そう思いたいが、どうだろうな。単にスパイ行為が許せなくてリンチされた可能性もあるし」


 「めんどくせぇよまったく」と、ボリボリと頭を掻く。


「トップが代わってからきな臭くなったとか言ってたけど、具体的に何がどう変わったの?」


「何だよ、気になるのか?」


「昨日の件で、僕たちを敵対視してる可能性があるからね。敵になりうるなら情報は持っておいて損はないだろ」


「まあ確かに。……昨日も言ったが、元々善良なパーティーではなかったんだ。冒険者の皮を被ってるだけで、ほとんど不良集団。それが二年前、当時の[竜の牙]のトップの死体が見つかって、空いたその席にある女が座った」


 アランは腕を組み、スッと目を細めて真剣な面持ちを作る。


「……その女がどこの誰かは知らねぇが、頭が切れるってのは確かだ。何せ5000人のパーティーメンバーをフル活用してあちこちで商売始めて、そこらの領主なんか目じゃねぇほど荒稼ぎしてるんだからな。昨日の【狂戦士バカ】の上に立ててるってことは、当然腕っぷしもかなりのもんだろう」


「へえ、それはすごいな」


 素直に感心すると、アランは僕を睨みつけた。

 いや、仕方ないだろ。腕っぷしはともかく、僕には統率力も商才もないんだから。敵だろうと味方だろうと、すごいものはすごい。


「んで、これはまだ噂の域を出ないが、どうやらあいつら稼いだ金であちこちの裏の業者から魔物を買い集めてるらしい」


 魔物は総じて人間を好んで食う、極めて危険な生物。

 ゆえにそれを捕獲し、営利目的で売買するのはどの国でも犯罪だ。


「買い集めてどうするの? 金持ちに転売して稼ぐとか?」


「こっちが聞きてぇよ。……ただ過去、色んな事件が起きてる。魔物の肉が人体に有害だってことをわかってて貴族どものパーティーに出したり、魔物同士の賭け試合をやって観客全員が食い殺されたり、魔物の軍隊を作ろうとして失敗して国ごと滅んだり。あのクソ化け物は、人間の手に負えねぇんだ」


 アランの言葉には同意だった。

 歴史上、人間が魔物を上手く利用できたことは一度もない。


「それに最近、大陸中で魔物が急に増えてな。もしかしたらそれにも……」


「魔物が増えてる? 何それ、聞いたことないよ」


「ここ一ヵ月とかの話だからな。まあでも、流石にこれは関係ないか。忘れてくれ」


 ……魔物の急増か。


 【おち○ぽチャンバラマスター】は、世界に何か大きな波が来た時に発現するもの。一ヵ月前なら、僕がこのジョブを授かったことにも説明がつく。

 家を出た日に戦った、あのレッドドラゴン。やつについていた噛み痕も、魔物が増えていることと関わりがあるんじゃないか。


 そしてそれら全てに、[竜の牙]が絡んでいるとしたら……。

 アランは関係ないと言ったし、僕も可能性は薄いと思うが、少し気になるな。


「[竜の牙]に関して言えることはこんなとこだな。それよかお前、気づいてるか?」


「窓の外のひとたちのこと?」


 応接間の窓に張り付いて、ジッとこちらを観察する無数のひと陰。

 気づいてはいたが、特に危険はなさそうなので放置していた。


「あいつら、昨日からギルドに居座ってお前が来るの待ってんだ。パーティーに入れて欲しんだってよ」


「え? 何でうちに?」


「そりゃお前、あんだけ盛大に格の違いを見せつけりゃ一緒に戦いたがるやつも出るだろ。あとお前んとこは美女が二人も――い、いや、三人もいるし」


 僕が睨むと、アランは即座に訂正した。


「実際に入れるかどうかは僕の一存じゃ決められないけど、その前に全員と一回手合わせしたいな。昨日使った試合場、借りてもいい?」


「あぁ、別に構わねぇが……」


 【おち○ぽチャンバラマスター】になってからというもの、武太血ぶったちゲージを上げて、スキル〈抜刀〉を使用して、〝それは果てなき願いと希ペニスカリバー望の剣〟を出してと、すっかりジョブ頼りの戦闘スタイルになってしまった。たまには勃起していない状態で戦わないと、身体や勘が鈍ってしまう。


 それにメルガと対峙し、彼女の肉体を目の当たりにして、改めて思った。


 やはり、大切なのはフィジカル。

 頑丈な骨と屈強な筋肉こそが、全ての基本。 

 下半身以外の部位も硬くしておかないと、これからの戦いには耐えられないだろう。


「手合わせって、あそこにいる全員とか? 二、三十人じゃきかねぇぞ?」


 立ち上がり、うんと背伸びをする。


「全然足りないから、もっと呼んでくるよう頼んで来るよ」




 ◆




 ローズローグと王都の中間。

 その街の地下に、[竜の牙]の本部があった。


「――レッドドラゴンよりも遥かに稀少な上位種、ブラックドラゴンを生け捕りにしました! 頑丈さも獰猛さも何もかも、全てのドラゴンの中でトップクラス! まだ産まれたばかりの幼体ですが、それでも一夜で街を滅ぼすことくらいはやってのけますよ! 素晴らしいでしょう!」

 

