第34話 ナンプレの旬は盆と正月
「ほら、部長もレッツナンバーコレクト!」
「お、おう」
珍しい、ナンプレ部の首魁たる音無部長がトラック野郎の勢いに圧され気味である。台風でも上陸するかな。
「いつもなら部長が引っ張っていくところでしょう、どうしたんですか?」
「行く先は勉強合宿ということは忘れていないだろうな?」
部長がまともなことを言った。まあ、部長は三年生。今は進路に向かって走るべき時期だ。勉強に気が向くのも仕方のないことかもしれない。
しかし、同じ三年生であるはずの篠原先輩には全く危機感が見えない。
「ナンプレ部たるもの、ナンプレの旬を逃して何とするか! おおっ、またダンプだ!!」
横をびゅんびゅん抜けていく大迫力のダンプに目がきらきらだ。子どもか。
「……まあ、何もないときの退屈しのぎにはもってこいですからね、ナンバーコレクト」
思わぬところ……葉月先輩から声が上がった。
退屈しのぎ、ね。
「どうしてそう思うんです? 葉月先輩が珍しいですね」
話を振ると葉月先輩は非常に不服そうにしていたが、話してくれた。
「たまにこういう長旅……それこそ、お盆とかお正月とかに遠くの親戚の家に出たりするでしょう? あれって、車に乗ってるだけでも疲れるじゃないですか。挙げ句寝ると運転手が自分まで眠くなるから寝ないでとか言うんですよ? 気を逸らす考え事として、窓の外を眺めるくらいしかないこういう旅行で、車のナンバーについて色々考えるのは仕方のないことじゃないですかね?」
なるほど。
確かにこういう車旅では気を紛らすものがなかなかない。ラジオもCDも聴き続けていると一種、オルゴールのような効果でむしろ眠くなってくる。運転しているわけじゃないから寝るのは自由だけれど、運転手が釣られて寝てしまっては一大事だ。
そこで気を紛らすのに、目についたナンバープレートについて考えるというのは、妙案かもしれない。あまり考えたことはなかったが。
「そうっすよ! 葉月もいいこと言いますね。何気ない日常にこそ新しい発見が隠れているものです」
ううむ、その通りだ。
とはいえ、行く先が変わらないことは事実。
と、考えていると、前から声がかかった。
「次のサービスエリアで一旦止まるぞー。ついでに席替えだ」
空気が凍りつく。霞月先輩だけほっとしているようだが、先程までわやわやしていた篠原先輩と翔太先輩がす、と黙った。
席替え。つまり後部座席組五人の中のいずれかが、今度はあの親バカ教師の隣に行くこととなるのである。これは一大事だ。着くまで親バカトークに晒され、眠るに眠れない地獄を味わうこととなるだろう。
「桜坂センパイ、ナンバープレートに気が向かないんだったら、どうですか?」
……翔太先輩、言いましたね?
「先生、翔太先輩が今度は先生の隣がいいって」
「ちょ、センパイ!?」
「おお、二宮、そんなにあーやんの話が聞きたいのか。待ってろ」
「ひぇぇぇぇっ」
二宮翔太というスケープゴートを得て、僕は安寧を共に得るのだった。
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