第35話 ナンバープレートの模様入れについての可否

 合宿所での休憩時間。死んだ魚のような目をしている翔太先輩と篠原先輩。二人は成績があまりよろしくないために一番前の席での授業となった上に、一番先生の親バカ話に晒されることとなった。目が虚ろだ。車での元気はどこかへ旅立ったらしい。

 他三人は真面目に勉強をしているため、休憩時間ながら声がかけづらい。

 故に、沈黙。沈黙は嫌いではないが、死にかけの人物と真面目勉強くんたちの間の温度差に僕はなんとも言えない気分になるのだった。

 すると、隣の大和撫子部長が、ふと顔を上げた。どうやら終わったらしい。僕と目が合うと、少し驚いていた。

「桜坂同志、もう終わっていたのか」

「プリントなら、僕一年生ですし、たぶん先輩たちのより簡単なんで、すぐ終わりましたよ」

「眼鏡はがり勉と相場が決まっているが、桜坂同志も例に漏れないんだな」

 メガネガドウカシマシタカ?

 できるなら眼鏡で判別してほしくない。

 しかしそれは僕が勝手に気にしていることであって、部長は何事もなかったように続ける。

「そういえば、桜坂同志はあれについてはどう思う?」

 あれ?

「あれとは?」

 すると何故か先輩は顔面蒼白になり、まさか、という。

「まさか、桜坂同志、知らないのか! ナンバープレートにおける一大事件だぞ!?」

 ナンバープレートに事件なんてあるんだろうか、と思いつつ、ふと思考を巡らす。

 事件ではないが、そういえばニュースコーナーで紹介されていたナンバープレートの話題が一つあったな。

「もしかして、絵柄入りプレートのやつですか?」

「そうそれ! さすが同志」

 それならちゃんと最初から言ってくれ。

 さて、この話題なんだが、まあ、つまりはナンバープレートに絵柄を入れようという話なのである。絵柄といっても淡い色使いで、仙台のシンボル伊達政宗公のあの有名な銅像の絵にプラスαといったものが案に出されている。

「確か種類は三種類で、

『伊達政宗像と水玉模様』

『伊達政宗像大きめ』

『伊達政宗像と仙台七夕』

でしたっけ? 部長はどれがいいんです?」

「ちがぁぁぁぁぁうっ!!」

「おわぁっ」

 空気を切り裂かんばかりの叫びに思わず身を引く。

「そ、そんなに叫ばなくても」

「違う、違うぞ桜坂同志。問題はそこではない」

「というと?」

「あの無地で無機質な魅力を持つナンバープレートに何故にわざわざ柄など入れねばならぬのだ!」

「そこから!?」

 確かにそれっていいのか、と疑問に思ったが。

「確か、他の地方でもごくごく限定された地域で取り入れられていると聞きましたよ? ご当地ナンバーとして」

「なんですって!?」

 わ、ご当地ナンバーという言葉に死んだ目をしていた男の娘が蘇る。さすがというか。おかえりなさい。

「まあ、車種区別もあるから淡い色使いなんでしょうけど」

「確かにテレビで見たけどわかりづらかったね」

 霞月先輩から声がかかる。彼もプリントが終わったらしい。

「ネット投票なんですっけ」

「そうそう。どれになるんだろうね。楽しみ」

 確かに、それは興味深い。

「ちなみに先輩方はどの案を推します?」

 すると返事はまちまちで、

「私は水玉ですね」

 と葉月先輩。

「僕は大きい政宗公かな」

 と霞月先輩。

「仙台七夕推したいっすねー」

 と篠原先輩。

 部長はそもそも柄入れに反対……と思いきや。

「だとしたら政宗公だな!」

「認めるんですかいっ」

「ボクは断然水玉ですぅ」

「乙女かっ」

 ついでに翔太先輩に突っ込んでおく。

「そういうセンパイはどうなんですか?」

「……うーん、やっぱり地域性を取るなら七夕ですかね」

 見事に二つに意見が分かれることを真っ二つになるというが三つに分かれた場合は何というのだろう。とりあえず、なんとなくオチがつかなくて微妙な空気が漂う。

 そこへ、休憩時間の終わりを告げに、先生が入ってきた。ぎらり、と六つの目線が先生を射抜く。

「な、なんだ?」

「「「先生はどれです!?」」」


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