第22話 仲間として
エイトは店を出るとすぐにフレイルを見つけた。
彼女は出入口の横手の壁に、もたれかかりながら夜空を見上げていた。
フレイルはちらと横目でエイトを認めるが、すぐに上を向き視線を戻した。
彼もフレイルと同じように壁にもたれかかりながら、すぐそばに立つ。
「突然あんな話をして驚いただろう。すまないな。最近は何だか気持ちが
今のフレイルからは先程のような弱弱しさは感じられなかった。
気も落ち着いたのか、佇まいも凛としていて、堂々とした雰囲気に戻っていた。
「どうして私は今日初めて会ったエイトとセフィアに自分の過去を語ったのだろうか。……いや本当の理由は私がわかっている。当たり前のことだが一番よくわかっている。きっと肯定してもらいたかったのだろう。自分がなそうとしていることを、そしてやってきたことを。……あるいは慰めてほしかったのだろうな、私の境遇を。どこまでもあさましい自分に呆れると同時に泣けてくるな、はは」
フレイルは自虐めいたことを口にし、乾いた笑いをする。
(何というか親近感はあるな。自分の行動を顧みて、一人で反省してしまうタイプだよな。まあフレイルは壮絶な過去を背負っている分、俺なんかと同じにするのは失礼かもしれないけど)
特にストルでの悲劇は何度も思い返したのだろう。
十年という彼女の人生の半分以上を占める月日は、彼女にとってあまりに長いといえる。
その間に何度もフレイルは自責をしたことだろう。
フレイルは自分に罪があるのではと問いかけ続けていた。
その疑念は心の中で反射し続け、十年という時を経て、彼女の中で確かな事実として作り上げられた。
今さら周りがフレイルは悪くない、という言葉を語りかけたとしても、一時的な慰めとしての作用はするだろうが、彼女の心境は変わることはないだろう。
このことはエイトにも想像できた。
だがそのままフレイルに罪がある、と彼女の考えを肯定するほどエイトは薄情な人間にはなれなかった。
「俺はフレイルのような凄惨な過去を経験したこともないし、人生を捧げられるような強い決意を抱いていないし、誇るべき家の名前も持っていない。だから俺が何か言う権利はないのかもしれない。けれど、これから共に戦う
「……エイト」
フレイルはエイトの方に顔を向ける。
エイトが言った仲間という言葉を聞いた時、フレイルの目の色が変わったように彼には見えた。
「……デュバルを倒した後のことを考えて欲しいんだ」
「倒した後のこと?」
不意な質問に、フレイルの赤い双眸が丸く大きく開かれる。
「そうだ。フレイルの中ではデュバルを倒したとして、その先の人生のことを考えたりしているのか?」
「……自ら命を絶つつもりでいる」
「……いや重いな。でもそんなことだろうとも思ったけど。俺が言いたいのはさ、未来を救済するために生きていけばいいと思うんだ」
「どういうことだ?」
フレイルははっきりと言葉の意図がつかめないという風に、神妙に訊ねる。
「ストルで起きたことは多くの悲しみが伴ったはずだ。だから今度はその悲劇を繰り返さないために戦えばいいと思うんだ。例えば、今デュバルが近くにいるってことはここトラクフが危ないってことだろ。同じ思いを、同じ悲劇を繰り返さないために戦うんだよ。敵はデュバルだけじゃない。魔王軍はまだまだ厄災を振りまいていくだろう。それを阻止するんだ。未来に起こりうる悲劇から正しき者を救うために戦い、生き続けるんだよ」
「…………」
フレイルはエイトの話を彼の顔をまっすぐに見つめながら、黙然と聞いている。
「それに自ら命を絶つだなんて悲しいこと言わないでくれよ。俺やセフィアにとってはもう赤の他人じゃないんだしさ。もしフレイルがこの世からいなくなったら何よりリーザが一番悲しむはずだ。さっきもリーザはフレイルのことを凄く心配していたしさ。リーザは誰よりもフレイルのことを大切に思っているよ」
エイトは柄になく真面目なこと言っているせいか、話している最中に所々言葉に詰まっていた。
うまく言い表せず、流暢に話せない自分に歯がゆさを覚えた。
それでも何とか最後まで言い切った。
エイトは自分が言ったことは理屈や道理に順じたものではないかもしれない、と思った。
しかしフレイルに対する純真で真摯な良心は何とか伝えておきたかった。
「未来のためにか……。確かにそうだな。貴いものだな、それは。それにリーザにはいつも迷惑をかけている。彼女には笑っていてほしいものだ。ありがとうエイト、今一度自分の人生を考えてみるよ」
「ああ!それがいいよ」
エイトは彼女に少なからず前向きな考えをさせることが出来たことに、心を喜ばせた。
フレイルの銀色の髪が夜風になびく。
彼女の雰囲気には相変わらず暗い陰りがあったが、それでも心なしか表情は明るくなったようにエイトには見えた。
「未来の前に先ずは今の問題を片付けないとな。デュバルを倒さねば」
フレイルがもたれかかった上体を起こしながら言う。
「そうだな。そろそろ戻ろうか」
二人は並んで店の中に入る。
仲間が待っているのだ。
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