第2話 若いってだけで財産
ホームレス、
隣にいる若い男はホームレスの生活とはどのようなものかを体験するために貯金を全て使ってからここに来た。動機は腹立たしいが、役に立つ情報屋なのでそばに置いている。
「
「立浪さん。飲料水の配布だそうです」
「立浪さん。
気力だけで生きて来た。親父の代から続く
子どもを養う為に相続のお金は必要だった。俺は借金を背負い家を出た。二十年から先は数えていない。六千万なんてそうそう返せる金額ではない。弁護士を
首をつるか、事故に見せかけて線路に落ちるか。事故の方がいいだろう。自殺では保険金は落ちないらしい。
「立浪さん、立浪さん」
ゆっくり顔を上げた。
「あぁ、大丈夫だ」
「顔色悪いですよ」
「ここいらにいる奴らで顔色がいい輩なんているかよ」
「確かに」
両手には湯気の立ったご飯と袋に入った梅干しが二つ。
「美味そうだな」
「野菜が無いのはバランス的にね。新米だそうですよ」
そうか、もう十月か。
「悪いことは言わない。こういうことは止めろ。冬は厳しいぞ」
「それくらい覚悟しています。ここで三年も四年も暮らすって」
「馬鹿野郎」
声が少しかすれた。
「冬を知らないから言えるんだ。こっちは新聞紙で寝ても夜中は凍えるくらい寒いんだ。死ぬよりひどい、ここで、この道で何人死ぬと思っているんだ」
「立浪さんこそ、死んでしまいますよ」
「おらあ、いいんだ。死んで借金取りに回収される保険金がかかっている。それでいいんだ」
「
「もう数十年前に生き別れた妻に迷惑をかけることは出来ない。元々、事業を拡大させるために親父が作った借金だ。アイツに迷惑はかけらんめぇよ。アンタはこれからだ。俺にはもう無い」
「立浪さん、
「は?」
「缶集めるの頑張ったんで、二人分の銭湯代があります。幸せを買いませんか」
最近は体を動かすことも辛く仕事が出来ていなかった。稼ぎはない。風呂は確かに
魅力的だ。
「ダメだ」
「なんでですか?」
「
「いいじゃないですか。知りましょうよ」
「ダメだ」
「じゃ、分かりました。僕銭湯行くの寂しいんでついてきてください」
「ああ? ここ取られたらもう場所ねぇぞ」
「また見つかりますよ」
「ここはな、この辺りでは珍しい。雨が当たらねぇとこなんだよ。そんなのすぐに持っていかれちまうよ」
若い男はあきらめたようだ。
「分かりました。そういうことなら仕方ないですね」
「ここは先代からもらった土地なんだよ」
「そうでしたか。すみませんでした。じゃ、裏にシャワー出来たんで行ってください。待ってます」
「お前」
「不安ですか。わかりました。僕は行って来ますね」
若い男はいいよ。若いってだけで財産だ。ちゃんと言ってやろう。まだやり直しが効く。貯金もすぐに
で、なんで俺の本名を知っているのだ
「立浪さん、お風呂持ってきました。ここいらの皆さんも入りましょう」
目の前に大きなたらいとたっぷりの水に大量のタオル。
「
信用してなかったみたいなので、試しに俺が水にタオルをつけて腕を拭くと気持ちいい。
シャツと下着を脱いだ。多分、
「おばあちゃんがアイデアマンで案をくれるんです。旦那を探しているって」
似ているな。さと子に。
「おじいちゃん、戻ってきなよ。銭湯もたくさんいこう」
若い男がそう言った瞬間悟った。
次の日、俺は酒をたらふく飲んで、線路の上に落ちた。
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