第4話 ギルド職員と探索者


 次の日、ユージはハンバーガーショップでドカ食いを済ませてギルド浅野支部へ向かった。すでにマサトは到着しており、建物の入り口付近で周りをキョロキョロと見回していた。


「あっ! ユージさん!!」

「おう、待たせたな」


 ユージの短髪は真紅で目立つ。その上かなり大柄なので近づいていく段階で、マサトもユージの存在に気づいた。


「いえ、さっききたばかりなので気にしないでください」

「男にそう言われるの、なんか嫌だな」

「え? 別に変なこと言ってないと思うんですけど」


 軽く挨拶を交わしたところで二人はギルド浅野支部の建物内へと入った。そして真っ直ぐに受付カウンターへと足を運ぶ。


「よー、アリサ」

「ユージさん、こんにちは! 後ろの君は……昨日の?」


 ユージより一歩後ろにいたマサトの存在に気づいたアリサが、少し体を横へ傾けて覗くような姿勢になる。


「はい。龍ヶ崎マサトです。これからよろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくお願いいたします」


 アリサは丁寧に腰を折り、礼をする。


「ところで今日はどういったご用件でしょうか?」

「実はな、こいつが最低限ダンジョンを生き抜けるようになるまで指導してやることになった。だからその下準備をしにきたんだよ」

「では、マサト君に合いそうな貸し出し装備を見繕えば良いですか?」

「おう。話が早くて助かるよ」


 アリサは奥にある倉庫へと消えていった。


「あの、武器ってこの木刀じゃダメなんですか?」

「ダメだとは言わねえが、おすすめはできん。刀ってのは剣よりも扱いが難しいからな。俺は前線張る人間には扱いやすい剣を薦めることにしてる。小さめの剣を選べば、空いた方の手で盾も構えられるしな」

「なるほど。ちなみにユージさんみたいに大剣を使うのは……」

「やめとけ。そもそも俺のこいつは百キロオーバーだ。マサトが背負おうとしたら、潰れちまう」


 そもそも全盛期のユージは武器など装備していなかった。無属性の魔法である身体能力強化で肉体がダンジョン産の武器すら上回る矛であり盾であったから。

 【偽神の呪い】を受けた現在は、魔力操作がまともにできず魔法は発動すらままならないため同じ戦い方はできない。とはいえ、元の身体能力が非常に高いため左腕一本で二メートル近い大剣を振り回すという超人的な戦闘スタイルをとっている。

 どちらの戦い方にせよ、普通の人間にはまず真似できない。だからこれまでに指導した新人探索者に素手や大剣を薦めたことはない。ベテラン探索者の間で、前衛をするなら最もバランスが取れていると上げられる片手剣と盾を持つスタイル。それを薦めることにしていた。


「ははは……ユージさんの言う通り剣を使うことにします」


 巨大な鉛の塊を余裕綽々と振り回すユージの規格外っぷりには、マサトも苦笑いで返すしかなかった。


「――――すみませーん。お待たせしました!」


 額に汗を浮かべたアリサが帰ってきた。装備がまとめて入れられている段ボールを台車に乗せて、ひいひい言いながら急いで持ってきてくれたようだ。


「おう、ありがとな。あとこいつの木刀預かっておいてくれねえか?」


 マサトが大事そうに抱えている木刀を抜き取り、受付カウンターに乗せる。


「はい、もちろんです。マサト君、帰りに受け取るの忘れないようにね」


 アリサはパチっとウインクをすると、優しく微笑んだ。


「えっ、は、はい!」

「ガキがなーに照れてんだ」


 年上女性のあざとかわいい仕草にドキッとしたマサトの顔はほのかに赤かった。


「い、い、い、いや! 別に照れてなんて――」

「アリサも、あんまりうちの弟子をからかうなっての」

「別にそういう意図があったわけじゃないんだけどな~」

「まぁ、お前新人のときからあざとかったもんな。今更、やめろと言う方が無理か」

「あ、あの、気になってたんですけど、ユージさんとアリサさんって仲良さそうですよね。昔からの知り合いなんですか?」


 アリサはまだ高校生のマサトに対しても丁寧な対応だった。他の探索者たちにも同じ対応だっただけに、彼女がユージにだけ少し砕けた態度を取るのが不思議だと感じたようだ。


「まぁなー。どういえばいいだろうな……あっ、そうだ。同期って言えば分かるか? 俺の探索者デビューとアリサのギルド職員デビューが同じ時期だったんだ」

「そうですねー。お互い新人だった頃はユージさんは血だらけで帰ってくるわ、私はまだ見慣れないその様子に大騒ぎするわで、ギルド内を賑わしてましたもん」

「ちなみに~、お付き合いは――――」

「「それはない!」」


 二人揃ってきっぱりと否定する。

 彼等は強い信頼関係にあるが、あくまでもそれは探索者とギルド職員としてだった。お互いに今の距離感が心地良いため過度なプライベートへの介入はしないようにしている。


「ほらほら、お二人ともダンジョンに行くつもりじゃなかったんですか?」


 微妙な空気になってしまったため、アリサがさっさとダンジョンへ行くようにと促す。


「そうだったな。おい、マサト。さっさとあっちの更衣室で借りた装備をつけてこい。俺は外で待ってるから」

「分かりました!」

「つーことで、またなアリサ」

「はい、ユージさん。お気をつけて」


 背を向けて歩き出したユージを笑顔のアリサが見送るのだった。



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