第2話
ピンポーン…。ピンポンピンポン
呼び鈴が連打される。
(土曜なんだし、寝かせてくれない?)
秋とはいえ、まだ今年は陽射しが強い。つむぎの体質的には目を開けるのも頑張る必要がある。時計は九時半近くを指している。母は週末の買い出しと、父は会社で現在ひとりだ。
「陽が出てるうちは寝る時間なのにぃ〜…」
仕方ないなぁと起き上がり、ボサボサ髪でパジャマのままインターフォンに応える。
「ん〜なに?」
チラチラと金髪が見える。その人物は何も話さない。
「ちゃんと立ったらどうなん?側から見たら不審者ぞ?」
「ちょっと、不審者呼びは酷くない⁈つーちゃん、あーけーて!」
ちゃんと画面に映った彼女は仁王立ちして腰を手に当てている。
「…通報しても良い?」
「え〜!今日ご機嫌ナナメな感じ?」
「人が気持ちよ〜く寝てるところをピンポンしまくって起こしたの誰かな」
「いつものことじゃん!」
「永眠妨害」
「それ死んじゃうやつだからね⁈」
そう、いつものことだ。正確にはいつものことだった。義務教育を受けていた三年前までつむぎは
「それはつーちゃんがお母さまに起こされても反応しないくせに、私ならすぐ起きたからでしょ?お母さまの朝ごはん好きだから嬉しかったけどね?」
「あれはちーちゃんが布団にまで来るからだよ」
「はいはい、ってことで鍵開けて?」
「玄関まで行くのめんどくさいから鍵使ってよ…」
「はーい♪」
家鍵二つを開けて千暁が入ってくる。
「お邪魔しまーす」
「やっほ〜ちーちゃん」
食卓の椅子に座ったつむぎは眠たげに手を振る。雲龍家は三人だが、千暁用の椅子や食器もある。自分のコップに水を注いで飲む。
「ちーちゃん、血ちょーだい」
「唐突だねぇ…」
「まだなの」
「いーよ」
膝立ちしている千暁の左手を握って人差し指を咥えて血を吸う。つむぎは自分と家族と千暁の血の味以外知らない。興味がなかった。血を吸われてる間、千暁は目を瞑る。ペロッと最後に舐められるのが吸血終了の合図だ。
「美味しかったぁ、傷洗って絆創膏ね〜」
吸血後に使う箱を棚から出して傷の手当てをする。洗い流して消毒して、拭き取って、絆創膏。いつもの流れだ。
(綺麗…)
千暁が吸血後に見るつむぎの目はいつも赤に変わっている。吸血鬼と人間が共存する世界線のアニメでも血を吸うときは色変わってたよね、と考えながら微笑ましく見つめている。
三日に一度は血を吸わないとつむぎは生きていけない。そのために指や手首、腕には定期的に傷を作っている。場所が場所のために、誤解を招きかねないが本人は仕方がないと割り切っていた。血を吸わなければ呼吸困難、嘔吐、高熱、目眩、痙攣、頭痛、腹痛を起こして死ぬ。それ以外にも朝や昼は体調が毎日良くない等、昼間に活動する現代社会では生きづらい性質だ。
「で、何の用?」
「ん〜なんとなく?また家に引き籠ってんのかな〜って。つーちゃんってほら、ボロボロになっても使い続けるから。この前なんてスニーカーの靴底割れたたし?秋服見に行かないかな〜みたいな?」
「なるほどねぇ…」
つむぎのクローゼットには小学生の頃から着続けている服もあり、母親が言っても聞かなかった。だってまだ着れるから、と。
「めんどくさい…」
「知ってた」
「ちーちゃん連れてってくれるなら行く」
「わかった。なら着替えてきて」
「ん!」
つむぎはあくびしながら外出着に着替える。地雷系の夏ワンピースにカーディガンを重ねてニーハイソックス。細い身体に服が大きく見えた。
「どこ行くん?」
「A○ail」
「ふ〜ん」
バスで終点・夜月まで向かう。そこから徒歩二十分程度だ。バスの中でもつむぎは眠って千暁を枕にした。
「時間あらば寝てるよね」
千暁はつむぎの手を握る。流れる景色に時の流れを感じながらつむぎを支えた。
「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、夜月です。…」
車内アナウンスが流れる。
「つーちゃん、つーちゃん起きて。もうすぐつくって」
つむぎの肩を軽く叩いて起こす。
「睡眠妨害…」
眠たげに目をこすってふぁ〜あと伸びる。
「おはよ」
「おはよぉ」
まだ眠そうだ。
「心臓に悪い…」
「歩けそう?」
少し間を置いてから「…運んで」と言った。
「バス降りるのだけは頑張って?」
「ん」
つむぎは体調が悪くても、悪くなくても、自分の足で歩きたくない。が、完全に無理をしてるときは決まって自分で動こうとする。
(大丈夫そう?)
バスを降りてつむぎは千暁にお姫様抱っこされた。その中で眠りにつく。日陰のない道のため、大きめのタオルをつむぎにかける。これもつむぎの体質への配慮だ。陽に当たると体力の消耗が激しい。
人ゆえに灰や塵にはならないものの、日光にも弱い。この吸血鬼のような体質は雲龍の一族共通であるが、個人差が大きい。いつから血が必要になるか、飲めるか否か、日光の耐性、鏡に映らない者もいる。
「ついたよ」
店内に入ってつむぎを起こす。
「きみ、どこでも寝るよねぇ…つーちゃん。おーきーる!」
「ふぁあ…?ちゅいたぁ?」
「ついたよ」
「あ〜と」
眠たさMAXの感謝を受け取り、店内を歩く。地雷系の服しか興味がない二人は好きだと思った服を試着し、見せ合って会計に進んだ。二人で二万強。三着ずつ。良いところだろうと店を出る。
「帰ろうか」
「ん…」
帰ったら三時前後だろう。
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