第3話
イツキはすでに行く気満々のようで、目を輝かせている。
不意に、昨日途中までしかできなかったゲームを思い出してしまった。
あたしがやり始めたゲームは全12作品が発売されている冒険ものなので、これから何時間かかってプレイするかわからない。
1度クリアしても2度、3度とプレイすることで新キャラが出現したり、ストーリーも変化する。
全12作品を制覇するのは簡単なことじゃなかった。
グラリ。
自分の気持ちが大きく揺れ動くのを感じた。
家に帰ればあのゲームは絶対にできない。
主人公の冒険を進めることはできない。
クリアは遠ざかる。
でも今日ゲーム研究会へ行けば……。
「行くつもり?」
ホナミに聞かれてハッと我に返った。
無理矢理笑顔を浮かべて「そ、そんなわけないじゃん……」と、消え入りそうな声で答えたのだった。
☆☆☆
昼休憩になり、ミホとホナミと3人で昼ご飯を囲んでいると不意にホナミが「あたし、イツキに付いて行くから」と、言い出した。
「え?」
何のことだろうと首を傾げてホナミを見る。
ホナミはあたしに視線を合わせることなく「今日、ゲーム研究会に行く」と、答えた。
「え、だって……」
ミホが驚いたように目を丸くし、箸を止めた。
「カズヤのやってることはいけないことだけど、でもイツキが行くなら、行く」
そう言い切って頬を赤らめるホナミ。
その様子にあたしとミホは目を見交わせた。
「まさかホナミって、イツキのこと……?」
「わかんないよ。わかんないけどさ、仲良くしてる男子たちの中じゃ、一番いいかなって……」
照れ隠しの為か、ホナミは早口になっている。
話している間に耳まで真っ赤に染まり、俯いてしまった。
そんなホナミを見ている間に、気が付いたらあたしは笑顔になっていた。
美人で人気者のホナミは恋愛には興味がないのだと思っていたけれど、実は密かに思いを寄せている人がいたみたいだ。
しかも、あたしたちにとっても身近なイツキに。
「いいじゃん、イツキ。常識的だし、顔も結構カッコいいよね」
あたしの言葉にミホがうんうんと、頷いた。
「ホナミとお似合いだと思うよ?」
ミホにそう言われてホナミは更に顔を赤らめている。
「だからさ、2人も行こうよ。今日」
今度はすがるような視線を向けてそう言われ、あたしは笑い出してしまった。
「ホナミが行くなら、あたしも行くよ。1人にはさせられないもんね」
「そうだね。じゃあ、あたしも行く」
あたしの言葉にミホが賛同してくれた。
ここはひとまずカズヤのことは忘れてしまおう。
「それより、いつからイツキのことをそんな風に見てたの?」
「わかんないよ。なんか、気が付いたら目で追いかけてたんだから」
下を向き、モジモジと口ごもりながら言うホナミ。
普段から言いたいことはハッキリ口に出すホナミが、まるで別人みたいだ。
その姿は美人というよりも可愛らしくて、こっちまで自然と笑顔になってしまう。
「あたしのことよりも、自分の事を気にしたらいいのに」
ホナミがあたしへ向けてそう言って来た。
「え?」
咄嗟のことだったので上手く誤魔化す事ができず、あたしは固まってしまった。
「イクヤのこと、好きなんだよね?」
そう聞いて来たのはミホで、聞かれた瞬間悲鳴をあげそうになっていた。
見る見る内に体温が急上昇して行き、ホナミ以上に赤面しているのが自分でも理解できた。
「ユウは顔に出まくりだから、バレバレだよ?」
ホナミが笑うのを必死で我慢してそう言った。
「そ、そんなに顔に出てた……?」
「出てたよ」
ミホがあたしの頬をツンッとつついて答える。
その言葉にあたしは両手で顔を隠して大きく息を吐きだした。
一緒にいる2人にバレバレなら、本人にバレている可能性も高い。
「もう……これから先どんな顔してイクヤと会話すればいいかわからない」
「何言ってんの。ユウのことが嫌なら、イクヤの方から離れて行くと思うよ?」
「そうだよ。ユウとイクヤっていつも一緒にいるじゃん」
2人の言葉にあたしはそっと両手を外した。
今にも泣いてしまいそうになっていたけれど、少しだけ涙が引っ込む。
「……本当に?」
「そうだよ。逆にさ、いつ告白するのかなってずっと思ってたくらいだよ」
ホナミが呆れ顔でそう言って来たので、あたしはまた両手で顔を覆った。
「告白なんて……考えてない」
くぐもった声で言うと今度はミホが「でも、イクヤもユウのことが好きだと思うよ?」なんて言ってくる。
仮にイクヤがあたしのことを好きだったとしても、告白する勇気なんてない。
だって、イクヤは男女共に人気があって勉強もできて、でもあたしは人気なんてなくて、勉強も中の中で……。
考えれば考えるほど、不釣り合いだった。
「ま、自分たちのタイミングでいいと思うけどさ、どっちが先に告白するか賭けない?」
ホナミの言葉にあたしは目を見開いた。
「賭けなんて……」
ホナミは見た目がいいから自信があるのかもしれないけれど、あたしにはそんな自信もない。
同じ土俵にいると思われても困る。
「これはゲームだよ」
ミホがあたしの肩をポンッと叩いて言った。
「ゲーム?」
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