第9話 初日からどっと疲れたため、親友の労りが染みる……

 一日が終わる。

 自分の部屋の窓から夜空に瞬く星を見上げる。星……学を思い出す。

 学も今日、夏校の入学式だったはずだ。上手く文芸部に潜り込めただろうか。あ、いや潜り込めたというより入部できたかだよな。普通は。

 そう思っていると、家の電話が鳴った。

「もしもし。桜坂です」

「あ、純也。学だよ」

「おお、お疲れ」

「うんお疲れさま」

 噂をすればなんとやら、学から電話が来た。

「入学式、どうだった? 確か純也、入学生代表の言葉とかあったよね」

「ああ……」

 もうあれ恥ずかしいというか思い出したくない。ナンプレ部の正体を知っていたらあんな文章は書かなかったのに。

 と、そんな鬱気味の思いを学に垂れ流して心配をかけるわけにもいかない。

「ああ、まあ無難に終わったよ」

 僕らしい無難な答えを返した。

「そう? なんか声が疲れてるような」

 !? 学はエスパーか!?

「ま、学の方はどうだったんだ? 念願の文芸部」

「うん。図書室最高だった。あそこに住みたい」

 うん、住みたいですか。わざとだろうがオーバーな表現に若干引いてしまった自分がいる。

 思い返すとそう、我らがナンプレ部の部室も図書室なんだよなぁ。あの図書室には頼まれても住まない。

「純也、純也?」

「ああ、うん、何?」

「いや、返事がないから」

 まずいまずい。電話中に遠い目をしていた。学にいらぬ心配をかけた。

「ごめんごめん」

「いいけど、純也、本当に疲れてない? 今日は初めて会う人も多かっただろうし、無理はしちゃ駄目だよ?」

 友の慰めになんだか涙腺が緩んでくる。

「ありがと、学。僕、頑張るよ」

「だから、無理するなって!」

 全く、何があったんだよ、と言う学に苦々しくナンプレ部について説明した。

「ナ、ナンバープレート部……」

 引き気味に震える学の声。ま、そうなるよね。

「でも純也、中学時代よく調べてたろ? ネットとか、OBの先輩とか。それで、ナンバープレートって」

「あんまりだよなぁ。あんまりだよね。ナンプレ部の先輩に聞いたんだけど、どうやら春校の公式ホームページは何年も更新されてない。特に部活紹介ページは部活動の要請がない限り修正されない。進学校だから学校紹介はしょっちゅう更新してるんだけど、それ広報部が作ってるらしくて……ナンプレ部はかつてはちゃんとナンバープレースを扱う部活で、ナンバープレートになっちゃったのはつい最近。……一番ディープな現在の部長が入部してかららしいよ」

 元々ナンバープレース限定で楽しむ部活だったのだから、数字馬鹿が多かった。そこにナンバープレートの数字の羅列のよさについて滔々と語られたら……数字馬鹿の先輩方はイチコロだったという。

 霞月先輩はナンバープレースが目的で入ったらしいけれど、暴走する音無先輩とそれを囃し立てる篠原先輩、悪のりなのか本気なのかとりあえず乗りまくる当時の先輩方──その全員を抑える役を一手に引き受け、部に留まったという。苦労の多い方だ。

「うわぁ、ある意味すごい部活だね」

「しかも、なんか気に入られてる節があるし……そう簡単に退部はできないし」

「……ま、すぐ土曜だし、会おうぜ」

「ああ」

「じゃ、またな」

 電話が切れると、学との会話が胸にじーんと染みた。

 今日初めて普通の会話したかもしれない……



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る