第11話 およそ1秒


 【重騎士】――父さんの友達で、うちの国の騎士団長が同じジョブを持っていた。


 そのスキル構成は、徹底して防御系。

 とにかく守ることに特化した、生きた城壁。

 一度手合わせしたが、傷一つ付けられずボコボコにされた。


「気張れよ、ピカピカち〇ぽ坊主! そいつを一分以内に倒したら、今日からお前はSランク冒険者だ!」


 見物席から声をあげたアラン。

 円形の試合場で、僕は黒鎧――Sランク冒険者のメルガと対峙していた。

 

 ……倒す、か。


 〝それは果てなき願いと希ペニスカリバー望の剣〟なら余裕……と言いたいところだが、あの鎧は【重騎士】のスキルにより超強化されている。【狂戦士】の〈魂の一撃ソウルスマッシュ〉を食らってもビクともしなかったところを見るに、その衝撃吸収能力は尋常ではない。


「――顕現い、〝それは果てなき願いと希ペニスカリバー望の剣〟」


 出力80パーセント。


 地を蹴り、前に出る。

 視界が加速し、砂埃を巻き上げ、身体は風を斬る。


 もう一歩地面を蹴り上げ、更に加速。

 全身が軋む。足の骨が、筋肉が悲鳴をあげる。


 それを無視して、更に前へ。


 肉体が意識を置き去りにする。

 僕の五体は、光を裂く。


「だぁああああああああああ――――ッ!!」


 そうして繰り出した、神速の突き。

 それはメルガの胴体ど真ん中を捉えるが、



 ギィイイイイイイイイイイン――――――ッ!!



「すごい……!!」


 衝突の際に感じたのは、巨大な岩山のイメージ。


 【重騎士】のスキル、そして彼の驚異的な体幹力により、突きは見事に受け止められた。

 僅か数センチたりとも、後ろへ動かない。

 その堂々たる様に、僕はつい称賛してしまう。


 瞬間、僕を襲う謎の圧力。

 【重騎士】の受けた攻撃を跳ね返すスキル、〈城壁返し〉による衝撃波。


「ぐぅ――――ッ!!」


 吹き飛ばされ、転がり、すぐに立ち上がる。


 危なかった。

 〝それは果てなき願いと希ペニスカリバー望の剣〟で強化されてなかったら即死だった。


 にしても、本当にすごい。

 ジョブとスキルの効果を最大限引き出す、あの肉体。どれだけ鍛えたら、あの域に到達できるんだ。特にあの体幹力を作った鍛錬法は、是非とも教えて欲しい。


 ―― 武太血ぶったちゲージ低下 ――

 ―― ♂♂♂♂♂ ♂♂♂♂♂ ♂×××× ――


 まだたった一撃放っただけなのに、出力が高いせいでゲージの減りが早い。

 グズグズしていたら、ゼロになってあの疲労感がやってくる。


 そうなったら詰み。

 試合の途中でアトリアに治癒してもらったり、再び勃起させてもらったりなんてできないしな。


 ……まあそもそも、そんなことをしてたら一分以内なんてまず無理なわけだが。


 仕方がない。

 イチかバチか、新技アレをぶつけよう。







「いけー!! ピカピカち〇ぽ坊主ー!!」


「黒鎧をぶっ飛ばしちまえー!!」


「やれー!! 殺せー!!」


 あたしとミモザさんは、アランさんの隣で模擬試合を観戦していた。


 ……それにしても、観客の量がすごい。

 どこから集まって来たのか、たくさんのひとがヤジを飛ばす。メルガさんという、あの黒い鎧のひとに。


「メルガさんって、皆から嫌われてるの?」


「あぁ? んー……まあ、そうだなぁ……」


 あたしの問いに、アランさんは苦い顔をしながら頷いた。


「ちょっと前に知り合いから頼まれて雇ってな。とりあえず監督官やらせたら、あまりにも硬過ぎてどんな攻撃も通じねぇせいで、相手の実力を測りようがねぇんだよ。おかげであいつが模擬試合したやつは、全員漏れなく最低のFランクスタートだ。そりゃ納得いかねーやつもいるだろうさ。……まあ、Sランク冒険者に挑戦するって自分でメルガを指名したんだから、文句を言うのも変な話だけどな」


