第5話 男の娘は言った。「ボクの目標は日本地図を作ることなんです!!」──ナンバープレートどこ行った?
さて、続いては翔太先輩の自己紹介。いや、普通副部長の霞月先輩が妥当じゃないかと思ったんだけど、当の本人が「俺は最後でいいよ」とのお言葉。
翔太先輩は霞月先輩の凍える空気という精神ダメージを克服し、元気よく語り始めた。
「ボクは二宮 翔太。見てのとおり二年生だよっ」
はい。ブレザーについた校章バッジは確かに二年生カラー(緑)ですね。でも貴方、一年生の僕より頭一つ分小さく、童顔とも言える美少女姿で見てのとおりは無理があるなぁ、と思います。
ってツッコミ入れたら話が進まないのでぐっと堪える。
「ボクはね、音無部長の近所に住んでるんだ。それで、小さい頃から色んなナンバープレートを見せてもらってその魅力を教えてもらってボクもナンバープレートが大好きになったの!」
先輩、それ以上小さい時期があったんですか。あったんですね。
まあ背丈の問題は結構デリケートなのでさておき、へぇ、つまり翔太先輩は音無部長の幼なじみなんですね。で、翔太先輩のナンプレオタクは音無部長のせんの──もとい、影響を受けて生まれたものだと。
「でも、ボクはナンバーコレクトとは違う目的があるんだよね」
お、それは興味深い。
音無部長がお披露目してくれたナンバープレートの写真の数々(なんと番号順に並べてあるという徹底ぶり)に異常性を感じ、疲れていた僕としては、路線の違う話というのは興味をそそるものだった。
が。
「ボクはね、日本地図を作りたいんだ!」
……………
僕は霞月先輩を見た。
「先輩、ここってナンプレ部でしたよね?」
「うん、名前は合ってるよ」
入室時と同じ回答が返ってきた。
「たとえ正式名称がナンバープレート部だとしても、ここはナンプレ部ですよね?」
「うん、そうだね。学校のホームページにもそう書いてある」
「ナンバープレートって、数字の書かれた車についているあれですよね?」
「うん、一般常識だね。間違いないよ」
僕は確認を終え、くるりと翔太先輩に向き直る。
「どうして地図になるんだぁぁぁっ!?」
叫ぶ僕を霞月先輩がどうどうと宥める。僕は馬じゃないけれど、そういえばここは図書室でした。ごめんなさい。
「センパイ、センパイがナンバー派なのはわかるんですけどね。ボクはご当地ナンバー派ってやつなんです」
ご当地ナンバー? ……ああ、わかった。
「名古屋とか、北海道とか、四桁のナンバーの上についているあれね」
「さすがセンパイ! よくご存知で」
目のきらきらを増して尊敬の眼差しで僕を見る翔太先輩。
いや、一般常識だからね? 褒められるほどのことじゃない。
「……それで、ご当地ナンバーを集めて日本地図を作りたい、と」
「はい! だからボクは東京の大学に進学して、ご当地ナンバーコレクトするんです」
「ナントモスバラシイモクヒョウデスネー」
もう、棒読みである。
ちなみに翔太先輩は翔太先輩でご当地ナンバーコレクトのアルバムがあるらしいが、あまり市外に出る機会がなかったらしく、音無部長のそれほどではない。
いや、音無部長よりナンバープレートにディープな人いたら引くわ。
「宮城、秋田、山形、会津、青森、福島、仙台……」
「東北ばかりだな」
音無部長のツッコミが入るが仕方ない。ここは東北なのだから。
「部長のだって、宮城か仙台ばかりじゃないですか」
「うっ」
先刻確認済だ。苦い顔をする部長に一矢報いた! と心の中でガッツポーズするが、いやこの程度で一矢報いたって、なんか虚しい。
というか。
「近頃は……数年前の震災があってから、結構色んなところの車走ってますよ? 八戸ナンバーとか、福岡ナンバーとか。僕は最近姫路ナンバー見ましたね」
主にダンプカーで。復興支援に来ている方々だろう。感謝しなくては。
「何っ!?」
「音無部長の先を行くとはさすがセンパイ!!」
──僕が真面目なことを考え出したのに対し、ナンプレオタ二人はこのとおりである。こら、少しは真面目に感謝しろ。
「そういえば確かに、色んなの見るたび、感じるものがあるよね。僕も福岡ナンバー見たときはそんな遠くから来てくれているんだって感動したよ」
ほら、皆さん! 模範のような霞月先輩の解答を見習いなさい!
そんな意味を込め、オタ二人に鋭い視線を送ると。
「そ、蒼真までっ!」
「霞月先輩もすごい……」
僕の視線は完全スルーで霞月先輩に畏敬の眼差しを向けていましたとさ。
僕、今日スルーされやすいな。
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