 魔物の売り買いを生業とする男とその仲間たちは、薬で眠らされ、更に鎖でがんじがらめにされたブラックドラゴンの前で、懸命にプレゼンを行う。


「ブラックドラゴン……実物を見るのは初めてね」


 ワインレッドの髪を頭の後ろで一括りにした若い女性は、ガラス玉のような赤黒い瞳にドラゴンを映したまま、はふっと興奮気味に息を漏らした。


「この子の麻酔はどれくらいで切れるの?」


「もうそろそろかと! ご安心ください、すぐに追加で投与しま――」


「必要ない。あと、鎖も邪魔だから取っちゃって」


「い、いやしかし、ここには専用の檻もないようですし、何の対策もなく拘束をといたら暴れ出して大変なことになると思いますが……」


「だからどうしたの?」


「は、はい?」


「だからどうしたのって聞いてるの」


 人形が精一杯人間のフリをしているような美しくも薄気味悪い笑みに、男たちは戦慄する。


 すぐさま鎖をほどくと、タイミングよくブラックドラゴンは瞼をあけた。

 まだ幼体。馬ほどのサイズしかないのに、纏う空気は既に王者そのもの。自分を見つめて笑みを作る女性に対し、けたたましい咆哮を浴びせる。


「ひ、ひぃい!! じ、自分たちはこれで失礼します!! 報酬はいただいて帰りますのでっ!!」


 と、男たちは金貨が詰まった麻袋を手に駆け出す。


 その時、ブラックドラゴンが翼を広げた。

 羽ばたき、飛翔し、男たちを皆殺しにする。この間、わずか二秒。


 散乱する肉片。それらを躊躇なく踏みつけ、ドラゴンは改めて女性を睨む。

 粗悪な肉は食わないという態度、そして目にも止まらない殺戮に、「お見事」と女性は拍手を贈る。


 グァアアアアアアアアアアアア!!


 瞬く間に距離を殺すブラックドラゴン。


 だが、女性は不敵な笑みを崩さず。

 そのまま片手で鼻先を掴み、造作もなく受け止めた。


「ぼ、ボス、大丈夫ですか!?」


 金髪の大男。[竜の牙]幹部の一人の【狂戦士】バドーは、血相を変えて女性に話し掛けた。


「心配しないで。それよりバドー、あなたの話を遮っちゃってごめんなさいね。ブラックドラこれゴンが今日届くなんて知らなくって。ローズローグで何があったか、聞かせてもらえる?」


「あ、いやそんな! ボスが謝ることないですよ! はい!」


 厳つい顔を子犬のように緩めて何度もお辞儀をし、そして語った。


 つい先日の、ローズローグでの出来事。

 ギルドで自分がどれだけの辱めを受け、どれだけ[竜の牙]がコケにされたかを。


 その報復の必要性を。


「あのクソガキだけは絶対に許せません!! とっ捕まえて、見せしめにボコボコにしまいましょう!!」


 「やられっぱなしじゃ終われませんよ!!」とバドーは意気込む。


 しかし、ボスからの返事はなく、グッと手に力を込めてブラックドラゴンの鼻を握り潰した。


 飛び散る鮮血。

 ドラゴンの絶叫。

 鼓膜を突き破るような声を止めたのは、堅牢な鱗と頭蓋骨を一撃で突き破り脳にまで達した、彼女の拳だった。


「あら、美味しいわね」


 ずるりと腕を引き抜いて、滴り落ちるドラゴンの血を舐め取る。


 次いで鱗を剥がしてクッキーのように食らい、その下の肉を引き千切り口へ押し込む。人体に有害なはずの魔物の肉を、躊躇なく食べてゆく。


「……あ、あのボス、聞いてます?」


「へ? あぁ、ごへんなはい。ほうふふのはなひよへ?」


「何言ってるか全然わからないので、まず飲み込んでください。……いつも思いますけど、魔物って美味いんですか?」


「アタシは好きよ。特にこれは絶品ね。、こんなに美味しいなら無理して追いかければよかったわ」


「あぁ、そんなこともありましたね。ひと噛みしてどっか飛んで行ったやつ。……にしても、へぇー、ドラゴンって美味いんですね」


「わかってると思うけど、あなたは食べちゃダメ。アタシはジョブのせいでこれしか食べられないし、スキルのためにも食べるしかないだけだから」


 角をへし折って齧り、血を啜り、骨を頬張る。

 どちらが王者か、どちらが捕食者側かわからせるように、手当たり次第に食らいつく。


 すると。


 ――ベキベキッ。

 

 ボスの腕に、黒い鱗が湧いてきた。

 それはいましたが食べた、ブラックドラゴンのものと瓜二つ。


 彼女はそれを見て、満足そうに小さく頷く。


「……それで、報復の話だったわね。バドーは何も心配しなくていいわ」


「い、いやしかし――」


「レグルスは……アタシが殺すから」


 凍てつくような声に、明確な殺意に、バドーは脂汗をにじませた。

 と同時に、安堵する。ボスが直々に手を下すならば、もう何の心配もない。


「待ちわびたわ、そのジョブの再誕を――」


 誰にも届かない声量で、そっと紡ぐ。



「七星剣の直系の末裔……レグルス・エーデルライト。あなたが成ったのね、伝説の【おち○ぽチャンバラマスター】に」



 血まみれの唇で、歪な弧を描きながら。







――――――――――――――――――

 あとがき


 第一章もラストスパートです。


 何かシリアスな雰囲気ですが、私はハッピーエンド至上主義ですし、どれだけレグルス君が格好つけても【おち○ぽチャンバラマスター】であることには変わりないのでご安心ください。


 それと、☆300、応援コメント数が100を突破しました。

 カクヨムで色々書いていますが、フォロワー数に対するレビュー数も、話数に対する応援数も異常に高いです。めちゃ愛されてて嬉しいです。


 面白かったらレビュー等で応援して頂けると執筆の励みになります。

 よろしくお願いいたします。

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