第10話 特定の条件を満たすと股間が光るんだ


「……【おち○ぽチャンバラマスター】?」


「ああ」


「……」


「……」


「【おち○ぽチャンバラマスター】……って言ったか?」


「だからそうだって」


「……」


「……」


「バカにしてんじゃねえぞゴラァ!!」


 いや、本当なんだけど……。


 そう返す間もなく、大男は背中に背負った巨大な斧を僕に向かって振り下ろす。


 すごい。よくそんなの片手で持てるな。


 その筋力も体格も、とても羨ましい。

 漲る闘志にも纏う殺気にも、嘘がない。

 きっとこれまで、数々の修羅場をくぐってきたのだろう。


 ――だけど、僕の敵じゃない。


「ぶへぇっ!?」


 出力5パーセント。


 斧を横へいなし、ガラ空きの股間を思い切り蹴り上げた。

 確かにこいつは強いが、うちの両親や兄さんとは比較にもならない。


「く、くそっ、くそが! ふざけやがって! ぶっ殺してやる……!! マジでぶっ殺してやるからな……!!」


 股間を押さえてうずくまり、凄まじい剣幕で僕を睨む大男。

 この隙に、とばかりに二人の仲間が逃げ出す。……当然の判断だし、別に咎める気はないけど、こいつら仲間意識とかないんだな。可哀想に。


「あーあ、Aランクのやつまでのしちまった。ピカピカち〇ぽ坊主、お前本当に何なんだ?」


「レグルスだって。ジョブが【おち○ぽチャンバラマスター】なせいで、特定の条件を満たすと股間が光るんだ」


「……そうか。まあ、隠したいことってあるもんな。本当のジョブが何かは聞かねえよ」


「いやだから、【おち○ぽチャンバラマスター】だって――」


「おいてめぇら! こいつは何でもないただのピカピカち〇ぽ坊主だ! それ以上でもそれ以下でもねぇ! 変な詮索するなよ!」


「「「うーっす」」」


 アランの呼びかけに、気怠そうに返事をする冒険者たち。


 ……何でもないただのピカピカち〇ぽ坊主ってなんだ。

 ピカピカち〇ぽの時点で何でもないわけないだろ。大ごとだよ。


 しかしまあ、嘘だと思われたのか。

 そりゃそうか。【おち○ぽチャンバラマスター】だもんな。僕だって出来ることなら、何かの冗談だと思いたいよ。


「それより、何なんだ[竜の牙こいつら]。どう考えても野放しにしてちゃダメな類の連中だろ」


「俺だってそう思うが、仕方ねぇんだよ。構成員は5000人以上、その規模は世界でもトップクラス。んなもん下手に解散させたら大変なことになる。……前々から危ない噂の絶えないパーティーだったんだけどな。トップが代わってから、余計にきな臭くなりやがった」


 と、アランはため息混じりに言って頭を掻いた。


 ――瞬間、僕の全身の毛がゾワッと逆立つ。


 ドラゴンの接近を予感した時に近い、あの感覚。危険の匂い。

 その出所は、僕に金的をもらいうずくまっていた大男。彼は斧を力強く握ったまま、不敵な笑みを浮かべていた。


「〈魂の一撃ソウルスマッシュ〉……オレのジョブ、【狂戦士】が持つ最強のスキルだ。寿命を十年分くれてやる代わりに、今この斧はドラゴンすら一撃で粉砕する……ッ!!」


 禍々しい漆黒のオーラを纏う斧。

 大男は脂汗を流しながら、ゆらりと立ち上がり斧を掲げる。


「これ以上ギルドの中で暴れたら、ただの喧嘩じゃ済まねぇぞ!! 資格を剥奪されてもいいのか!?」


「知るかそんなもん!! 舐め腐りやがって、ゴミ共がッ!! クソチビもそこの女もテメェら、全員まとめて皆殺しだぁああああ!!」


 声を張り上げ、斧を振り下ろした。


 僕の後ろには、大切な二人がいる。

 本当に堪らなく、素敵なひとたちだ。僕が何とかすると信じて、まるで逃げる素振りを見せない。


 でも現実問題、どうするんだこれ……。


 ドラゴンを一撃で粉砕するってのは、たぶん本当だ。

 気配がそう語っている。


 〝それは果てなき願いと希ペニスカリバー望の剣〟の出力を上げれば、受け止めることはできる。ただその場合、ぶつかり合った時の衝撃がどれほどの被害を生むかわからない。


 仕方ない、殺すか。

 そうすれば、スキルの効力は消滅するし。

 向こうもこっちを殺す気なんだ。殺される覚悟くらいはしてるだろ。


 ……。


 いや、落ち着け僕。

 そんなことして、[竜の牙]5000人を敵に回すことになったら大変だぞ。Aランク冒険者だから、きっとかなり重要なポストについてるだろ。


 アトリアとミモザ――二人の無事だけは死んでも確保しなければ。


「よしっ……」


 作戦は単純。

 斧が地面に接触するまでの間に、やつを押してギルド前の広場まで運ぶ。


 その場合、僕がどうなるかはわからないが……。

 ……まあ、その時はその時だ。


 二人にはできるだけ早く立ち直って、幸せに生きてくれることを願おう。


「「――だめっ!!」」


 僕の心を読んだのか、後ろからまったく同じタイミングで同じ声が飛んできた。


 それによって決意が揺らぎ、身体から力が抜け、前のめりに膝から崩れ落ちる。

 や、やばい! どうする! どうすればいいんだよ、これ!



