第2話
街はずれにあるお屋敷と呼ばれる洋館。
そこが、わたしと同じような仕事をする男娼たちの
男娼はギルドによって守られている。何か客とトラブルになった場合は、ギルドが間に入ってくれるし、金銭の交渉などもすべてギルドを通して行われているのだ。
これって、管理売春みたいなものなんじゃないのか。
ギルドに所属する際に説明を受けたわたしは、そう思った。
しかし、この世界ではそれが商売として成り立っているのだ。ギルドは女王陛下より認められた正式なものであり、女王陛下の部下たちも足しげく通っていたりするようだ。
なぜ、わたしがこの世界へとやってきたのかは、わたしにもわからない。
ある時、目が覚めたら、この世界にいたのだ。
元の世界では、わたしはごく普通のサラリーマンだった。
パソコンの前に一日中座っている事務職。
朝に目を覚まし、満員電車に揉まれて通勤し、一日中パソコンの画面とにらめっこして、終電間際まで残業をしてから帰宅する。自宅に戻れば、シャワーを浴びて、気絶するように眠るだけ。そんな毎日のループ。
休みの日は、それこそ死んだように眠り続け、身体を休めることに徹する。出かけるのは生活必需品を買う時だけ。基本的には家からは一歩も出たくない。ほぼ、一日をベッドの上で過ごし、スマホの画面を見つめながら休日が過ぎ去っていくのを実感する。
そんな毎日を送ってきたわたしが、こちらの世界に来たところで何かの役に立つということはなかった。
この世界にはパソコンもスマホも無い。特にこれといったスキルも無いわたしは、こちらの世界で人の役に立つということは何も無かった。
女神の加護? 特殊スキル? 異能?
そんなものが、あるはずがない。
なぜかモテてしまって、色々な女の子が世話を焼いてくれて、ハーレム状態?
馬鹿なことを言わないでもらいたい。
現実とは厳しいものなのだ。
男娼が羨ましい職業であるかといえば、そうとも限らない。
毎日のようにヤることが出来ていいじゃないか。
そう言われるかもしれないが、それは自分の好みの女の子と出会っていればの話だろう。
男娼は金で買われるのだ。
こちらから、相手を選ぶ権利は無い。
その日、わたしはギルドからの仕事で、街から少し離れたところにある小さな町へと向かった。そこの町を仕切る女領主がひとり来てほしいと依頼してきたのだそうだ。
いつもであれば、同じギルドに所属しているエスと呼ばれている青年が行くのだが、エスは都合が悪く行けなくなってしまったとのことだった。
都合が悪いとは、どういうことだろうか。わたしは疑問に思い、ギルドのマスターを務めるシグマという男に聞いてみた。
するとシグマは面倒くさそうな顔をしながらもわたしの問いに答えてくれた。
「ああ、エスか。あいつはあの日だよ」
「あの日?」
そう言われても、まったく見当がつかなかった。こちらの世界の何かある日なんてわたしは知るわけもないのだ。
「そう、あの日。だから、仕方ないんだよ」
「そうなのか……」
わたしは理解した振りをした。しかし、まったく理解ができなかったわたしは、別の同僚に「あの日とは、何なの事だ?」と問いかけてみた。
少年のような顔をしたその同僚は、『何を言っているんだ、こいつ』といった顔をして見せたがわたしがあまりにもしつこく聞くものだから、渋々ながらも教えてくれた。
「あんた、本当に知らないのか」
「ああ。だから、聞いているんだよ。なんなんだ、あの日って」
「わかったよ。わかった。教えるから、キャンキャン喚くなって」
少年のような顔をした男はわたしをなだめるように言うと、あの日について教えてくれた。
「なんだ、そうなのか……」
その答えを知った時、わたしは何とも言えない気持ちになっていた。
あの日。それは、生理のことだった。こちらの世界では男が妊娠する。それを考えれば、男に生理が来るということも、考えられることだった。
「ちなみに、生理になるとどうなるんだ?」
「本気か、あんた」
少年のような顔の男は呆れかえった顔をしていう。そして、自分が馬鹿にされているとでも思ったのか、少し怒ったような様子でわたしの問いには答えず、その場から去って行ってしまった。
結局、わたしはこの世界の男に訪れる生理がどのようなものなのかは、わからないままだった。そして、それがわたしには来ていないということも確かだった。
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