第5話

カズヤがドアノブに手をかけるが、ドアは動かない。



さすがに鍵がかかっているみたいだ。



「開かないね……」



ミホがそう言った時だった。



カズヤが思いついたように、部室のドアの鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。



すると鍵はすんなりと開いたのだ。



「なんだ、部室と同じ鍵かよ」



カズヤはそう言い、にやりと笑ってドアを開ける。



ドアの向こうの部屋は真っ暗で、電気をつけないと周りを確認することができなかった。



壁際のスイッチに手を伸ばして付けてみると、オレンジ色の蛍光灯が何度か瞬きをしてついた。



「今どき裸電球か……」



イクヤがそう呟いて天井を見上げる。



コンクリートがむき出しになっていて、小さな縦長の窓が1つあるだけの寒々しい部屋だった。



中へ足を踏み入れた瞬間、全身に寒気を感じて身震いをした。



「この部屋ってなんだろう……」



ホナミも寒いのか、自分の体を抱きしめてそう呟く。



部屋の中は半分ほどが物に埋もれていて、なにが置いてあるかわからない状態になっている。



残り半分は先生の机とゲーム機、モニターが置かれているだけだった。



「ただの倉庫かもしれないな」



イクヤがそう言って段ボールの中を確認している。



隣から覗き込んでみると、その中には金槌や釘が入れられていた。



学校行事などで、生徒が使うものかもしれない。



「この部屋じゃなさそうだね」



ミホが部屋から出ようとした時「待て」と、カズヤが制止した。



それは決して抑圧するような声ではなかったが、いつもの条件反射でミホが立ち止まった。



「金庫がある」



カズヤは机の下をのぞき込んで言った。



「本当だ」



カズヤの隣にしゃがみ込み、イツキが言う。



あたしたちも確認してみると、確かに机に隠れるようにして金庫が置かれているのが見えた。



「大切な物を保管するには、金庫が一番だよな?」



カズヤが舌なめずりをして言う。



「そうだけど、鍵がない」



金庫は番号式ではなく、鍵なのだ。



番号なら何度か試すうちに開くかもしれないけれど、鍵だと開けることはできない。



それに、なんだか嫌な予感もしていた。



「よし、次は金庫の鍵を探そう。きっとこの部屋の中にあるぞ。大切な金庫の鍵だから、ガラクタみたいなダンボールの中にあるとは思えない。だとしたら……?」



カズヤが試すように言い、視線を机へと向けた。



そう。



残るは机の中しかない。



引き出しには左に1つ、右に2つの引き出しがついていた。



あたしは無意識の内にゴクリと唾を飲み込んでいた。



好奇心と、少しの恐怖。



その間でグラグラと揺れている自分がいた。



ホラーゲームは得意じゃない。



だけど、ゲームと聞くとどうしても興味が湧いて来てしまう。



カズヤが左側の引きだしを開けた。



中に入っていたのは部員たちの名簿と、入部届、その他の書類だ。



次はイツキが右側の引き出しを開けた。



中に入っていたのは印鑑やペン、事務用品だった。



あたしは大きく息を吐きだして、右下の引き出しを見つめた。



残るはここだけ……。



カズヤがそっと手を伸ばし、引き出しの取ってに触れた。



心臓がドクドクと早くなり、うるさいくらいに感じられた。



「開けるぞ」



カズヤの言葉に全員が固唾を飲んでその様子を見守った。



そして次の瞬間……。



ガラッと音がして、右下の引き出しが開けられていた。



その中にキラリと光る1つの鍵……。



「あった……」



ホナミが大きく息を吸い込んでそう言った。



「ほらな、簡単に見つかった」



カズヤは引き出しから鍵を取り出してニヤリと笑った。



「でも、本当に開けていいと思う?」



ホナミが慌てた様子で言った。



「なんだよ今更。怖気づいたか?」



「だって、金庫の中に入ってるものがゲームとは限らないじゃん? もし先生の大切なものだったらどうするの?」



カズヤの言葉にホナミは早口に説明をした。



綺麗な顔の額にジワリと汗が滲んでいるのが見えた。



「その時は金庫をしめて鍵を戻すだけだ。そうだろ?」



カズヤはホナミの目の前で鍵をゆらして答えた。



確かにその通りだ。



大切なものなら、見ていないふりをしてこの部屋を出ればいいだけ。



そうなると、もう誰もなにも言えなかった。

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