第29話 そうだ、コンビニ行こうかな
また明くる日の部活。
「桜坂センパイ、暇ですぅ〜」
図書館の閲覧室の隣の席。そう言って腕にすりすりしてくる人物一名。一年生の僕をセンパイと呼ぶ頓珍漢なんてナンプレ部には一人しかいない。
「それで、どうしろと」
僕はすり寄ってくる容姿も踏まえて頓珍漢な翔太先輩に逆に問う。すると「妙案が思いつかないからセンパイに訊いてるんじゃないですか」とのこと。少しも考えているように見えない。
今日は特にごみ拾いの当番でもなし、部室たる図書館に適当に集って駄弁って解散……と思っていたのだが、何故か僕と翔太先輩しか来ていない。
「なんで皆さん来ないんでしょうね」
少し話題を逸らしてみる。
「葉月ちゃんは元々幽霊部員だし……」
「あとの先輩方は皆さん、三年生ですもんね。忙しいんでしょうか」
何せ高校の三年生ともなれば、大学受験だ就職だで忙しいだろう。そういえば自分の進路は全く考えていないことに気づく。
「そういえば、翔太先輩は進路とか決めてるんですか?」
「進路ー? 適当に大学入って、フリーターになるつもりです」
「フリーター!?」
まさかの宣言だった。高校受験、この県では珍しい狭き門の進学校と言われる春高を出ておきながら、フリーターになるとは。
「だって今、就職難でしょ? 正社員とかよりアルバイターの方が気楽かなぁって」
「そうかもしれませんね……」
何せコンビニアルバイトで家計を立てている人もいるような世の中だ。それに、アルバイトはコンビニに限らないだろう。
そういえば、音無部長はコンビニアルバイトをしているのだったか。
翔太先輩も同じことに思い至ったのだろう。コンビニ、と呟いた。ただ、直後が違っていた。
「そうです、センパイ、コンビニですよ!」
「何がです?」
隣から勢いよく顔を覗き込むようにして迫られたので、がたっと引いてしまう。物静かな空間に響き、なんとも言えず、いたたまれなくなった。
改めて見るとやはり翔太先輩は美少女顔だというのはさておき。
「今日は音無部長バイトの日ですよ!」
「なんと」
それはからかいに行かなくては。
……ではなく。
「というわけでコンビニに行きましょう!」
「いや、どういうわけですか」
部長をからかいに行くわけでもあるまいに。
すると翔太先輩は解説よろしく人差し指を一本立て、語り出す。
「いいですか、我々はナンプレ部です」
ナンバープレースとナンバープレートという見解の相違はあるが、その通りだ。
「ナンプレ部の活動はナンバーコレクトにあります」
「僕は違うんですが」
「センパイはナンプレ部じゃありませんか!」
何故だろう。圧されてしまう。
「コンビニは誰もが気軽に立ち寄る場所です。近くの人かもしれませんし、遠くから来た一休みの人かもしれません。つまり何が言いたいかというと、ご当地ナンバーコレクトの狙い目でもあるのです」
……そういえばこの人はナンバープレートで日本地図を作りたいという頓珍漢な人だった。
「というわけでコンビニでナンバーコレクトして、ついでに何か買い食いしましょう!」
「図書館は飲食禁止です」
「もちろんそこは守りますよ。コンビニの外で立ち食いも乙じゃないですか」
外見美少女の割にアグレッシブなことを言う。
「……じゃ、行きますか」
拒否権はどうせないのだろう。
まさか自転車の二人乗りさせられるとは思わなかったが。
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