第24話

一緒にカウンセリングなどを受けているが、いつ悪夢が消えてくれるのか今はまだわからない状態だった。



「もう少し、ゲーム会社について調べてくれないか?」



「……わかった」



あたしは頷き、もう1度検索し直したのだった。


☆☆☆


それから1時間ほど、あたしはゲーム会社に調べていた。



今度は公式の記事だけじゃなく、SNSなども確認していく。



しかし、10年も前になくなった会社のことだから、話題に出している人はほとんどいなかった。



「あんまり、いい噂はなかったみたいだね」



一般の人の書き込みを何件か読んでみても、ホラーゲームを扱っているということで世間から白い目で見られていることがわかった。



「ジャンルによって、受け入れられやすいものとそうじゃないものがあるよな」



イクヤは頷き、そう答える。



特にゲーム会社の近隣住民からは、妙なゲームを制作していると噂されていたようだ。



「ここで働いていた人たちは肩身が狭かったのかもしれないね。当時の社員さんのブログがあったけど、『絶対に見返したい』とか『ホラーだからって差別されたくない』っていうことをずっと書いてあったよ」



「見返したい、か……。もしかして、それが原因で避難勧告を無視して働き続けてたのかもしれないな」



「そう……かもしれないね」



あたしたちの憶測に過ぎないけれど、自分の好きなものを非難されれば誰だって嫌な気持ちになる。



だからこそ、人一倍努力をしていたのかもしれない。



そして、逃げ遅れた……。



暗い気持ちになったとき、不意にドアがノックされてあたしは視線を向けた。



「長浜君、いるかい?」



その声は先生のものだ。



「はい」



イクヤの代わりに返事をして、ドアを開ける。



そこには慌てた様子の先生が立っていた。



「国吉さんも一緒にいたのか、ちょうどよかった」



先生は早口でそう言い、しっかりとドアを閉めると部屋の中央へと歩いて行った。



「先生どうしたんですか? 慌てているみたいですけど?」



イクヤも先生の声で分かったらしく、そう訊ねた。



「大変なことになったんだ……あのゲームが……」



震える先生の声にあたしは不穏な空気を感じたのだった。



「ゲームが消えたって、どういうことですか!?」



あたしは思わず大きな声を出していた。



先生の話によると、供養してもらうために神社に持って行ったゲームが、忽然と消えてしまったということなのだ。



他の供養する品々と一緒に保管されていたはずが、どこをどう探してみてもゲームだけ見つからない。



供養する前に紛失してしまったことで、神主さんから先生へ連絡が入ったらしい。



「先生にもわからないんだ。もう、なにがなんだか……」



そう言い、青ざめて両手で顔を覆いかくす先生。



「もし、また誰かの手にゲームが渡ったらどうなるんですか? また、同じ被害が出るんじゃないですか?」



イクヤが先生に詰め寄る。



「そうなる前に探さないといけないけど、どこを探せばいいかわからない……」



先生も懸命に探した後なのかもしれない。



「神社の中にはなかったんですよね?」



あたしがそう訊ねると、先生は何度も頷いた。



「あぁ。私も一緒になって探したから間違いない」



じゃあ、一体どこに……?



「ゲーム研究会の倉庫は探しましたか?」



イクヤの言葉にあたしは目を丸くした。



「いや、そこはまだだが……」



「ゲームはプレイ途中で終わってしまいました。もしかしたら、元の場所に戻っているのかも……」



あのゲームには霊的ななにかがとりついている。



そう考えると、元の場所に戻っていても不思議ではなかった。



何が何でもあたしたちに最後までプレイさせようとしているのかも……。



そこまで考えて、ハッと息を飲んだ。



「もし、他の生徒たちがゲームに気が付いてプレイしていたら!?」



1度経験したあたしたちなら絶対にゲームに手を出さない。



だけど、他のゲーム研究会の生徒たちなら興味本位で遊んでしまうかもしれない。



「行ってみよう!」



そう言ったのはイクヤだった。



すでに鞄を肩にかけている。



「でも、イクヤは……」



あたしが止めようとしたが、イクヤの意思は固かった。



「俺だってプレイヤーの1人だ。ユウだけで行かせるわけにはいかない」



こうして、あたしたち3人は学校へ向かう事になったのだった。


☆☆☆


あたしたち3人は、被害を最小限に減らすため夜になってから学校に来ていた。



夜の学校はそれだけで雰囲気が暗く、恐ろしい。



先生についてゲーム研究会へ入ると、そこには見慣れた机とゲーム機が並んでいた。



あんなことがあって以来、あたしは1度もここを訪れていなかった。



それから先生を先頭にして倉庫へと向かう。



ドアの前で一度立ち止まり、呼吸を整える。



もしこのドアが開かなければ、誰かがあのゲームをプレイしているということになる。



あたしはゴクリと唾を飲み込み、先生の動きを見つめた。



「開けるぞ」



そう合図をして一気にドアノブを回す。



ドアは、ギィィと嫌な音を響かせて開いた。



「開いた……」



ホッとして呟いた。



ひとまず、あのゲームは誰もプレイしていないということがわかったのだ。



被害者は出ていない。



3人で倉庫内へ足を踏み入れると、ツンッと血の臭いが鼻腔を刺激した気がした。



死体や血は綺麗に片付けられているから、そんな臭いがするハズはないのに。

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