第21話 リーザの思い

 蠟燭ろうそくに灯された橙色だいいろの淡い光が、一同の影を作り出し、ゆらゆらと神妙にたゆたう。

 エイトには目の前にいるフレイルの影が一際色濃くなっているように見えた。


 彼女の過去の告白は簡単には言い表せない、並々ならぬ衝撃を与えた。

 何もせずに時間を消費するだけの人生を歩んできたエイトには、とっさに今言うべきセリフが思いつかなかった。

 それはセフィアも同様であった。

 セフィアは戸惑いながらも、フレイルに対し憐れむような目を向けていた。


 話をしていたフレイルは初めの方は過去の日々を懐かしむような、やわかい表情と調子で語っていた。これにはエイトとセフィアも柔和な笑みを浮かべるほどであった。

 しかし途中からは自身のかつての行いを卑下するような、せせら笑いをしたかと思えば、今にも泣きだしてしまいそうな苦悶の表情を浮かべることがあった。

 エイトには彼女の過去が人生のすべてをむしばんでいるように見えた。


 「……すまないな。会って間もないのにいきなりこんな話をして。少し夜風にあたってくるよ」


 そう言うとフレイルは立ち上がり、出口の方に向かっていった。

 揺れ動く感情の起伏によって疲れたのか、その足取りは重かった。

 リーザは後を追おうと腰を上げたが、すぐに座り直し、セフィアとエイトに顔を向けた。


 「ねえどうかあの子を責めないで上げて。フレイルは強く責任を感じているけど、本当に悪いのはデュバルであって、彼女はただの被害者なんだから」


 リーザは力強く、二人の目を交互に見やりながら言った。


 「もちろんわかっていますよ。フレイルさんが気に病む必要などないと思います。それなのにあんなに苦しんで……」


 セフィアは変わらず同情の色を浮かべ、リーザの言ったことに対し頷く。


 「本当にあんなに自分を責め立てる必要はないのに。彼女普段は自分の家の名前に傷をつけないようにって、気丈に振舞っているの。でも内実彼女は十分に傷ついている。夜なんて時折一人ですすり泣いたりしているのよ。あなた達もデュバルを倒そうとしているのでしょう?だからお願い!フレイルのためにも一緒に戦ってくれない?」


 リーザは懇願するように身を乗り出しながら訊ねる。


 「もちろん戦うよ。こちらとしても心強いし。それにとても放っておけないしね」


 「はい!共に戦いましょう。私たちも全力を尽くします」


 「ありがとう!やっぱりエイトとセフィアはいい人間ね。この見た目でも私はエルフだからあなた達よりずっと長生きしているのよ。普通よりかは上等な審美眼を備えているつもりよ。一目見た時からあなたたちは善良な人間だと思ったわ。きっとフレイルもそう思って過去を語ったのかもしれない。いつもはそんなに語りたがらないから」


 エイトとセフィアの同意の意志を聞くと、リーザの桃色の双眸は燦然さんぜんとした輝きを放った。

 抱いていた不安が取り除かれたからか、せきを切ったようにリーザはしきりに話し始めた。


 「フレイルは罪に対しては罰が必要だって言っていたけど、もう十分に罰は受けていると思うの。だって十年間よ。彼女の人生の半分以上を過去と向き合うことに費やしているのよ。過去がくびきとなっているせいで自由なんて持ちあわえていないものよ。フレイルはデュバルを倒すことが自身を、そして失われたストルにあったものを救済する唯一の手段だと思っているのよ。私はそんなことしなくてもいいと思っているけど彼女が望んでいるのなら叶えてあげたい。……でないとあの子はかすみのように消え去ってしまいそうだから」


 リーザは常々抱いている愁いを表すように、両手を胸にあてがう。


 「……リーザさんとフレイルさんはどういった経緯でともに行動するようになったのですか?」


 「別に大した話ではないわ。冒険者として活動している時に、たまたま出会っただけよ。その時から猪突猛進というか、危なっかしい感じで私としても放っておけなかったのよ。私のお節介な性分のせいかしらね。……そろそろあの子を呼び戻そうかしら」


 そう言ってリーザが席を立とうとする。


 「俺が行くよ」


 エイトが遮るように口を挟む。


「多分リーザより俺かセフィアが行った方がフレイルも安心すると思うしさ。フレイルのあの話を聞いたからって、彼女を嫌いになったりなんかしてないってことをしっかりと伝えたいし」


 「それもそうね。エイトにお願いするわ」


 リーザは優しい声色でエイトに頼み込んだ。

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