第22話
「先生……どうして……?」
今までなにをやっても誰も助けに来てくれなかったのに、どうして今になって人が現れたのだろう。
「倉庫のドアが開かなくなっていたから、まさかと思ったんだ」
先生はそう説明をしながら、真っ赤に染まった部屋を見て顔をしかめた。
「……遅かったか」
そう言い、左右に首を振る。
そんな先生の右手にはお守りが握りしめられていることに気が付いた。
「ユウ、カウントダウンは?」
イクヤにそう聞かれて、あたしは我に返ったように画面を見つめた。
「……止まってる」
画面上の数字は10秒前で停止していたのだ。
ちょうど、先生がこの部屋をノックした時間だ。
「このゲームはちゃんと供養するはずだったんだ。その前にお前たちが見つけてしまった」
先生はお守りをかざしながら、あたしたちの方へと歩いて来た。
なにがなんだかわからない。
だけど、カウントダウンは途中で止まり、ゲームは進んでいないことは確かだった。
その安堵感から、あたしは一気に意識を手放してしまったのだった。
目が覚めた時、あたしは病院のベッドに上にいた。
「目が覚めたか」
そう言われて頭を動かすと、ベッドの隣に先生がいた。
「先生……イクヤは……?」
「長浜君は怪我がひどくて、今集中治療室にいる」
「イクヤは……助かるんですか?」
そう聞くと、先生は何度も頷いた。
「出血量がひどいけれど、お医者さんが最善を尽くしてくれているから、きっと大丈夫だ」
「視力は? イクヤの視力は戻るんですか?」
意識がハッキリするに従い、倉庫内での出来事を思い出して行く。
あたしは今すぐイクヤに会いたいという気持ちをなんとか押し込めていた。
「それは……残念だけど」
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先生の言葉にあたしは愕然としてしまった。
イクヤの目は元には戻らないの?
イクヤはもう二度と、光を感じることができないの?
その事実は自分自身に刃のように突き刺さった。
あんな出来事があってようやくイクヤと気持ちが通じ合ったと思ったのに、あたしとイクヤは同じ景色を共有することができないのだ。
その焦燥感は大きかった。
「人のことよりも、君はまず自分の怪我を治すことを考えないと」
「あたしの怪我なんて、大したことないです」
あたしはグッと涙を押し込めてそう言った。
背中に大きな火傷を負った以外は、本当になんでもなかった。
ゴキブリに襲われたときだって、イクヤがあたしを庇って助けてくれたから……。
「先生、あのゲームのことについて教えてください」
あたしはすべてを知るために、そう聞いたのだった。
☆☆☆
あのゲームは元々呪われたゲームとして知られていた。
先生もそんなゲームが本当に存在するとは思っていなかったみただけれど、ネット等を探している内に行きついてしまったらしい。
そのゲームを持っていた相手は県外の大学生で、その人も大学のゲーム研究会の一員だったそうだ。
その人は中古品のゲームを買い集めてプレイすることが好きだった。
新しいゲームは沢山出て来るけれど、誰のプレイしなくなった昔のゲームをこよなく愛していたらしい。
そんな時、偶然あのゲームを購入してしまったそうだ。
「ちょっと待ってください」
あたしは話しの途中で口を挟んだ。
「中古ショップで購入したってことは、ソフトを売った人がいるってことですよね?」
あたしの質問に、先生は眉間に眉を寄せて左右に首を振った
「そう思って先生も探したんだよ。だけど、あのゲームソフトを売ったという履歴はどこにも残っていなかったんだ」
「それ、どういうことですか?」
質問しながら、背中が寒くなるのを感じた。
まるでゲームソフトが勝手に中古ショップの棚に紛れ込んでしまったような話だ。
「わからない。それに、ゲームを購入した大学生も、自分が購入した覚えがないと言っているんだ」
「嘘でしょ……」
「彼は中古でしかゲームを買わないから、中古ショップで売られていた商品だろうという憶測はできた。でも、購入した記憶はない。彼が購入した袋に勝手に紛れ込んだのかもしれない」
「そんな……」
そんな、得体の知れない出所不明のゲームだったなんて……。
「だけど彼はゲーム好きだ。1本ゲームが紛れていたことをラッキーだと思ってしまった」
「プレイしたんですか?」
その質問に、先生は左右に首を振った。
「彼自身はしていない。だけど、ゲーム研究会の学生だちが……」
そこまで言って、先生は口を閉じてしまった。
きっと、珍しいゲームを手に入れたと思って大学へ持って行ってしまったんだろう。
それが、世界一危険なゲームだとも知らずに……。
「プレイした学生さんたちは、どうなったんですか?」
「全員、亡くなってしまった」
先生の言葉にあたしは倉庫内での出来事を鮮明に思い出してしまった。
弾けとんだミホの体。
前歯を全部抜かれたホナミ。
舌を引きちぎられたイツキ。
眼球を破裂されたイクヤ。
人肉を食べたカズヤ。
「最初は誰もその事件がゲームのせいだなんて考えていなかったみたいなんだ。だけど、ゲーム研究会の中には学生たちの死体と、プレイ途中のゲームしかなかった。そしてようやく、ゲームについて調べたらしい」
「なにか、わかったんですか?」
「あぁ。あのゲームを作成していたゲーム会社のことがわかった」
真剣な表情になる先生に、あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。
「あのゲームを作成した会社は、10年前に水害に遭って社員全員が死亡していた」
先生の言葉にあたしは息を飲んで、目を見開いた。
「全員……死亡……?」
「あぁ。それは小さな会社だったけれどホラーゲームを作成していることで有名だった。あのゲームも、最初からホラーゲームのすごろく版として発売予定だったみたいだ」
だから、マスの内容があんなにグロテスクだったんだ。
「だけど、10年前の台風で大きな水害に遭い、ゲームは未完成のまま、会社もなにもかもが土砂に埋もれてしまった」
「そうだったんですか……」
確かに、10年前に大きな台風が来て被害が続出したことは覚えていた。
あたしたちが暮らすこの地域でも、何度も避難勧告が出されていた。
「それが、いつの間にかゲームは完成し、誰にも気が付かれない間に人の手に渡っていたんだ」
先生の言葉に背中が急激に寒くなって行く。
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