第33話 楽しい楽しい高速道路
夏休みになると、進学校たる春高では毎日のように勉強講座がある。休みなのは、お盆の四日間だけ。さすがは進学校。それは夏休みと言わないのではないか。
そんな夏休み講座を今、僕は欠席している。もちん、ずる休みではない。公認欠席扱いだ。ご存知の通り僕は野球部で甲子園があるとかそんなんではない。残念ながらナンプレ部。バリバリの文化部である。運動ができないわけではないけれど、それは今、どうでもいいことだろう。
公認欠席とは普通は喜ばしいことだ。大抵の公認欠席は部活の都合で休むというものだ。地獄のような勉強漬けから、好きなことをするために逃れられるなんて、これ以上の幸せがあるだろうか。
僕も例に漏れず、部活動による公認欠席なのだが……正直、あまり嬉しくない。
ナンプレがナンバープレースではなく、ナンバープレートの略であることもそうだが、今回何より嫌なのは、その公認欠席の理由だ。
曰く、
「ナンプレ部勉強強化合宿だ」
きりっとした表情が大和撫子然とした面立ちにしっくりくる我らが部長、音無先輩の宣言である。
部活で勉強合宿をやるというのはなんとも奇妙なことだが、ナンプレ部は毎年行っているらしい。ナンバープレート部になる前からの通例というのがなんとも言えないところだ。
普通、ナンプレ部なんて部活としての実績も微妙なところで、勉強合宿が行えるのはおかしい。だが、どうやらお勉強の実績は確かなものらしく、学校から認可されているのだとか。
でも、ついてくるのは飯塚先生一人なので、不安しかない。さっきから乗り合わせた車内で娘さんのことを助手席の霞月先輩にこれでもかというほど話し続けている、相変わらずの親バカ教師だ。しかも担当教科は保健体育。他の教科はできるのか不安になるのは当然の疑問である。
「それがな、飯塚先生はああ見えて多才で……それと」
音無部長が渋い顔をして声をひそめる。
「……油断すると、すぐ娘の話に脱線するから、そのためにこちらが勉強に一所懸命にならないといけない」
なるほど、あり得る。
思わず納得してしまった。
「ちなみに娘さんがいないときは奥さんの話ばかりだったとか」
夫婦円満で何より。
そんな強化合宿の理由を音無部長と葉月先輩に聞く傍ら、最後部座席に着く性別錯誤先輩方は楽しそうにしている。
「ダンプはやっぱり派手っすね!」
「見て見て、品川ナンバー! テレビだけの話かと思ってた」
現在、合宿所に向かうため、高速道路に乗っている。運転席、助手席、中間後部座席、最後部座席、それぞれでこんなにも温度差があるのは何故だろうか。まあ、翔太先輩も篠原先輩も楽しんでいるようで何より。
でも、
「ちょっと五月蝿いですよ」
「何を言うんですか桜坂センパイ。高速道路はこの上ないナンバー収穫所ですよ!」
そうかもしれないと思った僕はだいぶナンプレ部に毒されている。
「アニキ、高速道路ってのは元々、運送運搬をスムーズにするために作られた、いわばトラックのための道路といっても過言ではないんす! トラック野郎の血が騒ぐ」
騒ぐのは血だけにして。僕は長い高速道路の旅は疲れてきた……
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