第23話 ナンプレ部はこんな活動をしています。
総文祭、もしくは高文祭と称される地域のお祭り。
正式名称は、市総合高等学校文化祭といって、市内の高校の文化部がこぞって参加する祭典だ。
なんと、信じられないことに、このナンプレ部も、生真面目な文化部の一員として参加することとなっている。
もう一度言おう、我がナンプレ部も、文化部の一員として参加が決まっている。
……元々「ナンバープレース」を扱う生真面目な文化部だったことは確かだ。オリジナルのナンバープレースを配って、ナンバープレースのルールに従って全部埋められた人には景品を、なんて、まともなことをやっていたらしい。かつては。
大事なことだからもう一度言おう。かつては。
現在のナンプレ部は「ナンバープレース部」ではない。「ナンバープレート部」である。何をやれというのか。真面目に作品の展示などを行う美術部、写真部等々の傍らで、ナンバープレートの写真でも並べるのか。
「いいではないか、それで」
よくないから話し合っているんでしょう、大和撫子先輩、もとい、音無部長!
「何を言うか桜坂同志。君は私のナンプレ愛にこの上なく賛同してくれたではないか」
「入部時のことならあれは誤解です!!」
あの頃、思えばよく確認もせずに入部を決意したのがそもそもの間違いだった。ナンバープレースへの愛を物の見事にナンバープレートへの愛と勘違いされ、入部してから後悔する。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
と、回想に浸っていると、視線を感じた。見ると、霞月先輩が無言で助けを求めていた。泣きボクロがその名の通り涙に見えたのは気のせいではないのかもしれない。
去年……もしかしたら一昨年も、こんな感じの部活を歯止めする役は霞月先輩にあったのかもしれないのだから。そこは唯一の良心であるだろう彼に報いねば。
「というわけで作りますよ、ナンバープレース!」
──そう、本題はこれ。
高文祭というのは、下手したら学校の文化祭より幅広い層の人々に見られるかもしれないという大事な行事なのだ。未来のナンプレ部部員も見に来るかもしれない。何故わかるかって、僕がそうだからだ。……うん、泣いていい?
少なくとも昨年の春高ナンプレ部はナンバープレースを配っていた。景品として手作り栞をもらったことはこの上ない栄誉であり、その栞は神棚で厳重に保管されている──というのは冗談で、栞を欲していた学にあげた。
まあ、そのせいもあって、ナンプレ部の実態──ナンバープレート部であることを知らぬまま来てしまったのだが。
僕が再来年辺り三年生になった暁には、僕のような犠牲者を出さぬよう、きちんとナンバープレース部に戻さなければならない、その第一段階がこれだろう。
「でも、ビンゴゲームみたいなのやって、景品プレゼントっていう案は賛成かな」
珍しいことに翔太先輩がナンプレに全然関係ないことに賛成してくれた。ただ、ナンバープレースをビンゴゲームと一緒にされるのはいただけない。
ツッコむと進まないのでぐっとこらえる。
「ナンバープレース作成に関しては僕がなんとかします。先輩方は景品について何か案を出してください」
最難関はナンバープレース作成だ。けれどそれは僕がどうにかするとして、景品の用意も問題なのだ。ナンバープレース作成は、霞月先輩や葉月先輩が手伝ってくれるという約束を取り付けたのでいいとして、次なる問題は景品。購入、もしくは去年のように作成する必要があるだろう。
ところがなかなか、景品を何にするかという話がまとまらない。
「去年は栞を配ったな。押し花の。今年もそれにするか?」
むむ、と唸った音無部長がまともな提案をしてくる。ヤバい、槍が降るかもしれない。
と、そこへ待ったの声がかかる。
「去年と同じじゃ面白くないっすよ!」
本日もスポーティーな篠原先輩が手を挙げる。ヤバい、この人もまともだと、今日は槍では済まないかもしれない。
「トラックの煤で汚れた車体ナンバーや、泥にまみれたナンバーの写真をプリントアウトして栞にしたら味があると思いません?」
あ、安定のトラック野郎だった。
「おおっ、いいな、ナンバープレートもかっこよく撮ったやつを……」
待て待て待て!
よかった、安定だ、と思ったがこれではいけない。
「ナンバープレートじゃ特別感が……」
「あるじゃないか!」
「……」
こういう人でした。ぐったり。
ナンバープレートというものの特別性を語り出した部長は放っておくことにして、今年はレポートも書こうか、なんて現実逃避気味な話題を霞月先輩に振った。
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