第14話
「やるだけやってみないとダメだろ」
そう言ったのはイクヤだった。
さっきから力づくでイツキの体を押さえているから、汗が流れ出している。
あまりのんびりしていては、こちらの体力もなくなってしまいそうだ。
「どうするの……」
カウントダウンは止まらない。
でも、ミッションの意味が正しいのかどうかもわからない。
混乱した空気が漂い始める中、カズヤが再び金槌と釘を手に取った。
「死にたくなけりゃ、やってみるしかないだろ」
そう言い、一本の釘をイツキの舌に押し当てた。
その瞬間、イツキが身をよじって逃げようとする。
あたしはイクヤと共にイツキの体を抱きしめるようにして拘束した。
そして、キツク目を閉じる。
金槌が打ちつけられる感覚が、イツキの体を通って伝わって来る。
ガンッ! ガンッ! と、室内に音が響くたびにイツキの体は大きく跳ね上がる。
「あと8本……」
カズヤがそう呟き、次の準備をする音が聞こえて来る。
あたしの心臓も、イクヤの心臓も、そしてイツキの心臓も、ずっと、早鐘のように打ち続けていたのだった。
キツク目を閉じていたけれど、気が付いたらガンッ! という衝撃は消えていた。
そっと目を開けて状況を確かめる。
「イツキ……?」
声をかけてあたしとイクヤが手の力を緩めるた瞬間、イツキの体が後方へと倒れ込んで来た。
「イツキ、大丈夫か?」
イクヤの声に反応はない。
見ると、倒れたイツキの顔は真っ赤な血に染まり、口の中には血が溢れていた。
そしてイツキの目は白く濁り、どこも映し出してはいない。
「嘘でしょ……」
咄嗟に飛びのき、唖然として呟いた。
机の上には10本の釘が突き刺さった、イツキの舌が引きちぎれた状態で残されていた。
「イヤァ!」
それを見た瞬間悲鳴をあげ、目を逸らせてしまった。
10本もの釘を突き刺され、舌は耐え切れなかったのだ。
「死ぬなよ! せっかくミッションをクリアしたんだ!」
カズヤがそう言い、あたしは恐る恐る画面を確認した。
そこには《クリア》という3文字が表示されていたのだった……。
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どれだけイツキに声をかけても反応が返って来ることはなく、あたしたちはイツキの体に布を被せ、倉庫の隅へと移動させた。
「ホナミ……そろそろ起きてよ」
前歯を全部抜かれたホナミは相変わらず意識を失ったままで目覚めない。
しかし、その胸は確かに上下に動いていた。
「ホナミ……」
いつ途絶えるかわからないその呼吸に、急激に切なさが込み上げて来た。
このゲームを始めてもう2人の友人を失ってしまった。
ホナミまでいなくなってしまったらどうしよう……。
そんな、恐怖があったのだった。
「次は俺の番だ」
イクヤの声にハッとして顔を上げた。
イクヤはゲームの前に立ち、青い顔をしている。
あたしは慌てて駆け寄って、メモ用紙を手に取った。
「待ってイクヤ。なにか、解読できるかもしれないから!」
この暗号文が吉と出るか凶と出るかわからない。
でも、今はこれだけが頼みの綱だった。
「EG-UMAKIOJAHOKUKINOW……」
英語じゃない。
ローマ字でも通じない。
じゃあ、後はなにが残っているだろう?
EならF、GならHとずらして読んでいく?
ダメだ。
それでも意味は通じない。
それなら逆にEをDに変換する?
これも違う。
次第に手は震えだし、汗が額を流れて行く。
「そろそろサイコロを振らないと、カウントダウンが終るぞ」
カズヤの声にイクヤが頷く。
「待って……ちょっと待ってよ!」
焦りから正常な判断ができない。
とても簡単な暗号のはずなのに、頭が働かなくて解読できない。
イクヤには……イクヤだけにはこんな思いしてほしくない……!
そう思った瞬間だった。
あたしは「あ……」と小さく呟いていた。
普段のゲームなら、これくらいの暗号すぐに気が付いていただろう。
「わかった」
「え?」
「わかったよ、この暗号の意味が……」
そう言うと、カズヤがあたしの隣に移動してきた。
「なんて書いてあるんだ? これでゲームは終われるのか?」
その言葉にあたしは黙り込んでしまった。
確かに、この暗号文の通りであればゲームを終えることができそうだ。
でも……。
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