第15話
あたしは振るえる手でペンを持ち、暗号の下に解読文を記載して言った。
《EG-UMAKIOJAHOKUKINOW》
《ゲームカイジョハコクインヲ》
これはローマ字をそれぞれ逆さまに書いていっただけのものだったのだ。
《EG-UM》で《ゲーム》。
《AKIOJ》で《解除》。
《ゲーム解除は刻印を》。
「刻印ってなんだよ」
カズヤの言葉にあたしは左右に首を振った。
暗号を解読してみても、刻印がなんの意味かわからない。
そんな中でも、刻一刻とカウントダウンは迫ってくる。
あたしたち3人はゲーム画面を凝視した。
他に、刻印のヒントが隠されているかもしれない。
キャラクターを動かしてみたり、包帯男を確認してみる。
しかし、それらしいものは何も出てこない。
カウントダウンは残り5分になっていた。
これじゃゲームをやめる前にイクヤが犠牲になってしまう。
焦りから、あたしはコンロトーラーの方向キーをめちゃくちゃに動かしていた。
こんな風に暗号を用意するということは、どこかになにかが隠されているハズだ。
普通のゲームにだって裏技は存在する。
プレイ前にコマンドを入力するとか、特別なアイテムを入手すれば裏面に行けるとか……!
「あ!」
声を上げたのはイクヤだった。
「え?」
あたしは目を丸くしてイクヤを見つめる。
「ちょっと、貸して!」
そう言ってコントローラーをあたしから奪い取ると、イクヤは方向キーを操作した。
上、上、右、右、上。
連続して3度入力する。
するとあたしが解読した暗号にカーソルがピタリと合ったのだ。
「これ、別の画面に移動できるぞ!」
カズヤが興奮気味に言う。
「さっき、一瞬だけここにカーソルが合った気がしたんだ。当たりだったな」
イクヤも画面に食い入っている。
更にコントローラーを操作すると、画面は切り替わった。
表示されたのは額縁のようなものが6つ並んだ画面だった。
「なんだこれ……」
カズヤがそう呟いた時、画面中央に包帯男が現れた。
《やぁ! よくここに気が付いたな! この額縁にプレイヤーの手形をはめて行けばゲームは途中でもクリア扱いになるぞ!》
一文字ずつ出てくる文字を目で追い掛ける。
「プレイヤーの手形……?」
あたしは自分の手を見つめた。
どうやって画面の中の額縁に手形をはめるのかわからなかった。
「見ろよ、サイコロを振るまでのカウントダウンは止まってないぞ」
カズヤの言葉に画面右上に視線を移動させると、確かにカウントダウンは止まっていない。
こうして悩んでいる時間もほとんどないということだ。
「どうしろって言うんだよ……」
イクヤがそう言って画面に触れた、その時だった。
一番左側の額縁にイクヤの手形が表示されたのだ。
「え、なにこれ」
あたしは驚いて目を丸くした。
このゲームはモニターをタップして行うタイプじゃない。
今までも何度も試してみたから、それは確認済だった。
「この画面だけタチパネル対応になってんのか……」
カズヤがそう言って左から2番目柄の額縁に触れた。
それも認証され、カズヤの手形がはまる。
あたしは興奮して呼吸が荒くなるのを感じながら、3枚目の額縁に自分の手を押し当てた。
「すごい……」
これであたしたち3人の手形ははまった。
残る3人は……。
あたしは意識が戻らないままのホナミへ視線を向け、それから2人と目配せをした。
「ホナミの体を移動して、手形を押させよう」
そう言うと、イクヤとカズヤの2人はずぐにホナミの体を画面近くに運んでくれた。
ホナミは椅子に座らされ、あたしはその手を画面に押し当てた。
4つ目の額縁も埋まる。
良かった。
本人の意思に関係なく、手形はしっかりとはまってくれるみたいだ。
安堵し、ホナミの体を元の場所へと横たえる。
次はイツキの番だった。
すでに呼吸を止めているイツキの体に触れるのは抵抗があったけれど、躊躇している時間はなかった。
カズヤがイツキの上半身を起こすと、口からボトボトと大量の血液が溢れだしてきて、床が血に染まっていく。
イクヤはイツキの足を持ちあげて、2人してモニターの前へと移動してきた。
「ごめんねイツキ」
あたしは永遠の眠りについてしまったイツキへ向かって声をかけ、その手を画面に押しあてた。
5つ目の額縁も埋まり、あたしたちの間に笑顔が浮かんだ。
残る額縁はあと1つ……。
そう思った瞬間、あたしから笑顔が消えて行くのがわかった。
残る額縁は1つ。
プレイヤーはあと1人だけど……。
「ミホ……」
あたしは愕然とした気持ちでそう呟いた。
ミホの体はバラバラに砕け散り、肉片はすべて片付けられていた。
片付けていなかったとしても、ミホの手を再形成することは難しかっただろう。
「あと1人……どうするんだよ」
イクヤが焦った口調で言う。
カウントダウンと確認してみると、サイコロを振るまであと30秒しかなかった。
「と、とにかくサイコロを振って!」
あたしはそう言ってイクヤにコントローラーを握らせた。
考えている時間はない。
このままじゃイクヤが次の犠牲になってしまうのだ。
「くそ……! 結局続きをやらないとダメなのかよ!」
イクヤは吐き捨てるように言って、額の汗をぬぐう。
どうにか、残った3人でここから逃げ出したい。
でも、手形を押すことができなければ、途中で終わることはできない。
緊張と絶望で、喉がカラカラに乾いていくのを感じる。
見えていた希望があっという間に消え去って、今あたしの目の前には絶望しか存在していない。
そんな感覚だった。
そして、ついにイクヤがサイコロを振った。
出た目は6。
今までで一番大きな数字だ。
安堵すると同時に不安が一気に押し寄せて来る。
次は一体どんなミッションが出て来るのだろう。
3人全員が固唾を飲んで画面を見守っていた。
そして出て来た文字は……。
《眼球破裂》
あたしはその文字に息を飲んだ。
「眼球破裂って、どうすりゃいいんだよ」
カズヤはすぐに道具を探し始めている。
「殴るとか、蹴るとかなら簡単だけど、そんなことしたらイクヤが……」
ブツブツと考えながら探し物をするカズヤの後ろで、あたしは画面にくぎ付けになっていた。
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