第6話
「他に言いたいことがないなら、開けるぞ」
そう言ってカズヤは座り込み、金庫へ手をかけた。
あたしは固唾を飲んでそれを見守る。
みんな、静かだった。
それぞれの呼吸音しか聞こえてこない。
下手をしたら、心音が聞こえてしまいそうなくらい静かだった。
そんな静寂を破るように、カチャッという音が響いた。
カズヤがほほ笑みを浮かべて金庫を開ける。
分厚い扉はなんの抵抗もなく開き、中のものが姿を見せた。
「ほら、ヒンゴだ!」
カズヤが大きな声でそう言い、金庫の中からディスクを取り出した。
それはCDと同じ大きさのディスクで、透明なナイロン袋に入れられた状態だった。
確認してみても、ディスクは裏も表も銀色に輝いていて、なにも書かれていなかった。
「これじゃゲームかどうかもわからないな」
イツキがそう言うと、カズヤがギロリと睨み付けた。
「こんなに頑丈に保管されてたんだ。噂のゲームに決まってんだろ」
「ただのCDかもしれないし、先生の仕事用のディスクかもしれない。だいたい、これってなんのゲーム機で起動するんだ?」
カズヤに睨まれてもひるむ気配もなく、イツキは連続してそう聞いた。
「うるさいな! そんなの入れてみりゃわかるだろうが!」
カズヤは苛立った様子でそう言い、机の上に置かれているモニターに電源を入れた。
続いて、ゲーム機の電源もいれる。
そのであることに気が付いて、あたしは口を開いた。
「このゲーム見たことないよね?」
先生の机に置かれているゲーム機はあたしが見たことのないものだった。
随分と昔のゲーム機みたいだけれど、ソフトを入れる部分は円盤状のディスクが入るようになっている。
作られた年代があやふやだ。
「確かに、見たことないかもな」
イクヤがあたしの隣からそう言った。
その距離の近さにドキッとしてしまう。
カズヤはあたしたちの会話なんて耳に入っていないようで、電源の入ったゲーム機にさっきのディスクを挿入した。
「見ろよ、動いたぞ」
モニターは何度か点滅した後、ゲーム開始を表示させていた。
「本当だ……」
あたしは唖然としてそう呟いた。
まさか、本当に動くとは思わなかった。
これは一体なんていうゲームなんだろう。
画面上には包帯がグルグル巻きにされた男のキャラクターが出ていて、その下に《スタート》と書かれたボタンが表示されている。
「とりあえずやってみようぜ」
カズヤはそう言い、コントローラーを手に取ったのだった。
プレイボタンを押して出て来たのは、キャラクターの名前や容姿を決める画面だった。
容姿を決めると言ってもとても簡易的なもので、すでに作られている動物の中から好きなものを選ぶだけだった。
「まずはお前がやってみろ」
カズヤはそう言うとミホにコントローラーを押し付けた。
咄嗟にコントローラーを受け取るミホ。
「あ、あたしが最初に作るの?」
ミホは戸惑ったように周囲を見回して言った。
「試にだよ。プレイの順番はどうせまた後で決めるだろ」
カズヤの言う通り、先にキャラクターを作ったからと言ってプレイの順番までが決まるわけじゃない。
今まであたしがやってきたゲームでは、そうだった。
それでもミホは渋々と言った様子で、自分のキャラクターに《ミホ》という名前を付け、犬のキャラクターを選択した。
「随分と安っぽいイラストだな」
文句をいいながらもカズヤはミホからコントローラーをひったくって、自分のキャラクターを作りはじめた。
最初に誰かにやらせてみて、安全だとわかったから積極的になったんだろう。
なんだかんだ言いながら《危険なゲーム》と言われている噂を気にしているのだ。
それから、6人全員自分のキャラクターを作った。
しかし、今のところこれが何のゲームなのかわからないままだ。
画面上には再び包帯男が姿を見せて《次へ》のボタンが表示された。
カズヤがそれに沿ってコントローラーを操作すると、途端に画面上に6人分のキャラクターが表示された。
もちろん、それは犬や猫と言った自分たちで選んだキャラクターたちだ。
《順番を決めてください》
下に出て来た文字を読んでカズヤがまたミホにコントローラーを渡した。
「まずは、お前が1番だろ」
「どうして!?」
これにはさすがにミホも反発した。
普通のゲームなら問題なかったかもしれないが、これは普通のゲームなのかどうかもわからない。
「なんだよ、俺に反発する気か?」
「やめなよカズヤ。ちゃんとジャンケンで決めればいいじゃん」
あたしは咄嗟に2人の間に割って入ってそう言った。
公平にジャンケンで決めれば、だれが1番になっても文句は言えない。
あたしの言葉にカズヤはミホを責めるのをやめ、舌打ちをした。
カズヤは一番大人しいミホに対してだけ、威圧的な態度になる。
「仕方ねぇな」
カズヤはブツブツと文句を言いながらもジャンケンをすることで納得したようだ。
そして、決まった順番は……。
ミホ→ホナミ→あたし→イツキ→イクヤ→カズヤの順番だった。
「結局お前が1番じゃねぇか」
カズヤはそう言ってミホを睨み付けている。
本当ならカズヤに1番になってもらいたいところだったけれど、こればかりは仕方ない。
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