第14話 予想外
イレギュラーが起こっている可能性を考慮し、探索を切り上げた翌日。
ユージは一人で初級ダンジョンを訪れた。
目的はイレギュラーの正体を特定すること。ミユとの探索にできるだけ予想外の出来事が差し込まれないように対処しようと考えたのだ。仮に自身では対応できないようなことが起こっていた場合を考えて、ギルドには報告済みである。数日ユージがダンジョンから戻ってこなければギルドが動いてくれるだろう。
「さてと、四階層についたが……目に見える変化はないんだよなぁ」
三階層から繋がる階段を下りてきたユージが周囲を見渡すも一目で分かる異常はない。
そこで昨日異常を感じたシチュエーションを再現してみることにした。
草原エリアの中央を堂々と歩きながら森へ向かう。
途中で他の探索者とすれ違うも、特に変なところはなかった。
「ん?」
森の入り口へ差しかかったところで荒々しい殺気を感知した。
長年ダンジョン攻略を仕事として活動してきた彼にとってそれは恐怖の対象ではない。様々な情報を拾い上げるためのヒントである。
「この感じだと俺だけを狙ってるわけではなさそうか」
自分一人に殺気を向けられたなら、もっと肌に刺さるような感覚があるはずだ。もちろん相手の性質によって多少違いは出るが。
ユージは相手をあえて刺激するようにずかずかと森の中を進む。
草花を踏み枝はへし折る。自分の居場所はここだぞと知らしめるように歩き続ける。
「おっ?」
目の前の茂みが揺れた。
生き物の気配がするため魔物が潜んでいるのは間違いないだろう。
「ハズレだな」
殺気の発生源はもっと遠くにある。
目視するまでもなく接近してきた魔物は関係のないものだと分かった。
ユージは左腕に持つ大剣を構え、相手が姿を現すまで待つ。
ゲァゲァ、ゲァゲァとしゃがれた声で笑いながら現れたのはゴブリン。
「まぁ、そうだよな」
四階層に出現する魔物はスライム、一角兎、ゴブリンのみ。前の二種は草原エリアに多く生息するため、森で魔物と遭遇したなら八割以上の確率でゴブリンとなる。
予想通りの相手が現れたので、ユージはすぐに片づけることにした。
無造作に左腕を振るうと大剣が唸りを上げながらゴブリンを真っ二つにした。
グゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ。
人生でゴブリンの断末魔を聞くのは何度目か。
飽きるほど浴びたそれを聞き流しながら、増援に対処できるように大剣を構えた。
「やっぱりこねーか」
いくら待っても増援のゴブリンは現れない。
弱者だからそこ群れ、助け合う。そんな習性を持つ種族のはずなのだが。
これだけでは答えは出ない。そのためユージは手あたり次第にゴブリンを狩ってみることにした。
五、十、十五。
五十、百、二百。
気配を察知できた個体を全て倒してみたが、一度たりとも増援はこなかった。それこそ目視できる距離にいるゴブリン同士ですら互いに助け合おうとしないのである。
「お? 殺気が消えた?」
森に入ってからずっと感じていた殺気がスッと消え去ってしまった。
いったいどういうことだ。予想外の結果にユージは頭が痛くなる。
実はユージは昨日家に帰ってからいくつかの可能性を考えていた。その中で最も高いと考えていたのが、ゴブリン種の王が生まれたということ。
本来弱い種であるゴブリンだが、数千数万体に一体だけ非常に強い個体が生まれる。それが成長したものをゴブリンキングと呼ぶ。
そいつが頂点に君臨する群れは軍のような統率が取れた動きをするため、仲間の悲鳴が聞こえたからと場当たり的に周囲のゴブリンが勝手に増援へいったりすることがなくなるのだ。その代わりに一日でゴブリンを多く狩り過ぎた探索者などは目を付けられて、千を超える数のゴブリンにすり潰されることになる。
「さっぱりわからん」
仮にゴブリンキングが誕生して殺気を放っていたとしたら、今消した理由が分からない。なぜならユージはゴブリンキングが誕生したと仮定して、奴らが許容できない量のゴブリンを狩ってやろうと動いていたからだ。殺気が増すか大量のゴブリンが現れたなら、問題なかった。それでイレギュラーの正体がゴブリンキングだと特定できるから。
しかし、真逆のことが起こってしまったため百戦錬磨のユージでさえイレギュラーの正体が予測できなくなってしまった。
「仕方ねえ。今日は切り上げるか」
目的を果たせなかったユージはむしゃくしゃしながら、森を出ようと歩き始めたのだった。
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