第2話 笑顔

「みんな、ありがとう。いい動きだったよ。」


円陣になって、集まる15人の少女は、皆、一様に笑顔だ。


私達の出陣式、いや、壮行会は、うまくいった。


普段、固い表情で話す校長は、いつもより笑顔だった。

校長は、他の紹介者もあったので、それぞれ丁寧に細かくコメントしていた。


話の長い校長には、うんざりだったが、私の挨拶を即興で、話に組み込んでいた。

私は、心の中でガッツポーズした。


校長とは、委員の仕事などで、話す機会は多い方だと思う。

教室に帰った後、メモをとるくせをつけておいて、良かった。


元野球部顧問の校長は、タイガースファンだった。


『・・・部長からあったように、名前を呼んでの応援を、・・・・』

『「あれ」の意味が分からないものは、野球部のクラスメイトに聞くように。』


皆の前に立つので緊張して、校長の話は、ほとんど、覚えていなかった。

あとで、クラスメイトに聞いておこうかな?


まだ、緊張が残っていた私は、相棒に“バトンタッチ”する。


説明が上手な彼女は、今日の集合時刻や訓練メニュー、今後の予定を皆に伝える。

全員が、気持ちを切り替えて、情報の共有に、集中して聞き入るのが、わかる。



彼女は、私なんかより、はるかに熟練者だ。

私は、ようやく選ばれても、補欠で、彼女は1年の時から、正選手だ。


彼女は、この競技の運動歴が、私より遥かに長い。

約3倍は、あるんじゃないか?


先生から指名されるのは、私ではなくて、彼女でも良かったはずだ。





クラスメイトは、私の愚痴をいつも聞いてくれる。

話をひとしきり、うなずきながら聞いてくれていた彼女は、私をからかった。


「声が、ひきつって、いたし。 あなただけ、動きが硬かったよ~」


でも、良かったんじゃない? 皆、すごい笑顔だったよ。

選手も、先生も、クラスメイトも、さ。


確かに、皆が私の席に、良かった、と言いに来てくれて、私は嬉しかった。



こんな日があっても、良いのかもしれない。


「みんな、ありがとう。」 「うれしい。」 「大好きだよ。」

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