第3話
一気に冷えた。昨日まで二十五度はあったのに、今日の最高気温は二十度を切る予定。
「はぁはぁ…はぁ…ぅっ……くはっ…」
(苦しい…)
「はぁ、はぁ…はぁ……ちー、ちゃん…」
横になっていられない息苦しさにつむぎは身体を起こす。
「しゃむ、ぃ…」
外はまだ暗く、近くのマンションの灯りが眩しい。
「ねれん…」
眠れないまま布団に潜っていても摩擦で余計気持ち悪くなるのがわかっている。部屋を出て洗面所に向かう。何をするあてもなく、なんとなくゲームを開いた。何も考えずに過ごせる。それだけで良い。ゆっくりすぎる時間の流れから目を背けられるのなら。
(発作?過呼吸?どっち…)
どっちにしろ、息が苦しいことに変わりはない。
(たすけて、ちーちゃん…)
——そんな声出さないの——
——心配かけないで——
——あなたが丈夫だったらねぇ…——
——今月の医療費が——
(ごめんなさい、わざとじゃないの、ごめんなさい…弱くてごめんなさい……見捨てないで、母上…。)
直接思い出せない繰り返しきこえる幻。
(いや、嫌だ、ごめんなさい…)
狭まった視界で自室に戻る。
(寝れるといいな…)
五時半前。まだ寝る時間ではあるが、二度寝する気は起きなかった。
(僕はいらない子、やね…。欠陥品…)
首に手を当てて少し力を入れる。
「はぁ、はぁ…くっ……はっ、はっ、はー、はっ、はぁはぁ…んっ……」
もともと息が苦しくなりやすいつむぎはすぐに手を離した。もともと、握力も弱い。
「なんで…?」
死ねないの?生まれてきたの?生き続けてるの?生きてて良いの?そんな疑問が拭えない。
(ちーちゃんに、ちーちゃんの強制しないあの声で、生きてほしいって、生きて良いんだよって言ってほしい。必要だって言って…)
「ちーちゃんだけが光なの…」
視界が馴染む。息が苦しい。
(このまま消えれたら楽なのに…)
ゴトッ。
二階のドアが開く。階段を降りる音が聞こえた。
来るっ…——!
静かに横になり、布団をかける。寝てる風を装って動向を窺う。いつの間にか、眠りに落ちていた。
「おはよぉ」
朝食の用意ができた音を聞いてリビングに顔を出す。
「おう。おはよう、つむぎちゃん」
「ん」
(意識しない、意識しない…)
つむぎは父親のそばだと息が苦しくなる。
(大丈夫…)
「いただきまーす」
サンドウィッチととうもろこし、柿。朝食を食べ、自室に籠る。両親が家を出るまで、極力接点を消す。
「じゃ〜つむぎー!行ってくるよ〜」
「ん〜」
適当に返して母が出て行った。遅れること数十分、父も家を出る。
「行ってくるねぇ、元気なしてるんだよぉ〜つむぎちゃ〜ん」
「うぃ〜」
(はいはい、ウザいです黙ってください)
つむぎはひとりになった家でゲームをしてライフが貯まるまでY○uTubeを流してキャラソンやアニソンを思う存分歌った。息継ぎをするとたまに咳が出る。歌い出しのときに声が出せないこともある。アイドル育成ゲームを掛け持ちしているつむぎに推しの曲を歌い切れないといたのは悔しいものだった。それでも午前中は歌い続け、歌いたりないほどの好きな歌がある。でも…。
(身体がキツい、息苦しい…)
断念するほかなかった。
母が置いて行ってくれたお弁当を冷蔵庫から出してレンジで五十秒。ピックが刺さったおかずとおにぎり。
「いただきます」
お昼ご飯の間もキャラソンを流して推しを満喫した。午後はというと布団と椅子を行き来した。母が帰ってくるまでは。
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