第14話 トラック野郎が相手だとツッコむか突っ込まれるか……どちらにしろ疲れるという。
僕の発言にツッコミどころは満載だったはずだが、学は衝撃の方がだいぶ大きかったらしく、何も言わない。目を剥いて篠原先輩を見ている。
僕は学が回復するまで待つことにしよう、とひっそり息を吐き、ふと翔太先輩を見た。すると何故かばっちり目が合ってしまい、翔太先輩の完璧すぎるウインクを受ける。視線を外してスルー。先輩、捨てられた子犬のように目をうるうるさせるのはやめてください。
続いて学の絶句ぶりに疑問符パラダイスになっている篠原先輩を見やる。
……どうしてこの部には性別錯誤な人物が二人も揃ったのだろう。
「……で、純也、"トラック野郎"って?」
溜め息を吐きかけた僕に訊ねてきたのは、学だった。若干表情が固いのはまだ先輩の性別錯誤ぶりを受け止めきれていないからだろう。
「"トラック野郎"っていうのはね」
「アニキッ、あっしのこと、トラック野郎と認めてくれるんすね!」
解説を入れようとしたところで感動に打ち震える篠原先輩の声が乱入する。がしっと両手を掴まれ、若干身を引いた。見ると先輩は何故か咽び泣いている。って、ええっ?
「し、篠原先輩?」
「アニキがあっしをトラック野郎と呼んでくれるなんて、この上ない誉れっす! この名に恥じぬよう、日々精進します」
精進しなきゃならないほどの名だろうか、"トラック野郎"って。
「えと、結局、トラック野郎って」
「よくぞ訊いてくれました!」
再び問いを口にした学に篠原先輩がばっと振り向く。たった今訊いたみたいになっているが、学はさっきからそう訊いている。
僕の心のツッコミはさておき、先輩はショルダーバッグからすちゃっと何やら取り出す。
……今日も持ってたんですね、アルバム。
「あっしもナンバーコレクトを趣味としているんすが、中でも力を入れているのがあるんすよ。百聞は一見に如かず。ご覧くだせぇ」
もう性別どころか時代まで錯誤しているんじゃなかろうか、という篠原先輩にぐいぐい押され、学はとりあえず、渡されたアルバムを開いた。
ぱらり。
「???」
学は疑問符満載の表情を浮かべ、僕を見る。僕は苦虫満載の表情を返した。
「トラック???」
戸惑いを浮かべたまま、学は正解を口にする。
「ご名答っす! ただ者じゃありませんね。アニキのお知り合いで?」
「ほ、星宮学です。純也とは家が近くて、小さい頃からの友達です」
学としてはわけのわからないままだが、ちゃんと名乗るあたり、さすが絵に描いたような優等生である。
おおっ、と篠原先輩は大仰に驚いた。
「なんと、アニキのご友人でいらっしゃいましたか。これは名乗りもせずにとんだご無礼を。あっしは篠原和子、大型トラックのナンバーコンプを志す"トラック野郎"でございやす」
深々と頭を下げる篠原先輩。翔太先輩にも言えることだが、これではどちらが年上かわからない。
あまりに畏まられた学は当然ドン引きで、いや、あの、えと、と答えられずにいる。
戸惑いの果てに。
「ト、トラックの車体ナンバーに目をつけるなんて、着眼点が斬新で素敵ですね!」
と、学は血迷ったお世辞を宣った。
篠原先輩の目がきらんと危険な輝きを灯す。
ぱっと女性にしては大きくがっしりした篠原先輩の手が、学の手を取る。
「同志!!」
「え」
「アニキ……いえ、親分と呼ばせてください!!」
僕の方が格下……デスヨネ(ToT)
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