第31話 奇跡写真が撮れないからって学を引き込むのはやめろ。

「桜坂同志に星宮師匠ではないか」

 いつの世も才能とは無情なもので、こういうとき僕は学の隣にいるのが切なくなる。まあ、それでも学は気にしないで僕を親友って言ってくれるからいいんだけどさ。

 師匠と同志って格差ありすぎじゃない!?

 まあ、学は奇跡写真を何枚か撮っているなかなかの運の持ち主だし、運も実力のうちだと誰かが言っていたという。実力ありすぎだろこの子怖い。

「あ、ナンプレ部の皆さん」

 学は高文祭以来でお久し振りの面々のはずだが、ノータイムで答えるあたりさすがである。記憶力とコミュ力において。くそぅ、ちょっと寄越せ。

 負け犬の遠吠えはさておき。

「今日休みですよね。なんで皆さん揃ってらっしゃるんですか」

「よくぞ聞いてくれた、桜坂同s」

「あ、いいです、なんとなくわかりました」

 話が長くなりそうなこと請け合いだったため、僕は遮った。

 僕は目が平らになるのを実感しながら、告げる。

「部長と翔太先輩、篠原先輩はナンバーコレクト、霞月先輩と葉月先輩はさしずめデートでしょう」

「さすが桜坂同志!」

「センパイわかってるぅ」

「アニキ、ここで会ったからにはご一緒に!」

 ナンプレオタクが騒がしい。

 そんな傍ら、デートと断じられてしまったポニテ先輩は、頬を赤らめ、俯き、「も、もうっ」と喚いている。うん、可愛い。

 霞月先輩はのほほんと聞き流しているのだが、この人は鈍感なのだろうか。

 と思索を巡らせていると、何やら僕の隣から不気味な声が。

「リア充爆リア充爆リア充爆リア充爆リア充爆リア充爆」

 ま、まずい。滅茶苦茶聞き覚えのある怨嗟だ。ヤバい、学が崩壊する。いや、学の大切な何かが崩壊しかけている! カムバック、学!?

「そうだ! 親方! 最近奇跡写真は撮れたっすか?」

「へ? なんでしょう?」

 しめた! 篠原先輩が学に声をかけたことによって学の気が逸れた。おかえり、学。

 いやいや、親方って呼ばれたのになんで普通に対応しているの!? 確かに篠原先輩は以前に「親方と呼ばせてくだせぇ」みたいなこと言ってたけどよく覚えてたね! 僕がことごとく格下扱いだけど、もはや涙も出ないよ。

「だから、奇跡写真ですよ、お兄さん」

「あ、そこお兄ちゃんって言ってほしいです」

「待って学、色々おかしい!」

 まずいぞ。ナンプレ部とエンカウント数が少ない割にエンカウントするたびにキャラ崩壊してません? この子。

 学、思い出してくれ。君は成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗の非の打ち所のない異常なまでに恵まれた人間だが、それ以外は普通のピュアボーイだったはずだ。戻ってきて!

 ……一分足らずでカムバック二回唱えるとかもう滅茶苦茶だよ。ナンプレ部とのこの打ち解け具合はコミュ力の成せる業を通り越している気がする。

「男の娘にお兄ちゃんって呼ばれたいのはラノベファンなら一度は抱く野望だよ、純也」

 何故か僕が諭されてしまう始末。もう遅いのか。学、君は一体どこに行ってしまったんだ。というか夏高でラノベ読んでるのか。生真面目だった中坊時代の面影どこ行った?

「じゃあ、お兄ちゃん、写真見せてー」

「〜〜〜〜〜っ、萌えの極み〜っ、いいよ、お兄ちゃんいくらでも見せちゃう!」

 ちょっと待ってくれ色々ツッコみたいところがありすぎる。まず翔太先輩は年上だし、妹キャラに見立てているのだろうが、男だよ!

 確かに年齢平均より小柄で可愛らしいことは否定のしようがないけどね。

 ……なんで沢遊びに来て携帯の写真の見せ合いなんてしているんだろう。肝心の沢には誰一人として見向きもしてないよ。

 相当な奇跡写真があったらしく、翔太先輩は食い入るように携帯画面を見つめている。目がきらきらしているのは気のせいではないだろう。ナンバーコレクトには正直興味がないが、それほど見入っている様子を見せつけられて、興味を抱かない方が無理というものである。

 釣られて画面を覗くと、何気ない駐車場の写真の中に映る車が四台。9、8、7、6、と珍しい単数ナンバーが狙ったかのように並んでいるのが見受けられた。これも才能、時の運というやつか。なんだか一周回って学すげぇ、と感嘆してしまった自分がいる。

「これは時の運も我々の味方について頼もしいものだ。ご当地ナンバーも豊富なこの場所に運の持ち主星宮師匠。絶好のナンバーコレクト日和ではないか! 桜坂同志、星宮師匠、共に奇跡写真を撮ろうではないか!」

 部長、盛り上がっているところ悪いですが……

「学を巻き込むなぁっ!!」

 しかし、当の学は。

「これも何かのご縁ですよね、では一緒に」

 乗っちゃってるし!

「学も巻き込まれるなぁっ!!」

 もう沢遊びどころではない一日となった。


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