第39話 警察車両、消防、救急車って?

 色々あったが、ほぼほぼ勉強漬けとなった夏休みは瞬く間に終わり、九月には文化祭という地獄のスケジュールが春ヶ崎高校生徒たちには待ち受けていた。

 誰がこんな日程にしたのだろうと呪いたい。

 クラスは放置である。こういうとき、文化部でよかったなぁ、と思うが、文化部は文化部である故、それなりの出し物はしなければならないため、どっこいどっこいだろう。

 というわけで、目まぐるしく文化祭の準備に追われているナンプレ部の桜坂純也です。

 ナンバープレートで模造紙数枚分のレポートとか何ですか、地獄ですか。勉強だけだった夏休みの方がまだ可愛く思えるよ。

 などと泣き言をこぼす僕がそれでも準備を手伝っているのは、一年生という下っ端だというのと……

「ナンバープレートでもなんでも、出し物はしなくちゃならんだろう。そして我々にナンバープレート以外の何ができる?」

 という部長の滅茶苦茶な正論に納得してしまったからだ。

 ちなみにナンバープレースを作る案も出したが、生徒会企画で似たようなやつをやるらしいため、却下された。おのれ、生徒会めぇ……

 まあ、僕一人がそう思ったところで、ナンプレ部が生徒会と対立するなんて王道青春学園ものみたいな展開はあり得ないんだけどね。

 とにもかくにも、決まってしまったものは仕方がない。レポートにできないほどナンバープレートの情報に飢えているわけではないのだ。残念ながら。

 しかも今年は翔太先輩がだいぶ張り切ったらしく、ナンバープレート写真のご当地ナンバーを選りすぐって、ご当地ナンバー地図なるものを作るらしい。地図を作りたいって春に言ってたけどまじで実現するとは思わなかった。そのためにお盆休みに全身全霊をかけたらしいが、その時間があったなら、ちょっと足りない成績のための補充ができたんじゃないかと思う。

 まあ、ナンバープレート地図はそれなりの大きさ──具体的に言うと模造紙一枚分はとるそうなので、そこそこの見映えになると思う。

 しかし、それを実行するには、模造紙が必要なのだった。

 せっかくの文化祭用に充てられた部費を消費するため、僕は顧問の飯塚先生、買い出し担当に名乗りを挙げた葉月先輩と共に、毎年お世話になっているという文具店に来ていた。

 どうやら模造紙の他にも、翔太先輩の考案で地方ごとの色分けというのがあるため、画用紙やらを買い、インク切れかけのマジックペンの補充、とわりと買うものがあった。

 荷物を車に乗せ、学校に帰りがてら、葉月先輩が、あ、と何かに反応する。

「どうしたんですか?」

「いや、警察車両と今擦れ違ったでしょ?」

 そういえば、赤色灯がちらちらしていた。

「警察車両って、普通ナンバーなんだなぁって」

「というと?」

「営業ナンバーじゃないんだなぁって」

 なるほど。

「言われてみると、不思議ですね」

 営業ナンバーとは、企業等々が管理部署を設けてつけるナンバーだ。管理部署を打ち立てるのに、それなりの人材や書類提出等々が必要になるため、企業運営していても、普通ナンバーの企業は少なくない。

 けれど、警察車両は普通のナンバーだ。警察というと、ぼんやりとはしているが、国やら地方やらあるだろうが、大きな単位で運営されているはず。それが営業ナンバーでないとは。

「あ、消防車もだ」

 通りかかった消防署の真っ赤な車たちも、やはり普通ナンバーだった。一体何が違うのだろうか。

「これは検証の余地がありそうですね」

 メモメモと生真面目な葉月先輩。あれ? この人ってナンプレ部の幽霊部員だよね?

「やけに積極的ですね、葉月先輩?」

「へっ? べ、別にそうくんのためとか、そういうわけじゃないからね!?」

 のろけはいりません。でも、ツンデレごちそうさまです。


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