第13話

☆☆☆


「本当に、他の道具はなかったの?」



少し落ち着いてきてから、あたしはカズヤへ向かってそう聞いた。



「当たり前だろ? ライターがあったならそっちを使ってる」



カズヤはそう答え、ガスバーナーを段ボール箱へ戻した。



本当だろうか?



カズヤは日ごろの行いが悪いから、こちらも妙な風に考えてしまう。



「大丈夫だよユウ。本当に、あれしかなかったんだ」



イクヤがあたしの肩を抱きしめてそう言った。



その瞬間、涙があふれ出して来る。



痛みと恐怖で引っ込んでいたけれど、こうして落ち着いてくるとあっという間に涙腺は崩壊してしまった。



「この部屋を出たら、すぐに治療してもらいに行こう。な?」



そう言われ、あたしは何度も頷いた。



「ぼんやりしてる暇はないぞ。次のカウントダウンが出てる」



カズヤにそう言われ、あたしはビクリと化体を震わせた。



あたしの次は……イツキの番だ。



見ると、イツキはゲーム機の前に座りコントローラーを手に持っている。



しかし、体が震えて思うように動かないみたいだ。



次は一体どんなミッションが待ち受けているのか?



きっと、今まで通り最低なミッションが繰り返されるはずだ。



あたしは痛みを我慢し、立ち上がった。



机の上に置いたままになっているメモ用紙を手に取り、再び座り込んだ。



「それなに?」



イクヤにそう聞かれ、あたしは首をかしげた。



「画面に出てた英語。でもなんのことかさっぱりわからないし、わかっても意味なんてないのかも」



「暗号文みたいなものか?」



そう聞かれてあたしは「たぶんね」と、答えた。



プレイヤーを惑わし、混乱させるための材料になっているかもしれない。



暗号を解いたとして、そこに待っているのは更なる地獄かもしれない。



それでも、前に進める可能性もある。



「いくぞ……」



イツキが声を震わせて呟いた。



あたしはメモ用紙から視線を外して、イツキを見つめた。



カウントダウンは徐々に減っていて、それはプレイヤーの正常な判断を失わせていく。



「出た。5だ!」



その言葉に、あたしとイクヤは立ち上がった。



「5マスは大きいな……」



カズヤも真剣に画面を見つめている。



イツキの選んだキャラクターが、陽気な様子で5マス目まで移動していく。



そして出て来たミッションは……。



《舌に釘を打ちつける 10》



そのミッションを見た瞬間、イツキが頭を抱えて唸り声を上げた。



「大丈夫?」



あたしはそう声をかけ、イツキの肩に手をかける。



舌に釘を打ちつけるなんて、考えただけで恐ろしい。



普通ならできるはずのない行為だった。



だけど、釘と金槌ならホナミの時にすでに見つけてしまっていた。



カズヤはそれを手に取り、戻って来る。



「舌に打ち付けるって、どうすればいいんだ?」



そう言ったのはイクヤだった。



確かに、舌に釘を打ちつけるのは難しい。



やるとすれば机の上に舌を出し、机と舌を一緒に打ちつけることくらいだ。



そう考えていると、イツキが椅子から下りてその場に膝をついた。



そして、あたしが考えていた通り机の上に舌を乗せたのだ。



「カズヤ、すぐに終わらさせてくれよ」



「もちろん。わかってる」



その言葉を合図に、イクヤがイツキの体を後ろから抱きしめるようにして、拘束した。



イツキはきつく目を閉じて舌を出す。



カズヤはイツキの舌に釘を置き、それを容赦なく打ちつけた。



「グッ!」



舌を伸ばしたままのイツキがカッと目を見開き、低い唸り声を上げる。



咄嗟に逃げようとしているが、イクヤに拘束されていてその体は動かなかった。



釘の先端は柔らかな舌に突き刺さっているが、まだ机まで貫通していないようだ。



それから2度、3度と繰り返し金槌を振り下ろすと、ようやく釘は机まで到達した。



軟らかいけれど弾力のある舌が、釘に打たれて血に染まっている。



「できたぞ!」



カズヤが額に汗を滲ませてそう言い、画面へ視線を向けた。



しかし、その表情は一気に暗い物になった。



「どうしたの?」



そう聞きながら同じように画面を確認してみると、イツキのカウントダウンは進み続けているのだ。



「どうして? ちゃんとミッションクリアしたよね?」



イツキは舌と机を固定されてしまったため、その場から動けずにいる。



「これ……この数字はなんだ?」



カズヤがが画面を指さして言う。



見ると、そこには《10》という数字が書かれていた。



カウントダウンではなく、イツキへのミッションの後に書かれている文字だ。



「なんだろう……? 今までこんな数字出てなかったよね?」



「あぁ……」



頷いた瞬間、カズヤが息を飲む音が聞こえて来た。



「まさかこれ、釘の本数じゃねぇよな」



「え? 10本の釘を刺せってこと?」



あたしは驚いて聞き返した。



「だって、カウントダウンは止まらねぇし……」



そう言われて、あたしはイツキへ視線を向けた。



イツキは青ざめ、体をこきざみに震わせている。



こんな状態で、残り9本も釘を打てるとは思えなかった。



イツキは今にも倒れてしまいそうだ。

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