第16話学だけは繋ぎ止めたい 。
中に入る。
そして僕は目に入った人物に、条件反射で背を向けた。
「純也?」
と学に引き留められなければきっと僕は脱兎のごとく家に帰っていたにちがいない。
……外に比べれば、いるのはまともな人だけれどね。
やめろ、比較対象が規格外とか言うな。虚しくなるだろ。
と、まあ、いたのは、
「霞月先輩……葉月先輩……」
真面目に勉強している様子のナンプレ部の残りのメンバーでした。
まあ、霞月先輩は悟りを開いてはいるが、ナンプレ部の良心だし、葉月先輩もどちらかというと、こちら側の人間だろう。
「え、あの人たちも知り合い?」
「うん、部活の先輩……比較的まともな人……」
「比較って」
みなまで言うな、学よ。わかっておる。
……言ってて悲しい。
せっかくなので紹介しようかと学を見ると学の唇が音を出さずに動いていた。
それはこう象っていた。
「リア充爆リア充爆リア充爆」
「ま、学クン?」
思わぬ事態に声がひっくり返る。学の呪詛はそれしきでは止まらない……おい、僕の知ってる優しい星宮学をどこへやった?
リア充爆って……まあ、泣きボクロイケメンとポニテ美少女が教科書並べてお勉強ってカップルに見えなくもないが……たぶん葉月先輩は片想いよ?
ああ、でもなんか少女漫画的ムードを漂わす二人に全くイライラしないと言えば嘘になるかもしれない。末永くはぜなされ。
……って、僕までそっちに回ってどうする? ここは学の呪詛を止めてしっかりフォローしないと。
幸い、学の隣にいつもいたからコミュニケーションスキルはそれなりにあるんだ。
僕は学の手を引いて、先輩方の向かいに座る。呪詛が音になり始めた気がするが、大丈夫、まだ間に合うはずだ。
「こんにちは、先輩方、奇遇ですね」
「あ、桜坂くん」
お、霞月先輩反応してくれたよ。さすがです。爽やかスマイルに学の呪詛が止まった気がします。ありがとう。
「あ、メガネくん」
ぐさ。
胸のこの辺がとても痛いが気づいてくれて嬉しいです、葉月先輩。僕メガネ以外に特徴ありませんか?
「お友達?」
一時的精神ショックのため放心する僕を気遣ってか、霞月先輩が学の方に水を向ける。すると学は一瞬前までの呪詛が嘘であったかのような穏やかスマイルで応じる。
イケメンはぜろって思った人。大丈夫、僕も幾度となく思った。
「星宮学です。純也とは幼なじみです。学校違うんですけどね」
「え、どこ?」
「夏校です」
「あ、蔵書で有名な」
さすが霞月先輩、ご存知でしたか。
夏校を知っている人がいたのがよほど嬉しいのか、学の目がきらきらと輝き出す。うん、微笑ましい空間。
おい、びーえるとか思ったやつ、水の入ったバケツを二つ持って廊下に立ってなさい。
「でも、お二人までいるなんて奇遇ですね」
僕は外での一幕を脳裏に浮かべながら、偶然ってわからないなぁとか思ってた。ええ、思ってましたとも。
霞月先輩が爆弾落としてくれるまでは。
「ああ、みんな揃ったんだね。今日、部活だから」
「What?」
「メガネくん英語の発音いいですね」
葉月先輩、メガネ以外の呼び方してください。地味にHPが削られます。
や、それよりも……
「今日部活だったんですか!?」
全然聞いてないんですけど!?
すると霞月先輩は爽やかに、
「一年生はまだ体験入部期間だから」
全うな答えをくれた。
本当、この先輩がいてよかったと思う。
あれ、でも、
「よっす」
後方から雪崩れてくる個性派部員たち。
僕は今、ここにいる。
……嫌な予感しかしない。
「せっかく桜坂同志がいるのだ。本日はよりいっそうナンプレ談義に花が咲くだろうな」
とりあえず沼に引きずり込まれないように、学だけは守ろう。
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