 冒険者ギルドの規定で、最初の模擬試合の結果は絶対。

 やり直しの効かない一回勝負らしい。


 ……でも確かに、あんなに防御力特化のひとをどうこうするのは難しいよね。

 たぶんあれ、あたしでもどうにもならないし。


「そもそも、なぜ【重騎士】が冒険者に? ああいったジョブの持ち主は、騎士団に加わるものだと聞いていますが」


「いや、あいつも最初は騎士団に入ってたぞ。ただ一切喋らねえし、しかもずっと鎧着けてるから、周りから気味悪がられてよ。士気が下がるってんで、クビになったんだ」


「うわぁ……もったいない……」


「冒険者になってお得意の硬さでSランクをとったのはいいが、やっぱりまったく喋らないせいで仕事が上手くいかなくてな。んで、俺が引き取ったって流れよ。Sランクのやつは貴重だしな」


 「素顔も声も、俺だって知らねぇんだぜ」と言って、つるつるの頭を撫でた。



 ギィイイイイイイイイイイン――――――ッ!!



 レグルス君の神速の突きが炸裂。

 ――でも、メルガさんはビクともしない。


「メルガはすごいだろ。あれで普通に話ができりゃ最高なんだがな。うちの手には余るから、今度よそに行ってもらおうと思ってる」


「……あんなに強いのに活躍できないって、なんか可哀想だね」


「仕方のないことです。生きていく上で、社交性は必須能力。ジョブやスキルだけはどうしようもないこともございます」


 【暗殺者】という闇ジョブを授かるも、自身の社交性をフル活用しレグルス君のメイドとして真っ当に働いてきたミモザさん。本来なら日の光を浴びて生活できなかった彼女だからこそ、その言葉には重みがある。


「何やってんだよ!! 早く殺しちまえ!!」


「もう一発だ!! もう一発叩き込んでブッ刺せーっ!!」


「お前に賭けてんだぞチビ!! 殺さなきゃ承知しねぇからな!!」


 多少のヤジは仕方ないと思うけど……。

 

「何かちょっと……周りのひとたち、怖い……」


「品がないです。これがダリア王国の教育レベルの高さということですか」


「ははっ、言ってくれるな嬢ちゃん。まあ、あいつらがバカなのは認めるけどよ」


 「静かにしろ!!」とアランさんは立ち上がって言うが、数秒後には再びヤジが投げられた。

 あたしが模擬試合する時も、こんな風に言われるのかな? だったら嫌だなぁ……。


「……にしてもピカピカち〇ぽ坊主、ありゃ相当なもんだな。今までどんなやつと戦ってもメルガが圧倒的過ぎて、まったく勝負にならなかったんだが。これなら倒せなくても、Aランクくらいくれてやっても誰も文句言わねぇだろ」


「坊ちゃまは勝ちますよ」


 アランさんの発言に、ミモザさんはすかさず返した。

 レグルス君を見つめたまま、何の迷いもなく。


 再び構えたレグルス君。

 攻撃がまったく効かなかったのにむしろ嬉しそうな彼を見て、あたしも頷く。


「――うん、レグルス君は勝つ。絶対に勝つよ」


 そう言うあたしたちを見て、アランさんは肩をすくめた。




 ◆




「ごめん、メルガ。別にあんたのことを下に見てたわけじゃないけど、死んだらどうしようって思って余計な手加減をした」


 軽く深呼吸をして、剣の柄を握り直す。


「――もう二度としない。約束する」


 ―― 武太血ぶったちゲージ低下 ――

 ―― ××××× ××××× ××××× ――


 武太血ぶったちゲージを全て消費。


「――――行くぞ、【重騎士】!!」



 出力――150パーセント。

 この状態の持続時間は、およそ1秒。


 泣いても笑っても、これで終わり。

 この一瞬で、僕は勝つ。




――――――――――――――――――

 あとがき


 何か普通にバトルしてますが、次話、ちゃんとアホなのでご安心ください。

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