第12話

それくらいしっかり見なければ見えないくらい、小さな英字の羅列だった。



モニターが古いせいで、なかなか読み取ることができない。



あたしは机からメモ用紙とエンピツを取り出し、その文字を書き写して行くことにした。



「E……G-U……MAKIOJ……AH……OKU……KINOW……?」



なんのことだろう?



英単語になっているのかと思ったが、どうも違うみたいだ。



ローマ字読みしてみても意味が通じない。



「なにしてんだよ。時間がねぇぞ」



カズヤに言われてハッと我に返った。



見れば、カウントダウンはあと3分になっている。



あたしは慌ててコントローラーを持ち直した。



「なにが出ても受け入れる」



あたしは自分に向かってそう言い聞かせて、サイコロを振ったのだった。



出た目の数は4だった。



その数字に大きく息を吐きだした。



普通のスゴロクなら悪くない数字だけれど、暗澹とした気持ちになってしまった。



画面上ではあたしが選んだキャラクターが動き、4番目のマスで止まった。



そして、そのマスの文字が表示される。



《背中を焼く》



冷たい文字に全身が凍り付くのを感じた。



「背中を焼くって……」



そう呟いた時、カズヤたちはもう動き出していた。



ここにある道具の中から、使えそうなものを探しているのだ。



「ライターでも、マッチでもなんでもいい」



イツキがブツブツと呟きながら段ボールの中を探している。



「あ……あたしも……」



あたしはフラフラと男子たちに近づいて、一緒に道具を探し始めた。



イツキの言うようにライターでもマッチでもいい。



ほんの少し、背中を焼くことができればそれでいいんだ。



それ以外のミッションは書かれていなかったのだから。



しかし、いくら探してみてもライターやマッチと言った類のものは見つけることができなかった。



なにに使うのか分からない錆びたスプーンや、役立たずの人形ばかりが出て来る。



探している間にもカウントダウンはどんどん少なくなっていく。



あたしは焦り、何度も画面を確認した。



あたしの制芸時間は20分だ。



ホナミの時より10分少なくなっている。



早く探さないと、あたしもミホみたいに……。



そこまで考えて、慌てて左右に首を振った。



そんなことない。



ミホとホナミの番を終えて、用量は掴んでいる。



後は道具を探して、あたしが我慢するだけ……「あったぞ!」カズヤの言葉にハッと息を飲んで手を止めた。



「嘘でしょ……」



カズヤが手に持っているものを見て、あたしは愕然として呟いた。



「どうして? ライターの一個くらいあるはずじゃん!」



あたしは悲鳴を上げてダンボールの中身をひっくり返した。



絶対に見つかるはずだ。



そう考えている間に、カズヤはソレを持ってあたしに近づいて来た。



サッと青ざめて後退する。



「そうだ、先生の机の中にあるかも! 先生、喫煙者かもしれないし、ね!?」



「机の中なら、散々探しただろ」



イクヤの声がとても冷たく感じられて、凍り付いてしまった。



「でも……」



あたしはカズヤが持っているソレをジッと見つめた。



カズヤが見つけ出した物。



それは、ガスバーナーだったのだから……。




「嫌! 離して!」



あたしはイクヤとイツキに体を押さえつけられ、うつ伏せになっていた。



制服のブラウスを胸まで持ち上げられて、背中が丸見えになっている。



「こうするしかないんだよ」



イツキの苦し気な声が聞こえて来る。



「ガスバーナーなんて、そんなのヒドイよ! そこまで焼けなんて、書いてない!」



必死に叫んでも、誰もあたしのことを助けてくれない。



次第に涙があふれ出し、胸が痛くて仕方なくなる。



あたしだって分かってる。



これをしなきゃ、あたしが死んでしまうから、だからイクヤたちも嫌々やっているのだということを。



だけど、簡単に受け入れられることじゃなかった。



「ホナミ! ホナミ目を覚まして! 助けて!」



いくら叫んでみても、ホナミは目を開けてくれない。



きっとホナミも今のあたしと同じような気持ちだったのだろう。



泣いても叫んでもどうにもならない。



そんな恐怖の中、運命を受け入れたのだろう。



そう思うと、途端に体から力が抜けて行った。



まだまだ抵抗したいのに、できない。



あたしはミホもホナミも救うことができなかった。



それなのに、自分は無傷で助かりたいと思っている……。



あたしは大きく息を吸い込み、そして止めた。



グッと奥歯を食いしばり覚悟を決める。



「いくぞ」



後方からカズヤのそんな声がした次の瞬間、強烈な痛みが背中を襲っていた。



「イヤアアアアアア!!」



食いしばっていたハズの口から悲鳴が漏れた。



熱さを通りこした痛みが全身を貫く。



ジリジリとした痛みはしばらく続き、やがてバーナーの音が消えた。



しかし、背中の痛みは決して消えない。



あたしはそのままの体制で奇声を上げ、のたうちまわった。



「どこかに水はないか!?」



イクヤの声が聞こえてくる。



「水なんて、あるわけないだろ!」



イツキが怒鳴るように返事をした。



「とにかく、なにか布で傷口を押さえないと……」



イクヤの声にあたしは何度も深呼吸を繰り返した。



焼けた痛みのせいで呼吸さえままならない。



心臓はドクドクと激しく打ち続けている。



「ユウ、起きれるか?」



イクヤがあたしの制服を元に戻してくれて、ようやく体を起こすことができた。



少し動くだけで背中に激しい痛みが走った。



「見ろよ、クリアだ」



バーナーを持ったままのカズヤが、画面を見つめてそう言ったのだった。

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