 ――ガキィイイイイイイイイン!!!!



 金属と金属が衝突する、鈍くも鋭い音。

 大男の放った大技は、僕の前をたまたま通りかかった漆黒の鎧を纏った誰かに炸裂した。


「ば、バカな……ッ!?」

 

 あんぐりと口を開けた大男。


 それもそのはず。

 鎧はビクともせず、衝撃は跡形もなく吸収され、ただ斧だけが粉々に砕け散った。

 しかもその鎧は、自分が攻撃を受けたことすら気づいていない様子。ドラゴンを粉砕する一撃を、まるで意に介していない。


「お、オレの十年……オレの十年が……あっ……ぅ、うゎああああ――――ッ!!」


 寿命を失い、武器を失い、ズボンとパンツを失い。

 僕よりも小さな竿をブルンブルンと振り乱しながら、大男はギルドを出て行った。


「……あ、ありがとう……ございま、す……?」


 状況がいまいち掴めないが、命を救ってもらったのは確か。

 僕は戸惑いつつも、その鎧を見上げて言った。


 で、でっっっっっか!?


 さっきの大男も相当なものだが、こっちはそれ以上だ。

 僕の倍……は言い過ぎだが、全身鎧のせいでそれくらいの威圧感がある。


「おおーっ! メルガ、いいとこに来た! 助かったぜ、ありがとな!」


 メルガ……このひとの名前か。

 そして周りの冒険者たちは、「黒鎧だ」「相変わらずデケー」「今の受けても無傷かよ」と口々に言う。当のメルガはというと、ただの一言も発さずアランに会釈する。


「紹介するぜ、ピカピカち〇ぽ坊主。メルガ……この国で四人しかいないSランク冒険者で、最硬の【重騎士】だ。Sランクが欲しいんだったら、こいつを一分以内に倒してみろ」




 ◆




「ちょ、ちょっと待って! お願いだから話を――おふっ! ふごごっ!」


「もうさぁ! 信じられないよ、本当に!」


「坊ちゃまは先のレッドドラゴンとの戦いから、何も学習していません」


 模擬試合前。

 控え室。


「いやでも、あの状況だとあれが最善だって――うぶっ! おぼっ、い、息が……!!」


「ほら! 反省しながらおち○ぽ大きくするの! 反省勃起するのー!」


「命の大切さを考えながら勃つのも修行ですよ、坊ちゃま」


「こんな状況で命の大切さとか――んぶっ! うっ……ほ、本当に死ぬっ……!」


 僕は先ほどの大男との一件で捨て身の攻撃をしようとしたことを咎められつつ、今一度武太血ぶったちゲージをマックスにするために、二人のおっぱいに顔を挟まれていた。


 甘い匂い。

 やわらかくて温かい。

 でも、死ぬほど苦しい。


 空気を求めて口を開いても僅かな呼吸しか許されず、すぐさま柔肉が唇を覆い隠す。


「格好つけるのはいいけど、皆で幸せになる方向で格好つけて! じゃなきゃ、レグルス君のこと嫌いになっちゃうよ!」


「えっ!? いやそれは困っ――ふごごっ! んご、うぶっ!」


「では、次同じようなことをした際は、坊ちゃまのお尻を開発しましょう。腕には自信があるのでご安心を、自分で散々試しましたから。……お屋敷の坊ちゃまのお部屋で、こっそりと」


「ふごぉおおおお!?」


 甘くやわらかな窒息に悶えていると、ミモザの指がいやらしい手つきで僕の臀部を撫でた。


 これたぶん、本当に慣れてる指使いだ。

 僕の勘がそう言っている。


 ……あと何かドサクサに紛れて、変なこと言わなかったか?


「いいねぇ♡ 次同じことしたら、レグルス君を女の子にしちゃおっか♡ せっかく可愛い顔してるから、フリフリのドレス着せてお尻弄りながらいっぱい〈抜刀ヌキ〉〈抜刀ヌキ〉して修行あそんじゃおー♡」


「男性はとても気持ちいいそうです。よかったですね、坊ちゃま。私が味わえなかった遥か先の銀河エクスタシーまで行ってらっしゃいませ」


「んぅーーー!! んぅーんぅーーー!!」


 おっぱいに埋もれつつ、僕は全力で首を横に振った。






 ―― 武太血ぶったちゲージ上昇 ――

 ―― ♂♂♂♂♂ ♂♂♂♂♂ ♂♂♂♂♂ ――


 ……僕の身体、こんなに苦しくても反応するようになっちゃった……。

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