第13話 すれ違い
魔法の才を持つ者は自然とその力の振るい方を理解できる。
探索者の間では常識である。
ユージも探索者デビューし、魔物を数体倒して魔力を肉体に取り込むと自然に爆炎魔法の使い方を理解できた。
今回、指導しているミユまた同じだった。彼女の母であり、同じ死霊術の使い手である京子から才能があると言われただけのことはある。直感的に死霊術の使い方と今の自分が使役できるであろう死霊の数を自然と把握していた。
「初日から十体まで使役可能か……」
恐ろしい才能である。
そもそも死霊術を使用する者自体少なく、貴重な魔法である。そんな稀有な才能の持ち主たちでさえ平均して五、六体使役するのでやっと。それを探索者になったばかりの少女がすでに十までは使役できるというのだ。流石にユージも驚愕していた。
「もしかして少ない?」
へにゃっと眉毛を曲げたミユが小さな声で言う。
「逆だ。多過ぎる」
「えっ、そうなの? でも、それって良いことだよね?」
「あぁ。最初から平均的な死霊術師の能力を上回っているってことだからな」
「う~ん……まだよく分かんないや」
「今はそれでも良い」
十体の死霊を使役できる。
手駒にできる死霊の数が多いと様々な局面に対応しやすいため、良いことではある。ただ、現状のミユに十体も死霊が必要かと言われればそうではない。まだ初級ダンジョンに潜っている段階だ。相手はスライム、一角兎、ゴブリン系、それから最下層にいる例のボスくらい。ソロ探索であると仮定しても戦力過剰である。全てゴブリン系で揃えるなら上限の半分、つまり五体も使役できていれば安全に初級ダンジョンをクリアできる。もちろんもう少し魔物をミユに倒させて成長してもらう前提での数ではあるが。
よってここで使役させるゴブリンは五体までとする。
ユージは頭の中でまとめた方針をミユに伝えた。
彼女もそれに納得したため、早速一体目のゴブリンに死霊術をかけることになった。
「よし、一体目は俺がやる。死体が光になって消える前に上手く魔法を使うんだぞ」
二人が会話をしながら森の中を歩き始めて二十分が経過した頃。最初の獲物が見つかった。
片手に剣を持ったゴブリンである。身長一メートル程度で緑の肌を持つ小鬼。顔は醜悪でニオイもゴミのようである。
初めて相対した探索者の半数はその臭いが原因で逃げ出すと言われている。
ただユージは何度も倒してきた相手であるため何の抵抗もなく接近していく。
「ミユ聞いてるか!?」
返事をしないミユに対して少し叱り気味に叫ぶユージ。
「う、うん。聞こえてるよ?」
少し籠った声で返事がされた。
「おい、臭いからって鼻をつまむな! んなこと気にしてたら魔法に失敗しちまうぞ!!」
「だって臭いんだもん!」
「子供みたいな言い訳するなよ――――って、しまった! 気づかれた!!」
ユージが大声で叫んだせいでゴブリンにこちらの存在がバレてしまった。
「仕方ねえ。とりあえずやるか!」
ひとっ跳びで距離を詰めたユージは左腕で大剣を振り下ろす。
グゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ。
断末魔と共にゴブリンは倒れた。
「ミユ、今だ!」
「う、うん」
ゴブリンの死骸は消えるまで悪臭を放ち続ける。そのためミユは離れた位置から死霊術を使おうとした。
そして――――。
「あれ? 上手くいかない」
失敗したのである。
ミユは急いでもう一度死霊術を使おうとするも間に合わず、ゴブリンの死骸は光となり消えてしまった。
…………。
やってしまった。
せっかくユージさんがゴブリンの死骸を用意してくれたのに。
臭いから、なんてくだらない理由で遠距離から魔法を使おうとして失敗した。
予めユージさんが注意してくれていたのに。
もしかしたら才能があると褒められて調子に乗っていたのかもしれない。未だに自分では何一つ成し遂げてはいないというのに。
ミユが自責の念に囚われている頃。
ユージは全く別のことを考えていた。
――――救援のゴブリンがなかなか現れない。
基本的にダンジョンのゴブリンは集団で行動しており、仮にはぐれがいたとしても危機的状況に陥ると先程のようにそれを知らせる叫び声を上げる。それが聞こえた近くにいるゴブリンは例え別の群れの個体でも助けるために集団で駆けつけるのである。
しかし、今回はそれがない。もちろん声の届く範囲に別のゴブリンたちがいないという可能性もあるが……何かきな臭い。
ユージは長年探索者をしてきた勘から、少しイレギュラーなことが起きているのかもしれないと思い始めた。
「ミユ、今日は帰るぞ」
「えっ?」
ここは初級ダンジョン。
仮にイレギュラーが起こったところでユージならどうにかできるだろう。
しかし、ミユがいる状態だとどうだろうか。
できるできない、可能性は半々といったところだ。
母である京子から育ててくれと預かったミユが五割の確率で危険に晒されてしまう。そんな選択を、全盛期の半分の力も出せないユージがするはずがない。
すぐにダンジョン探索を切り上げる判断を下した。
だが、ミユにユージの考えていることなど読めるわけもない。
ただ自分が不出来だったため帰ると言われたと思い込んだ。
帰り道。
ユージはイレギュラーへの最大限警戒していたことから。
ミユは単純に落ち込んでいたから。
二人が会話することはほぼなかった。
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