第19話 意見をはっきり言うことが自分の利に繋がるとは限らない。
「音無部長、それは、偏見がすぎると思います」
僕は本当に、真面目に、そんなことを思ってしまった。
入部したての、しかも間違って入部した感じのひよっこが重鎮に意見するなど、普通なら考えられない。
けれど、そんな堅苦しい思考回路は大人になってから持つべきもの、と僕は考えている。僕たちはまだ子どもだ。言いたいことは押し込めずに言ってしまった方がすっきりする。
難関と言われても、春校に行くと揺るぎない決意で来た僕のように、
あるいは、もっと上を目指せるだろう、と周囲からの期待やら非難やらを押し退けて、自分の目的を果たすために夏校を受験することを押し通した学のように。
自分の意見を持ち、信念を持ち、常識に偏見に囚われず足掻いてみるのは、今だからこそ許される我が儘。
「人は多種多様、十人十色という言葉が示す通り、各々異なる意見を持ち、生きています。それは当たり前のことですよ。そりゃ、生きてりゃ自分の意に沿わない考え方の人間にだってぶつかることもあるでしょう。けれどそれを真っ向から敵視したり、自分の考え方を押しつけたりするのは、何か違くありませんか?」
僕の言葉に、葉月先輩が反応する。おそらく昨日、僕を止めようとしたときのことを思っているのだろう。そのことに関しては、非常に申し訳なく思っている。
「広い視野を持たねば、オタクだのコレクターだの、名乗る資格はないと思います」
日本の自由には一つ、"言論の自由"というものがある。これは報道やらメディアやらだけに目が行きがちだが、こういう、とても普遍的な趣味嗜好を語る場においても適用されるのではないだろうか。
僕も、ナンプレ部の真実を知ったときは絶望やら失望やら覚えたものだが。
「他人の意見を否定ばかりしていては、受け入れられるものも、受け入れられません。それは相手にも、他者にも」
これは超絶完璧人間の学の隣にいて身についた処世術である。
メンバー一人一人が濃いとはいえ、選んでしまった部活で、選んでしまった道である。
そりゃ逃避もしたくなるが、
それでも少し諦めながら受け入れている僕がいるのだ。
すると、僕の言の後、しばらく場は沈黙していたのだが、
バッ
唐突に、音無部長が僕の手を取った。きらきらと光る目は、おそらく僕の見間違いでなければ羨望の眼差し、というやつである。──ん、あれ? これデジャヴな上にやな予感。
「君こそ、ナンプレオタクの鑑だ!!」
「え」
まあ、予想通りといえば予想通りだが、
「ええええええええっ!?」
一種振り切った反応に、僕が驚いたのは言うまでもない。
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