第20話 増えなくてもいい豆知識
僕が先輩を説き伏せたことで安堵したのか、学が口を開く。
「芥見先輩の思考は確かに偏っていましたが、僕としては新しい見聞が広められたような気がして嬉しいんですよ」
まだ残っていそうな不穏の残滓を気にしてだろう、学は穏やかな笑みを湛えていた。
どうやら場の空気はすっかり落ち着いて、容姿年齢に見合った好奇心を目に宿し、翔太先輩が「何々?」と食いついていく。
「例えばですね、とある海外ドラマを見ていて気づいたらしいんですが、日本と韓国では、営業ナンバーと普通車ナンバーの色が反対なんです」
いまいち口頭の説明では一同は理解しづらかったらしく、首を傾げると、学は取り出したルーズリーフにさらさらとナンバープレートのようなものを書いて行く。見本なので、ナンバー諸々は適当だ。
「これが日本の普通車のナンバープレートです。白地に緑色で文字が書かれているのが常ですよね。営業ナンバーはその逆」
しかしですね、と語りながらまたさらさらと学はナンバープレートをもう一枚書く。今度は文字を白抜きにし、地色を塗り潰したものだ。
「これは日本で言うところの営業ナンバーのカラーリングですが、なんと韓国ではこれが普通車のナンバープレートなのです! 面白くありませんか?」
確かに、授業では習わない知識だ。地理にしたって、こんなところをピックアップされているのは見たことがない。
音無部長を始め、ナンプレ部の一同が感嘆をこぼした。ナンバープレートオタクでない霞月先輩も興味をそそられたようで、ほうほうと感心を示している。
「僕が知っている限りだと、アメリカやイギリスといった英語圏のナンバープレートは日本のものより桁が多く、アルファベットが混じっている、ってくらいの知識はあったけど、他国でこんな違いがあるなんて。国内だけに留まらず、ワールドワイドな観点で見るのも、面白いかもしれないね」
確かに、ナンバープレートに取り憑かれたような者の集まりである。地理的な見聞としてこういう新たな視点を開拓していくのもありかもしれない。
「にしてもそんなのよく気づいたね」
少々の呆れと感嘆を込めて学を見ると、ほんのり苦笑が返ってくる。
「ほら、いつぞや韓流ブームとかがあって、ドラマが流行ったじゃん。それにどはまりした芥見先輩が、録画見返してる途中にふと気づいたんだってさ」
それもそれですごい話だ。
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