第4話
馬車を襲ったゴブリンたちは、すべてがメスゴブリンであった。
この時期はゴブリンの繁殖時期であり、メスゴブリンたちが村などを襲って男たちを連れ去っていくという事件が多発しているそうだ。
メスゴブリンたちに
その日は野宿をすることとなった。
馬車は大破しており、同乗していた女性たちは皆ゴブリンとの戦いで犠牲となってしまった。わたしを助けてくれたのは、通りがかりの冒険者一行であった。もし、彼女たちが通りかかってくれなければ、今頃わたしは……。そんなことを想像すると生きた心地がしなかった。
服が破れてしまったため、ゴブリンからわたしを助けてくれた女戦士が持っていた予備の服を借りることにした。服はサイズが大きくブカブカだった。こちらの世界では、体格も女性の方が大きい。身長168センチと元の世界では、平均的な身長の高さだったわたしもこちらの世界では大柄な男という見方をされるのだが、それ以上に女性たちは体が大きかった。
焚き火に当たりながら、ウトウトしていると誰かがわたしの隣に座る気配がした。誰だろうか。そう思い、顔をあげようとしたが睡魔の方が強く、わたしはそのまま目を閉じた。
しばらくすると荒い息遣いが聞こえてきた。うっすらと目を開けると、わたしの上に誰かが
わたしの頭の中で、昼間ゴブリンに襲われた時の光景がフラッシュバックした。
必死に抵抗をした。
手を伸ばしたところに何か硬いものがあった。それが何であるかはわからなかったが、わたしはそれを掴み、振り回した。
わたしがそれを振り回したことに寄って、わたしに乗っていたものの力が弱まった。
闇の中を逃げ出した。どこでもいい。わたしは本能的に走った。
どこをどう走ってきたのかはわからなかったが、わたしは体力の限界を覚えて、その場に座り込んだ。
夜空に浮かぶ月だけが、唯一の明かりだった。この辺りは森のように木々が生い茂っており、時おり聞いたこともないような鳥の鳴き声と思われるものが聞こえていた。
少しして冷静になったわたしは自分の手に握られているものを月明かりに照らして見た。それは先の尖った細長い木の枝だった。そして、その枝の先は赤く染まっている。おそらく、振り回した際にわたしの上に乗ってきたものを刺したのだろう。赤い血であるから、相手は人間であったに違いない。ゴブリンであれば、血は赤紫である。
あれは、わたしを犯そうと上に乗ってきたのだ。
そのことを思い出しただけでも、震えが込み上げてきた。
明るくなる前に出来るだけ、離れておく必要がある。もし、見つかったりすれば、下手したら殺されるかもしれない。
しかし、わたしはいま自分がどこにいるのか、わかってはいなかった。
逃げることに必死で、闇雲に走ってきたのだ。
とりあえず、この場に留まるのは危険だと判断して、闇の中をわたしは歩きはじめた。
しばらくすると、少し離れた場所に明かりがあるのが見えた。おそらく焚き火だ。もしかしたら、別の冒険者たちがいるのかもしれない。わたしはその焚き火に向かって進んだ。
焚き火は人がするものばかりだと思っていた。わたしは、自分のこの世界での知識の無さを呪った。
火の明かりに近づいていった時、その光景にわたしは息を呑んだ。
そこには三人の男たちが居た。どれも全裸であり、その周りを囲むようにして十匹近いメスゴブリンたちがいる。彼らは、メスゴブリンたちに代わる代わる犯されていた。
わたしは込み上げてくる吐き気を抑えながら、後退りしたが、その時に小枝を踏んでしまい、乾いた音が響き渡った。
その音に一匹のゴブリンが反応した。
わたしは力の限り、全速力で走った。足がちぎれてしまってもいい。だから、絶対に捕まりたくはない。神様、もし神様がこの世界にいるのであれば、わたしを助けてください。そんな祈りを心のなかで唱えながら、わたしは必死に走り続けた。
なにかに
背後からはペタペタという裸足で走るゴブリンの足音が近づいてくる。
足が動かなかった。もしかしたら、折れているのかもしれない。
絶望しかなかった。
暗闇の中から聞こえてくる、ゴブリンたちの話す意味不明な言葉。
気がつくと、わたしは囲まれていた。
倒れているわたしの周りを取り囲むように五匹のゴブリンがいる。
わたしは震えた。心の奥底から恐怖が込み上げてきた。
なにか、一匹のゴブリンが叫び声のようなものを挙げ、その声を聞いたわたしは恐怖のあまり、失禁してしまった。
わたしの失禁に気づいたゴブリンたちは笑っていた。そう、奴らも笑うのだ。そして、舌なめずりをしながら、わたしに近づいてくると、わたしの足を掴もうと手を伸ばしてきた。
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