第14話 トラクフ
陽気な暖かい日差しが降り注ぐ晴れの日。
空には手で数えられるほどの綿のような雲が高く浮かんでおり、人を自然と陽気にさせるような、そんな天気であった。
エイトとセフィアは深い付き合いとは言えないまでも、短期間の間に交流があった人達に
馬車での移動などエイトの人生経験にはなかったが、特に戸惑うことなく過ごすことが出来た。
「お客さん!もう少しでトラクフに着きますよ!」
馬を操る
「そろそろ到着するのか」
エイトが両腕を伸ばして体をほぐしながら言った。
「流石に少し疲れましたね。着いたら一度宿をとりましょうか。お金にもまだ余裕はありますし、少し街の中を見てみるのもいいかもしれませんね」
「そうだな、いったいどんな街か楽しみだな」
二人は新たに訪れるトラクフに対して、年相応の浮ついた旅行気分に浸っていた。
「お客さん!荷物をまとめてそろそろ降りる準備をしてくださいね!」
馭者の声が響く。
エイトとセフィアはその声を聞きそそくさと荷物をまとめながら、トラクフでどんな体験が待ち受けているのかと、期待を膨らました。
◇◇◇◇◇◇
「ここがトラクフか。人も多くて活気があるな」
トラクフに到着した二人は、宿を求めて歩きながら街の様子を観察する。
エイトが初めて訪れたタルテスタと街の様相がはっきりと変わっているわけではないが、どこか粋で豪華な建物が散見していた。
「ここでは商売が盛んに行われていますからね。その分お金を持っている方も多いのでしょう。この都市自体が他の都市よりも発展していますね」
「どうしてそんなにここだけ発展しているんだ?」
「原因はラクフですよ。この花が人や富をこの地に集約させたのです。噂ですがラクフは七色に輝いており、過去に取引された際は一生遊んでも使い切れないほどの値が付いたそうですよ。他にも花を持っているものは不運なことに全く見舞われなくなるとか。まあこんな話を聞きつけて様々な場所から人が来るようになり、その人たちが金を使い、物を落とすようになり、そしてそれらを元手に商売が盛んになり、今の発展に導いたということみたいです」
「今の話を聞くとラクフの花の名前を都市名にするのも納得できるな」
「ラクフの効果などの話は眉唾物ですが、この都市をここまで大きくしたのですから、ある意味では力が宿っていると言ってもいいのかもしれませんね」
エイトはこの都市は様々な姿があって面白いと感じた。
何か追われるようにせわしなく足を動かす獣人や加工するための資材を担ぎ悠々と歩くドワーフ、しゃれて見るからに上等な外衣を纏った恰幅の良い男など、ただ眺めているだけでも退屈はしない街であった。
エイトは周囲を歩く者たちに気を取られ、前方から迷う様子もなく向かってくる陰に少しも気付かなかった。
「おっと」
その影に手が届く距離になってようやく、気が付いたエイトであったが、反応が遅れてしまったため互いの肩がぶつかりよろめく。
「すみません、よく見てなくて」
彼は反射的に腰を低くして謝る。
「いや、こちらこそすまなかった。考え事をしていたもので……。けがはないか?」
そう言って手を差し出しながら、謝罪をしたのは眩いほどの
エイトはその姿を一瞥するや否や、騎士か何かと思った。
彼女は髪色と同じく白銀の甲冑を身につけ、腰に刺さる剣の鞘には彫金が施されていて精妙さがうかがえる。
少なくともエイトにはそのように思われたし、その目に見られたとき一瞬背筋が凍り付いたかのように思われた。
「別にカツアゲをしようとかしているわけではないぞ。本当に偶然ぶつかってしまっただけなんだ」
うろたえるエイトを見て彼の心中などなどつゆ知らない
「それはもちろんわかっていますよ。ただ俺の気のせいでした。気にしないで」
「そうか。では私は予定があるので失礼する」
彼女はくるりと身をひるがえし、再び歩み始め群衆の中に消えていった。
「大丈夫ですか?……それにしても近寄りがたい雰囲気でしたが、紳士的できれいな方でしたね」
一連の流れを隣で静観していたセフィアがエイトの身を案じながら、
「そうだな。親切だったけど、何というか危なげな感じのある人だったな……。でも変なトラブルにならなくてよかったな」
ちょっとした、些末な出来事だと判断し、エイトはいつもの声の調子でセフィアに話しかける。
「本当にそうですね。冒険者は社会的信用も求められますから、トラブルなどはなるべく避けていきたいものです」
「……なあセフィア。今思ったんだがやっぱりラクフをダメもとでも探してみないか?強化の指輪のこともあるし、こんなにいろんな人を引き付けるラクフという花に俄然興味がわいたんだ。生えていると言われる森も危険な場所ではないんだろ?」
「魔物とかは出る場所ではありませんね。子供なども宝探し感覚で踏み込むような森です。さしあった問題や目的もありませんし探してみましょうか、ラクフを!」
ラクフの存在に懐疑的であったセフィアだったがエイトの提案に応じてくれたのを見て、エイトも自然と穏やかな笑みがこぼれた。
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