第26話 ナンバーコレクターvsナンプレ妄想女子
「私の作品に目をつけるとは見所があるな」
僕は今、何故か狐目の先輩に手を取られている。部長が大和撫子な美人だとしたら、この人は現代のノーマライズな美少女だろう。ただし目が吊り上がっていてきつい印象を受けるが。
……なんで手を取られているのだろう。
「え、えと……」
「芥見先輩の作品は独特な感性があるから」
学が解説してくれた。独特とは凄まじいオブラートだ。ナンバープレートで妄想を繰り広げる物語なんて独特通り越して類を見ない。
まあ、歯に衣着せぬ物言いをするのも問題だ。そこは武士の情けでツッコまないことにする。ただ、手を取られたのは何故だろう。ナンバープレートで妄想した物語を書いている人が実在することに僕は唖然としただけなのだが。
学がひそひそと耳打ちする。
「芥見先輩の作品は注目度が低いから、見てもらえるのが嬉しいんだよ」
意外と純粋な理由だった。狐目が可愛らしく見えてくる。確かに、自分の作品を認めてもらえるというのはいいことかもしれない。僕もナンバープレースを楽しんでもらえて嬉しかったし。
思ったより頭の柔らかそうな人でよかった。ナンプレ部の評判があまりよくなかったので、なんだか色々と警戒してしまっていたけれど。
油断大敵、という言葉をご存じだろうか。
ちなみに昔は童話「兎と亀」のことを「油断大敵」と紹介していたらしい。
……は、いいとして、僕が芥見先輩と交流しているのを見ているやつがいた。
先も言った通り、ナンプレ部と芥見先輩は仲が悪い。
それを失念していた。
「芥見早苗! 我らが同志に触れるでない!」
そんな聞き覚えのある叫び。僕はギクシャクと声の方を振り向く。
するとそこには雅という名前がお似合いの大和撫子美人がいるではないか。つまり、音無部長が立っていた、というわけだが。
何故かその大和撫子氏は憤慨している。ずんずんと寄ってきて、芥見先輩と握手を交わしていた僕の手をむんずとひったくり、きっ、と芥見先輩を睨み据える。
「おのれ、貴重な我が部の宝に手を出してくれおって……!」
いつの間に僕は宝になったのか。
「彼を何と心得るか! ナンバープレートに青春をかけると声高らかに宣言し、我が部に足を踏み入れた類を見ない逸材ぞ」
僕がかけたのはナンバープレースです。
そんなツッコミはよそに、芥見先輩が応じる。
「それが何か?」
きついという第一印象を裏切らない辛辣な言葉が返る。
しかし大和撫子部長も負けてはいない。
「崇高なナンバーコレクトの名の下に集いし我々に、ナンバープレート妄想誌などという不毛な創作物を読ませるとは何事か!」
不毛だろうか。わりと面白いのだが。
特に、「よく見るのは1122というナンバーで11月22日のようにいい夫婦という意味合いでつけたナンバーかもしれない」という指定ナンバーについての見解が面白いと思う。
「何を言いますか。この人は自分の意志でここに来て、自分の意志で私の作品を見て感嘆しているのよ? それのどこがいけないというの?」
これは芥見先輩が正論だ。まあ、感嘆したかというと微妙なところだが、着目点が面白いのは間違いない。
「なあ、桜坂同志よ、そいつが言っているのは本当か? 同志は我々の同志だよな?」
手を掴んだままの大和撫子氏が僕をじっと見つめる。話の成り行きさえ考えなければ少女漫画もかくやという絵面になっている。もっとも、少女漫画に黒縁眼鏡の地味な男子はいないけどな!
「私の言った通りですよね? 桜坂さん」
芥見先輩がにこやかに笑んでこちらに寄ってくる。笑むと狐目が気にならなくなって殊更美人だ。ただ、瞼の奥に隠された目は笑っていないような気がする。
美人と美少女に言い寄られて、どんなギャルゲだよ、と思うが、これは現実。ちょっときつい。しかも話の内容がナンバープレートって何これカオス。
「ま、学……」
親友に助けを求めてみるが、その親友様はというと、
「おおっ、美少女に取り合いされてる……! 純也ラノベの主人公じゃん。ってことは僕は主人公の親友ポジ? 何これ美味しい」
ちょっと待て学帰って来い!!
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