第3話

 その小さな町を仕切る女領主のもとへは、馬車を使って移動した。馬車は乗り合いであり、わたしの他に三人の女性が乗っていた。

 ひとりは十代後半くらいと思われる若い女性であり、もうひとりは二十代後半から三十代前半くらい、そして最後の一人は五十代くらいのマダムといった感じの女性だった。


 彼女たちは、無遠慮にわたしのことを値踏みでもするかのような目で見てくる。

 その視線にはどこかいやらしさのようなものが含まれており、わたしはどうしていいのかわからずドキドキしていた。


 以前いた世界では、このような目で見られたことは一度もなかった。


 しかし、考え方を変えてみると、以前いた世界でも同じような視線を時おり感じていたことに気づかされた。

 その視線の対象はわたしではなく、若い女性に対してのものだった。丈の短いスカートを履いた女性やボディーラインがよくわかる服を着た女性たち、そういった女性たちを無遠慮な視線でジロジロと見るいい大人の男たち。

 その視線には、性的な意図が含まれていることは確かであり、見ている方はそんな格好をしている方が悪いのだと言わんばかりにジロジロと見ていた。


 それが、いまわたしに向けられている視線と同じものなのだということに気づいた時、わたしは恐怖に近いものを覚えた。


 その思いに至ったわたしは、誰とも目を合わせることが出来なくなり、馬車の揺れに身を任せてずっと俯いていた。


 急に馬車が止まったのは、それから少し経ってからのことだった。

 何やら外が騒がしい。


「どうかしたの?」


 五十代くらいのマダムが不満げな声を上げて馬車のほろの脇についている小窓から顔を出す。


 次の瞬間、彼女の身体がビクリと震えた。


 どうしたのだろうか。そう思ってわたしが彼女の方を見ていると、白かったほろが真っ赤に染まった。


「敵襲っ!」


 どこからか叫ぶような声が聞こえた。

 同乗者であった十代後半くらいの若い女性が床に置いていた剣を手に立ち上がると馬車から飛び出していった。もうひとりの二十代後半くらいの女性も立ち上がると、鋭い目つきをして馬車から下りていく。


「あんたは、この中に隠れていな」


 女性はわたしにそう言って、馬車の戸を閉めた。


 わたしは馬車のシートの下に身を隠し、事が収まるのをじっと待っていた。

 外からは獣の断末魔のような声が聞こえてくる。

 一体、彼女たちは馬車の外で何と戦っているのだろうか。


 馬車が大きく揺れた。

 そう思った次の瞬間、わたしの体は宙に浮いていた。

 体に衝撃が走る。痛み。そして、体の上に何かが乗っかってくる。


 目を開けると、わたしは野原にいた。わたしの顔の脇を見たことも無い昆虫が横切っていく。

 呼吸ができなかった。わたしの肺を押しつぶすように何かが上に乗っかってきているためだ。わたしは力いっぱいに手を伸ばし、そのわたしの体の上に乗っかっているものをどかした。手にはぬるとした生暖かい感触があったが、気にはしていられなかった。


 なんとかして、その物体をどかしたわたしはようやく肺の中に空気を送り込むことができるようになった。

 呼吸を整えて起き上がると、一体何が起きているのかを確認しようと辺りを見回した。


 乗っていた馬車は、大破していた。どうやら、わたしは乗っていた馬車ごと吹き飛ばされたようだ。どういう状況でこのようなことになってしまったのか、想像もつかないことであった。


 服は真っ赤に染まっていた。血である。どこか自分が怪我をしたのかと思い、あちこちを触ってみたが特にどこも怪我してはいなかった。

 では、この血はどこから出ているのだろうか。わたしは先ほど自分の体の上からどかした物体へと目をやった。


 そこには見るもおぞましいゴブリンの死体が転がっていた。どうやら、襲撃者はゴブリンのようだ。

 少し離れたところでは、先ほど一緒に馬車に乗っていた女性陣がゴブリンと戦っている姿が見える。ゴブリンといえば、冒険者たちにとっては初心者用のモンスターという扱いであるが、わたしのように何も力を持たない者にとっては恐ろしい存在でしかなかった。


「ギブギルギレギ」


 なにか擬音のようなものが聞こえた。

 その音のする方へと顔を向けると、そこには一匹のメスのゴブリンが立っていた。


「ゴ、ゴブリン……」


 ばっちりと目が合ってしまった。

 そのゴブリンはじっとこちらを見ている。


 ヤバい。

 そう思った時は、遅かった。


 低いタックル。わたしは、突進してきたゴブリンに足元をすくわれ、その場に倒れた。

 倒れたわたしの上にゴブリンが覆いかぶさってくる。


 ゴブリンはわたしの服を引き裂き、首に手を掛けながら、わたしのズボンを引きずり降ろそうとした。


 え……。もしかして、ゴブリンに犯されそうになっているのか。

 状況がよく理解できないわたしは、必死にゴブリンの体を自分の上から下ろそうとあがいた。しかし、ゴブリンは意外と力強く、わたしの力程度ではゴブリンをどかすことはできない。


 ゴブリンの手がわたしの下腹部へと伸びてくる。

 いやだ、やめてくれ。頼む、それだけは。


 抵抗むなしく、ゴブリンはわたしの下腹部をまさぐると自分の性器にあてがってくる。どういう仕掛けがあるのかはわからないが、ゴブリンの性器とわたしの性器が擦れるとなぜかわたしの性器は反応し、ゴブリンの性器の中へとゆっくりと挿入されていった。

 ゴブリンはわたしの上で激しく腰を振っている。わたしはもう、なにがなんだかわからなくなっていた。


 ああ……もうだめだ……。

 わたしが快楽に溺れそうになった時、鈍い衝撃音が聞こえた。


 我に返ると、わたしの上に跨っていたゴブリンの頭が陥没し、ゴブリンは絶命していた。


「大丈夫か?」


 そこに立っていたのは、メイスと呼ばれる鉄製のこん棒のような殴打用武器を持った女だった。

 わたしはゴブリンを自分の上から下ろすと、落ちていた引き裂かれた服で慌てて下腹部を隠したが、その女の視線はわたしの下腹部に注がれたままだった。

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