第25話 邂逅

 「うまくいったな」


 フレイルが呟く。

 エイトら三人はフレイルのもとに駆け寄る。

 

 「エイトとセフィア、同行してくれた二人の協力のおかげだ。二人とも大したものだな」


 「ありがとう。でもフレイルとリーザは俺たちより戦い慣れしている分、動きの判断が早くて頼りになるよ」


 「フレイルさんもリーザさんも一瞬の隙を見逃さずに、正確な攻撃をしていてかっこよかったです。ところでケガなどはしませんでしたか?私が治しますが」


 「いや大丈夫だ。心配はいらないよ」


 一難あっても、乗り越えたことにより四人の気は晴れやかになる。

 互いの強みを引き出しながら、協力して戦えたことはパーティーとしての心の距離も自然と近くなる。

 三人が特に気にしていたフレイルの様子も、今は平静で落ち着いているように見えた。


 「それにしてもこれだけ操り人形と遭遇するってことは、デュバルは相当な数を森に解き放っているんでしょうね」


 リーザが巨大な操り人形の倒れた残骸を見ながら言う。

 半ばやみくもに森の中を歩いていながらも、すでに複数回操り人形と遭遇している。

 この現状を鑑みる。

 

 「となるとデュバルがここにいるのは確実でしょうか。トラクフの都市にいる人々もこの異変に気付いてもおかしくないような気がしますが……」


 「ああ。実際昨日見た少女のように、被害を受けた者も出ている。だが一つ腑に落ちないのはデュバルの目的だ。奴はこんな大仰なことをしてどうするつもりだ。……やはりトラクフへの侵略か?あの時と、ストルの時と同じように……」


 在りし日の光景と結びついて織りなされた一つの想念に、フレイルの顔は険しくも愁いを帯びた表情に変わる。それはどこかおびえているようにも見えた。

 凄惨たる過去が引き金となってフレイルの感情は揺れ動く。

 彼女にとって過去はトラウマであり、束縛する鉄鎖でありながらも、ある種では生きる目的にもなっているのだろう。

 彼女自身でも筆舌し難く、はっきりと見渡せない闇となっていた。

 であれば他の三人からすればより一層踏み込みづらい問題である。三人はフレイルにかける言葉に窮する。


 「だけど今回は……」


 しかしまごつく三人をよそにフレイルは俯きながら、小さくもはっきりと言葉を紡ぐ。


 「もう私は逃げたりしない。必ず決着をつける。そしてトラクフも、私とみんなの手で守ってみせる」


 「フレイル……!」


 最も心配していたリーザはフレイルの声を聞くと安堵の色を浮かべた。

 フレイルは気張っているようにも見えるが、それでも前向きな明るさを感じさせる様子であったのだ。


 「トラクフの未来を救うためにもな」


 フレイルはエイトに目配せをする。

 エイトは以前フレイルに言った言葉が彼女の心の内に受け止め、支えになっていることに、喜びを感じた。


 「ああそうだよ。みんなで頑張ろうぜ。必ずデュバルを倒そう!」


 「もう、あんまり張り切りすぎちゃだめよ」


 リーザがたしなめる。だがその声もどこか軽く、冗談めいたものだった。

 四人の意志が同じ方向に向かっているのを皆が感じた。

 パーティーの一体感の向上は互いの士気を高める。


 「引き続き森の探索を続けよう。もしかしたらすぐにデュバルと相まみえることになるかもしれないし」


 「まさかそんな簡単にはいかないと思いますよ……」


 セフィアが微笑みながら言う。

 だがそのセリフは全く予期しない者によって、藪から棒に返される。


 「そのは現実に起こりうるのだ」


 声の主は草木の影から悠然と姿を現す。


 「お前は……!?」


 その姿を見て真っ先に、頭で考えるよりも早く鋭い声を漏らしたのはフレイルだった。


 「私の人形が何体か破壊されたのを感じ取って来てみれば、冒険者がいたのか」


 エイトはこんな森の奥で一体誰が一人で行動しているのかと疑問に思った。

 だが、フレイルの後ろ姿からでも伝わるほどの、ただならぬ雰囲気を漂わせているのを認め、すぐにこの男が何者なのか答えが出た。


 「こいつが……デュバル!!」


 デュバルは四人の動揺にもどこ吹く風という風に、飄々とただずんでいる。

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