第30話 少し日常が面白くなった
休日。
「やあ、学」
「おはよう、純也」
今日もいい天気だね、と他愛のない会話を交わしつつ、星宮家にお邪魔した。
今日は何のことはない、学と遊ぶ約束をしていたのだ。夏の日差しも強くなってきたこの頃。水遊びにでも行くか、となった。
僕は自転車を引いてきたが、どうやら近場らしい。歩いていくことになった。
「そういえば、部活はどう? なんだかんだでナンプレ部続けてるの?」
「ああ、うん。なんか転部届書くのも面倒で」
他に入りたい部活があるわけでもないし、まあ、そこそこに楽しいため、ナンプレ部に落ち着くことにした。
「学は相変わらず文芸部?」
「時々色んな運動部から応援頼まれたりするけどね」
この、文武両道め。
まあ学が完璧人間なのは今に始まったことじゃない。
「あ、庄内ナンバー」
学が通りかかった車を見て言う。確かに、「庄内」と書いてある。山形からわざわざ来たらしいご一家だ。
「わ、とちぎナンバーだよ。何故かひらがな」
「なんとなく可愛いな」
そんな会話をしているうちにふっと気づく。
ナンプレ部に二人して毒されているっ!?
なんとなくだが、最近、ナンバープレートがぞろ目だったり、珍しい地名だったりすると、「あ」って思ってしまう。くうっ、僕はともかく、学までとは。一回ナンプレ部の面々に会った影響か、それとも芥見先輩とやらの影響か。どっちもか。
どちらにせよ、影響力というのは恐ろしい。ナンバープレートを確認するという普通の中高生ならまずしないことをさも普通であるように行っているのだから。慣れって怖い。
けれど、それも悪いことばかりではなくて、よくわからないご当地ナンバーが出てきたとき調べてみることで知識が一つ増える。例えば「尾張小牧」とか見たときは何事かと思ったね。尾張は昔の愛知県だったはずだからその辺だろう。織田信長がいたんじゃないっけ。
調べるのは、元々勉強を苦にしないタイプだから別段面倒でもなかったし、むしろ楽しかった。
学はというと。
「芥見先輩の小説読んだり、純也の部活の先輩方と会ったりしたことで、なんか普段何気なく目の前を通りすぎていくものも、面白く感じられるようになったんだ」
なるほど、概ね同感だ。
最初はなんでナンバープレースじゃないんだと思っていた(今も思っている)けれど、ナンバープレートはプレートで日常を面白くする一つの調味料みたいな感じでいい。
ナンバープレース解きに夢中になっていたときとはまた違う楽しさだ。あのときはナンバープレース一直線で周りが見えていなかったんだなぁ、と思う。視野が広がったのはまず間違いない。
そろそろ夏休みだからか、目的地の沢に近づくほど、県外のナンバーが目立ってきた。というか、ご当地ナンバーを調べていて思ったが、宮城ってご当地ナンバーが少ない。数年前仙台ナンバーが出るまで宮城にはご当地ナンバーというものが存在しなかったくらいだ。
そういう意味では進んでいない県なのかもなぁ、と思う。思えば、仙台ナンバー導入の際はニュースで取り上げられるほどの騒ぎだった。それほど珍しいことなのか。
「純也、そろそろ着くよー」
「おう」
駐車場に併設された休憩用の小屋、沢に下りる階段。……あれ?
見慣れた大和撫子と泣きボクロとボーイッシュと男の娘とポニテ美少女がいる気が……
「やあ、桜坂同志」
気のせいじゃなかった!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます