第23話 歩み寄る運命

 ラクフの森を鷹揚と歩く男がいる。

 静謐でありながらも雅な青いフロックを身にまとい、色のいい白髪は整然と後ろにかきあげられている。

 魔王軍幹部、そして、エイトやフレイルが追っているデュバルである。


 「一体どうしてこの私がこんなところにいるのか……」


 デュバルの後ろには無数の操り人形が追従している。

 意志を持たず、ただ主の命令に黙然と従う操り人形。

 操り人形の関節部が擦れる耳障りな音がラクフの森に響き渡る。

 草木を無遠慮に踏みつけ、仰々しく移動するその光景は、さながら百鬼夜行のようであった。


 「も突飛なことを言いなさる。ラクフを探し出せ、だなんて。ラクフだなんて本当にあるのかないのかもわからないというのに。それに花を探すだけなら幹部である私ではなくて適当な兵にやらせればいいものを」


 デュバルは嘆息を一つもらす。


 「しかし無駄なことを意味もなく口にする方でもあるまい。この場に行くように命じられたのは何か他に真意があるのか……。あの方の考えは私でも推し量れないからな。だが実際、ただの勘だが、何か面白いことが起こる気はするのだがな。もう少し探してみるか」


 デュバルは筆舌し難い得体の知れない衝動にとりつかれたように、突き動かされる。

 彼はその衝動の正体が、フレイルという決して断ち切ることのできない運命であることをまだ知らない。




◇◇◇◇◇



 エイトはラクフの森に再び足を踏み入れた。

 しかし今回は前回と異なり、不断の確固たる目的があった。

 

 (デュバルを見つけ出し、倒すこと)


 前回は軽く森を散策するような気分でいたが、今はデュバルとその操り人形という明確な敵と遭遇する可能性があるため、神経を巡らせている。

 それでも憂いや緊張だけが心を支配しているわけではなかった。

 今は新たに出来た仲間がいる。

 先頭をフレイルが銀色の髪をなびかせながら歩いている。


 「しかし他人の能力を強化する魔導具とはな」


 フレイルが驚きと感心を含んだ声色で言う。


 「世の中色んなものがあるのね」


 リーザは草木がまばらに生い茂る森の中でありながらも、軽快な足取りで辺りを警戒しながら三人の後ろについていた。


 エイトたちは共に行動するにあたって必要なこととして、各々何ができるのか情報を共有していた。

 

 「しかしリーザの索敵技術と弓の腕前は目を見張るものがあったな」


 四人はすでに森に入ってから操り人形と交戦をしていた。

 だがそれはリーザが相手に感知されるよりも先に矢による攻撃を行い、一撃で仕留めたのであった。

 エイトが特に驚いたのは彼女が弦に二本の矢を乗せて同時に発射し、それを見事に命中させたことである。

 木々の遮蔽物が多く点在している中で、これほどの命中精度を誇っていることは弓使いとしての練度の高さを伝えるには充分であった。


 「私が生まれ育った場所が森の中だったからね。索敵もお手の物よ。それに矢だって同時に四本までなら狙った的に当てれられるんだから」


 「リーザはD級冒険者だが、実力はC級にも後れを取っていないからな」


 フレイルが重ねて言った。

 フレイルはリーザについての発言であったが、自分のことを話すように誇らしげであった。


 「フレイルさんも魔法が使えるのですよね?」


 「ああ。と言ってもセフィアのようには使えないがな。一つしか使えない。たまたま適性があって、戦闘で使えそうだから習得したんだ」


 本職の魔法使いであるセフィアに対して、控えめに微笑を浮かべてフレイルは答える。


 「みんな止まって!」


 突然リーザが矢のように鋭く言葉を発し、一同が歩みを止める。


 「先に何かいる。おそらく操り人形だけど、今までとは違う」


 すると体を震わす地鳴りのような、鈍重な音が辺りに響き始めた。

 その音はだんだんと大きく聞こえてくる。

 

 「あれも操り人形なのか!?」


 目を凝らした先には木々の高さにまで匹敵するほどの大きさを持つ、巨大な操り人形の姿があった。

 その操り人形は丸太のような重厚な腕でもって、行く手を阻む木々をなぎ倒しながらこちらに向かって進んでいる。


 「的が大きくて助かるわ!」


 リーザがすぐに二本の矢を同時に発射した。

 正確無比な矢は胴と顔に見事に命中する。

 が、甲高い金属音を伴って、矢は二本ともはじき返され、操り人形の足元にむなしく落ちる。


 「そう簡単には倒せなさそうだな」


 フレイルが評する。

 実際巨大な操り人形のその巨躯は甲冑のようなものが取り付けられており、リーザの攻撃も矢傷どころか微かな痕が残る程度にとどまった。


 「ならば私の魔法で! 《雷撃ライトニング》!」


 セフィアが続けざまに攻撃を加える。

 しかし心臓部目掛けたその攻撃も片方の手を盾とすることで、造作もなく防がれてしまう。


 「こんなあっさり防がれるだなんて……」


 「どうやって倒す!?」


 眼前の巨大な敵の頑強な体躯が、エイトらに勝利に対する不安感と緊張を呼び起こす。

 だがエイトらと対極的に、フレイルの赤い瞳は闘志で満ち満ちていた。


 「私が前に出よう」

 

 そういったフレイルは堂々たる足取りで、操り人形と対峙する。

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